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「宰相室から相談役の立場でお手伝いに参りました。セルドラル・マイケンです。補佐官達のご挨拶が済んだところで、これからの動きについて私の方からご説明させて頂けますでしょうか?」
丁寧な口調で始めたセルドラルさんですが。
先程までの補佐官達の自己紹介中とは打って変わって、顔付きを厳しく引き締めたお仕事モードのようです。
年齢は40歳くらいでしょうか、今日だけ参加のカリアンさんを除けば、1番の年長者ですね。
「お願いします。」
その返事を受けてセルドラルさんが頷き返して来ます。
「まずは、新部門の正式名称を決めるところから始めましょう。そして、活動目的とその詳細を簡単で良いので文書化して、5日後の御前会議で発表し、陛下の承認を得ます。組織としての発足と活動開始はそれからになります。具体的な活動方針や内容を作案しておくことは勿論必要なことですが、慌て過ぎないで下さい。」
確かに、何事も国王の承認が必要な国家体系でしたね。
どの道、直ぐに走りだす訳にはいかず、まずは情報収集と状況把握から始めなければいせません。
組織として対策を打つのはその後になります。
しかも、これも細かく一々国王承認が必要かもしれません。
国家という大きな組織は、だからこそ動きが遅くなってしまう訳ですが、そこはこちらの王女としての立場が何かしら活きることを願っています。
「では、名称からいきましょう。案を出して下さい。」
そこから始まったセルドラルさんの進行には、補佐官達が積極的に意見を出し始めます。
しばらくはそれを黙って見ていることにしたのですが、これは始めからお飾り責任者でも成り立つように人選してあったなというやる気のある優秀な補佐官達でした。
王弟殿下の采配は流石です。
とはいえ、視点が魔法使いを管理しましょうから離れないので、ここで一つ口出ししてみることにしようと思います。
「セルドラル殿、結論を出す前に一つお伺いしたいことがあるのですけれど。貴方は今王都に溢れている魔法使い達のことをどのように思っておられるのでしょうか? そして、彼等をどのように扱っていくべきだとお考えでしょうか?」
このいきなりな問いに、セルドラルさんは驚いたように一瞬目を見張ってから、直ぐに真面目な顔をこちらに向けて来ました。
「失礼致しました王女殿下、私が何かお気に触るようなことでも?」
「いいえ。貴方の考えておられることが知りたかっただけです。それが恐らく、王城内での一般的な認識になりそうなので、参考までに。」
そんな言葉を返して微笑み掛けると、少しだけ顔を強張らせたセルドラルさんが、それでも答えてくれました。
「言葉を濁しても仕方がありませんので、正直に感じたままを申し上げておきましょう。王都に入り込んだ魔法使い達は、非常に厄介な存在だと考えております。王都の街で連日騒ぎを起こし、ご存知の通り騎士団が対応に苦慮している有様です。かくなる上は、一刻も早くこの組織を立ち上げ、魔法使い達を無理矢理でも管理していく体制を整えていきたいと思っております。」
静かにこれに聞き入っていた補佐官達も同意見なのだろう。
「なるほど。セルドラル殿は、エダンミールに行かれたことは?」
「・・・いいえ、ございませんが。」
その怪訝そうな問いには少しだけ苦い笑みを返しておいた。
「エダンミールは、王宮内から辺境の街に至るまで、カダルシウスとは比べ物にならない程、暮らしの中に魔法や魔道具が活かされている国です。お陰で、王族から市井に暮らす平民までが、他国と比べても驚く程便利で整った生活環境の中で暮らしています。」
この話が何処に繋がるのかとセルドラルさんは眉を寄せたようです。
「他国とは一線を画したエダンミールのその魔法技術は何処から生み出されているのかと言えば、幾つも存在する魔王信者団体という名の組織に属して研究を続ける魔法使い達です。」
それが何かと小さく首を傾げ始めたセルドラルさんを横目に、話し続けます。
「今カダルシウスに入り込んでいる魔法使い達がどういった思惑の何処に属する、もしくは所属から脱して来た者達なのかは分かりません。ですが、彼等がカダルシウスにはない未知の魔法技術をもたらす人的資源であることは間違いありません。」
