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国王陛下と王弟殿下にそれはしっかりと叱られたというか、笑顔でペナルティをズッシリと課された食事会は、最早何を食べたかも分からないような会でした。
王族の食事会、次回からお断り出来ないでしょうか?
毎回ロクな終わり方をしていないような気がします。
トラウマ化しそうな勢いです。
国王陛下には逆らわないという教訓は出来た訳ですが、何処かから勝手に降って来るトラブルの責任など取れる筈もないのですが。
何だか報われない企業の中間管理職みたいな理不尽な立場になっているような気がして来ました。
「レイカ、大丈夫か?」
国王陛下と王弟殿下が引き上げた食堂でこちらも重い腰を上げようとしていましたが、そこでシルヴェイン王子からそんな言葉が掛かりました。
「良くまあ、冷静に返せたものだ。」
と、続けてこれは王太子です。
「お父様、あんなに怖い方だとは思いませんでした。」
そう素直な感想を述べると、兄二人が乾いた笑いを返してくれました。
「実は、父上だけは怒らせてはいけない人なんだ。私も久しぶりに叱られたな。」
言いながらシルヴェイン王子が苦い笑みを浮かべました。
「何というか、父上は絶対に逆らえない叱り方をされるから、物凄く胸に来るんだ。」
王太子も頷きながら同意しています。
「でしたら、お兄様方が事前に教えておいて下されば宜しかったのでは?」
ついスネ気味にそんな言葉を呟いてしまうと、二人が揃って気の毒そうな笑みを返して来た。
「女のレイカには養女でもあるし、もう少し優しいのかと思っていたんだ。初顔合わせの食事会の時も、叔父上に任せていただろう?」
王太子の言葉には少し納得するところがありました。
「ところが、レイカは度胸もあるし頭も切れる、父上が少々叱っても意味も理解出来ずに泣き出して終わるようなこともないと、まあそう判断されたということだな。」
そのシルヴェイン王子の分析には全く喜べそうもありません。
「え? では、取り敢えず泣いておけば良かったってことですか?」
これは対応をミスったということでしょうか。
「いやいや。見え透いた嘘泣きなどしたら、もっと酷いことになっていたぞ?」
王太子が焦ったようにそう返して来ましたが、確かに直ぐにバレてもっと怒られそうです。
「御前会議って、座って大人しく聴きに徹してれば無難に終われますか?」
役員会議みたいなものでしょうか。
「そうだな。だがな、国全体の大きな動きや方針をそういう席で把握しておくことは大事なことなのだぞ? レイカはこれから、新しく立ち上げる魔法使い達を統括管理する部門の纏め役になるのだろう? そうなればこれから先、当然他の部門の活動と関わることも出て来る。そこで摩擦を起こさないように相手方の動きや方針を把握しておくことは大事なことなんだ。それから、財務方だ。全ての部門に影響する財務の反応や方針はもっとも大事な指針になる。何かを行うとして財務が出資する意向を示してくれるかどうかで出来る出来ないが決まるといっても過言ではない。だから、父上の絶大なる信頼のある叔父上がどっしりと上に座っている訳だ。」
確かに、仰ることは尤もです。
「はあ、そうですか。では、何でこんな小娘が参加してるんだって誰かに虐められたら、お兄様方が庇って下さるんですよね?」
そこは今の内に言質を取っておこうと思います。
「ははは。」
そこで何故か微妙な顔で笑った兄二人はどういうつもりでしょう?
「そんな必要あるのか?」
言って下さった王太子、ちょっと顔貸しましょうか?
