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 伝紙鳥を送ってから返事が来たのは小一時間くらい経ってからだった。


 トイトニー隊長によると、王族の食堂には伝紙鳥の侵入を止める結界が張ってあることがあるのだという。


 それでなくとも、王宮内の特に王族への伝紙鳥の送信には本来制限があり、条件付けされて直通便を通す許可のあるもの以外は、一度検閲が入る仕組みになっていると聞いて驚いた。


 基本的にはそれぞれの補佐官に仮送信されて、差出人に問題のないものだけ王族に渡され、それ以外は補佐官が開封の許可を持つのだという。


 だから、トイトニー隊長はまだレイカさんに直通便を送る許可はあるのかと聞いて来たという訳だ。


 最短でシルヴェイン王子と共に向かいます、というレイカさんの返信が返って来て、直通便の許可が残っていたと分かった訳だが、これはかなりの優遇措置かもしれない。


「神殿から派遣されましたフォーラスです。解呪が必要な方は?」


 そんな声が囲いの向こうから聞こえてハッとする。


 応対した第三騎士団の騎士に案内されたフォーラスさんがウィルメインに駆け寄って行くがその後ろをコルちゃんが付いてきていて驚いた。


「キュウッ!」


 こちらに気付いたコルちゃんが一声啼いて挨拶してくれたようだ。


「トイトニー隊長、ウィルメインの方に行って来ても良いですか?」


 ウィルメインの方を見ながら許可を取ると、頷き返された。


 リッセンの視線を感じつつウィルメインの方に向かって行くと、こちらに気付いたフォーラスさんが驚きの目を向けて来た。


「ケインズ殿。今日は街中警備中に?」


「ええ。彼と一緒に巡回していて、巻き込まれた形です。」


 簡単な事情説明に、フォーラスさんが溜息を吐いた。


「最近の王都はおかしいんですよ。前とはまた違う騒ぎが起きていて、ですが、時折以前と同じようにこんな呪詛被害もあって。今回は加害者も確保出来たようですね。」


 フォーラスさんがトイトニー隊長の側に拘束されて転がされている魔法使いを見てそう口にしたようだ。


「ええ、まあ。」


 問題は実は立っている方のリッセンではないかと思うのだが、流石にそれをフォーラスさんに言う訳にもいかない。


「コルちゃんが応援に来てくれたんですか?」


「ああ、そうなんですよ。呼び出しが掛かって解呪の出来る神官が支度していたんですけどね。聖獣様が神殿前待機して私を呼んでくれたので、その神官と一緒に出ることになりまして。」


 言いながら、一緒に来た神官を紹介してくれた。


 ファデラート大神殿から王都に戻った翌日レイカさんが神殿で解呪を手伝った時、その場にいたような気がする神官だ。


 あちらはコルちゃんを毎日連れて来る自分を知っていたようだ。


 如才なく挨拶を交わし合った。


 その間にウィルメインの側まで辿り着いていたコルちゃんがじっと腕の辺りを見つめている。


「フォーラスさん、コルちゃんは何処まで解呪が出来るんですか?」


 何処までというのは、二段階の呪詛だった場合にレイカさんのように起点凍結出来なければ余計に危ないかもしれないからだ。


「殿下を真似て、一旦の解呪から呪詛の停止魔法までは使ってくれているようですね。」


 そこから先は、レイカさんの特性というか古代魔法の領域のようなのだ。


 聖なる魔法しか使わないコルちゃんには出来ないことなのだろう。


「それは助かりますね。」


「そうなんですよ。だから、聖女様の聖獣様って言われて敬われていますね。」


 そうだ、レイカさんは王都で絶大な人気を誇る聖女様で、街に降りて来ればそれだけで人だかりが出来ること間違いなしな人だった。


 となると、メルを見に第三騎士団の営所に来て貰うにしても、人避けも含めた警備がそれなりに要ることになるだろう。


 これは、王弟殿下から暫く外出禁止を言い渡されるのも無理もない話だったかもしれない。


 そして、今この場に呼び出してしまったことにも、大丈夫だっただろうかと不安になってしまった。


「王女殿下の聖獣様?」


 ウィルメインの呟くような声が聞こえて、身を起こしているのが見える。


「ウィルメイン大丈夫か?」


 問い掛けてみると、ハッとした様子のウィルメインがこちらを向いてから周りを見渡すような仕草をした。


「呪詛にやられたのは分かるか?」


「ああ、あの魔法使いは?」


 まだキョロキョロしているウィルメインに安心させるように微笑み掛けた。


「民間人の協力で取り押さえられた。」


「民間人?」


 驚きの声を上げるウィルメインに、今度は苦笑いだ。


 確かに、民間人とは呼びたくないような人物だが、他に今口に出来る言葉がない。


「そう、か。それで・・・」


 何か言い淀んだウィルメインに首を傾げてみせると、それに少し苛立ったような顔をしてからこちらに少しキツい目を向けて来た。


「聖獣様がいるということは、王女殿下がお越しなのか?」


 そう漸く言葉にしたウィルメインの顔が少しだけ赤くなっていて、目を瞬かせてしまう。


「あ、いや。聖獣様は神殿から神官と一緒に来た。が、しばらくしたら王女殿下もお越しになる予定だ。」


 そう素直に教えてしまうと、ウィルメインが何処かソワソワした嬉しそうな顔になって徐に元気に立ち上がった。


「そうか。王女殿下がお越しに。」


 一緒に巡回していた時のあの素っ気無い態度が嘘のようにやる気に満ち溢れた顔付きに、こっそり苦笑してしまった。


 第二騎士団ナイザリークの騎士達の間でレイカさんが可愛いとか美人だとか騒がれていたのは知っていたのに、王女になった今もそうだとは結び付かなかった。


 確かに、何をしていても可愛いし、時によってはハッとする程綺麗な人だと思う。


 それだけではないところで、愛おしくて堪らない人なのだが、それは黙っておこうと思う。


「もう大丈夫ならば、トイトニー隊長に報告しよう。」


 そう誘うと、ウィルメインは素直に頷き返して来た。


 本当に人が変わったようだ。


「フォーラスさん、有難うございました。コルちゃん、ご苦労様。もう少し待ってたらレイカ殿下がお越しになるから、もう少し待っていようか?」


 そうしゃがんでコルちゃんに声を掛けていると、ウィルメインさんが驚いた顔になってから、直ぐに何か納得の表情になっていた。


「そうかケインズは、王女殿下の聖獣様のお世話をしてるんだよな?」


 そう言ってから、何か微妙に落ち込んだような顔になったのには首を傾げてしまった。


「そうですか、久しぶりに王女殿下にお会い出来ますね。お元気にしていらっしゃいましたか?」


 フォーラスさんにそう話し掛けられて、そちらに意識がいく。


「ええ。忙しそうなご様子でしたが、昨日お会いした時はお元気そうでしたよ。」


 そう無難に答えていると、ウィルメインの羨むような視線を感じた。


「ケインズ、王女殿下とはどんな話をするんだ?」


 唐突に少しだけ身を乗り出して食い気味な様子で問い掛けてきたウィルメインに、思わず苦笑してしまう。


「聖獣様のことが殆どかな。聖獣様を撫でている殿下はそれは嬉しそうで、微笑ましいんだ。お世話係を引き受けられて幸運だったと思う。」


 それでも正直にそう答えると、ウィルメインがうんうんと頷きながら聞いていた。


 と、地響きと馬蹄の音が近付いて来るのが聞こえて来て、直ぐに団長殿下とクイズナー隊長、そして護衛に囲まれるようにしてレイカさんが歩いて来る姿が見えた。

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