「ええ、ですから彼等を管理する組織をと今この場で話し合っているのではございませんか?」
待てずに言葉を挟んだセルドラルさんに、ふっと微笑み返します。
「管理すると一口に言いますが、それはどうやって? カダルシウスよりも発展した魔法技術を持つ彼等を集めて?捕まえて?押さえ付けて?従わせるのは、至難の業だと思いますよ?」
真面目に纏め上げると、セルドラルさんと補佐官達の顔付きが険しくなりました。
「では、この部門の立ち上げを意見された王女殿下はどのようにお考えなのでしょうか?」
セルドラルさんが強い瞳をこちらに向けて訊いて来ます。
「彼等は今、この王都での生活基盤を築こうと躍起になっていて、だからこそ元から王都に住んでいた魔法使いと衝突を繰り返しているようです。エダンミールから流れて来た魔法使いは彼の国の中枢にいた者達も多く、魔法の腕前も技術力も市井の魔法使い達とは桁外れです。この衝突は早晩、エダンミールから流れて来た魔法使い達に軍配が上がるでしょう。」
セルドラルさんと補佐官達の視線が刺さりそうですね。
「そうなる前に、カダルシウスは彼等をこちらの用意した組織に登録させ、人財として掌握する必要があります。これが間に合わなければ、カダルシウスは方針転換して力ずくでも彼等を王都から排除しなければならなくなります。でも、それには恐らく大きな犠牲と長い時間が掛かると思います。」
彼等をカダルシウスに引き入れるなら今しかないのだと、これだけは強調しておこうと思います。
「彼等は力無き難民ではないので、登録して組織に入った方がお得だと思わせる何かがなければいけません。簡単に言えば、登録することによって貴方がこの王都で生活基盤を築いていくことが出来ますよと、口当たり良く飴を撒いて彼等を掌握すること。これがわたくし達がまず初めにしなければならないことだと思っています。」
セルドラルさんが難しい顔になって何かを考え始めたようです。
「そういった下地を持つのならば、わたくし達がこれから立ち上げる組織の名称は、上から目線でこちらが管理するという言葉を用いるべきではないのではないでしょうか?」
「・・・なるほど。殿下の元に作られる組織は、魔法使いを国家として上から無理矢理管理する組織ではなく。貴方がたを国家として受け入れて面倒を見ますよ、だから登録して下さい。その代わり登録した魔法使いにはこういった特典があり、カダルシウス王都で暮らしやすくなりますよと。そう発信して搦め手で掌握してしまおうとお考えなのですね。」
難しい顔付きのままそう解説してくれたセルドラルさんに、にこりと笑い掛けます。
「王弟殿下が貴女を責任者にと、態々推挙された意味が分かりました。我々は、貴女を上に飾っておけば良いのではなく、貴女の下に付けと文字通りそういう意味だったのですね?」
いえ、そこまでは言っていませんが、こちらの構想はきちんと尊重して欲しいですね。
「イオラート殿。貴方が終始黙ってにこにこしておられるから何事かと思えば、こういうことですか。私としても一杯食わされましたな。事前に私にくらいは話しておいて欲しかった。」
そう言われてみれば、ずうっと大人しく黙っていたイオラート兄を睨むようにして、セルドラルさんが愚痴を溢したようです。
「言っても信じられなかったでしょうから、実感して頂こうと思っておりました。王女殿下は、あの王弟殿下と対等に渡り合って、時には意見を通すのですよ。普通の訳がない。」
それは誇らしそうに言い切って下さるイオラート兄の言葉が若干胸に痛いです。
「それに、殿下は優秀な方ですが、こちらの一般常識も政治体系も法律そして何より社会構造にお詳しくない。おいおい学んで頂くとしても、実務はそういった細かなことに詳しい者達が集まってお助けしなければならないのは間違いのないことですから。」
イオラート兄の発言の中の優秀の部分は置いておくとしても、正しい解釈に頭が下がります。
先頭に立って引っ張って行きますとは言えないこちらの世界の知識のなさが、一番の問題ですからね。
お集まりの皆様には、何卒宜しくお願いしますです。
イオラート兄の発言後半にはコクコクと頷きつつ同意しておきました。