「酷いです。私、レイナードさんだった頃、王宮内でアーティフォートお兄様に物凄い目で睨まれて、それは怖い思いをしたんですけど。」
と、隣のマユリさんが途端に、え?と目を見張ってから責めるような顔を王太子に向けました。
「ちょ、っと待て。レイカルディナそれは卑怯ではないか?」
「アーティ、レイカ様だっていきなり知らない土地に連れて来られて戸惑うことも多くて、大変なのだから。妹として優しくしてあげて。」
マユリさんナイスフォローです。
「・・・分かった。まあ、これからも長く私の妹として頑張って貰わねばならないからな。貸しは幾らでも作っておくべきだな。」
そんな自分に言い聞かせるような言葉をブツブツ呟いている王太子は放っておくとして、次はシルヴェイン王子です。
目の合ったシルヴェイン王子は、何か寂しげな笑みを浮かべています。
「私は、いつもどんな時もレイカの味方でいると誓おう。とんでもない間違いや勘違いを起こしている時以外はな。」
付け足した一言が、何かを台無しにしている気がしますが。
一先ずこれで、兄達との関係は無難に滑り出したのではないでしょうか。
「失礼致します。」
そう言って食堂内に入って来たのは、給仕係の責任者のようです。
「緊急の伝紙鳥が飛んで来ているようですが、遮断結界を解除して構いませんでしょうか?」
どうやら王族の食堂だけに途中で邪魔が入らないように伝紙鳥の飛来を遮断する結界が張られているのでしょう。
「構わない。」
王太子が許可すると共に、パタパタと音をさせてシルヴェイン王子と、何とこちらにも飛んで来ています。
しかも、ケインズさんからということで、何かコルちゃん達に非常事態でしょうか?
緊張しつつ受け取った手紙を開くと、いつもより少し乱れた慌てたような文字が目に飛び込んで来ました。
「レイカ。」
シルヴェイン王子に張りのある声で呼び掛けられて、目を上げた先で見えた真剣な瞳に、同じ内容の連絡が来たことが確信出来ました。
「これは、行かなきゃですね。」
「分かった。一緒に行こう。ファデラート大神殿に行った時に乗った馬を用意させるが、それで良いか?」
外出禁止令もこれは一時解除して貰わないとですね。
「はい、ナシーダちゃんですね。急いで着替えて第二騎士団に向かえば良いですか?」
「・・・そうだな。こちらも第二騎士団で一隊出動準備をしてからになる。叔父上には緊急で外出する旨、誰かに伝えさせるように。」
久しぶりに第二騎士団の団長なシルヴェイン王子ですね。
「はい。」
何となくこっちのシルヴェイン王子の方が接し易いと思ってしまうのは、始まりの形がこちらだったからでしょうか。
では、ということで解散になった食事会ですが、食堂を出て控えていたリーベンさんに護衛さん達の準備を頼んで移動が始まったところで、シルヴェイン王子が寄って来ました。
「レイカ。」
並んで歩きながら、呼び掛けて来たシルヴェイン王子に目を向けると、酷く真剣な顔をしていました。
「レイカにとっては難しいことなのかもしれないが、どうかこれまでのように、私や第二騎士団を頼って欲しい。私や第二騎士団で手助け出来ることは勿論率先して協力するし、そう出来ないことならば、頼るべき相手を紹介する。だから、全ての矢面に立ってお前が苦労する必要はない。必ず何かの形で助けるから、全てを背負い込むな。」
驚くような提案に、久しぶりにジンと来ました。
「・・・良いん、ですか?」
以前とはお互い抱えるものが変わって、周りの見方も関係性も変わってしまっています。
「勿論だ。レイカがレイカだと分かった時に、きちんと面倒を見るとランバスティス伯爵と共に誓っただろう? その気持ちは、私も伯爵も変わっていない。私も覚悟を決めた。立場が妹に変わろうとも、どんな問題を呼び込む性質を持っていようと、レイカはレイカだ。周りにも、私がレイカを擁護する立場を取ると知らしめるつもりだ。」
はっきりと男前に言い切ってくれたシルヴェイン王子は感動ものですが、チラッとパドナさんが気になって目をやってしまいました。
と、涙目で両手を握りしめてコクコク頷いているパドナさんに目を瞬かせてしまいます。
「レイカ様。わたくしも、出来る事でお力になります。あんな、国王陛下や王弟殿下にまで責め立てられて、お一人で矢面に立たされて、レイカ様は本当はこの国に生まれ育った訳でもない方ですのに、あんまりですわ。」
何故かパドナさんまで何かのスイッチが入ってしまったようで、そんな優しい言葉をくれます。
シルヴェイン王子との関係にヤキモチを妬かれたりしないものかと勘繰っていましたが、今のところそういう心配はなさそうで、実は少しだけホッとしました。
「有難うございます。頼りにしてますね、お二人共。」
ちょっとホロリと来そうになるのを堪えつつ笑顔で答えると、二人に力強く頷き返されました。




