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政略上の正妃に一途な愛を  作者: 華凜
第6章:最終章
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エピローグ

 席を外せと言われて以降、扉の向こうでじっと耳をそばだてて様子をうかがっていたのだが、案の定というところだった。


会話内容はよく聞こえなかったものの、話し合っていたのは序盤だけでほとんどガラスが割れる音や物が倒れる音。

思わず叫んでしまいそうになったが、わたしはリサに身体を拘束され、戦いが集結するまで入ることは許されなかった。



そして5分後。


顔中を血で真っ赤に染めて出てきたのはウィルズだった。


「ごめん、遅くなった」

「お、おお、遅くなったって……ち、血……」

「大したことない。ちょっと色々あっただけだよ」


正直言って、ちょっとどころのケガではない。

よく立っていられるな、と感心するレベルだ。


「話し合いをされていたんじゃなかったの?」

「男同士の話し合いを」

「拳での会話は話し合いには含まれません!」

「だろうね」


ウィルズは肩をすぼめて苦笑する。


目は腫れて口からは出血、鼻血はダラダラ。

そんなボロボロの彼を見て、わたしはとてつもない罪悪感に駆られた。


「ごめんなさい」

「なにが?」

「あなたを裏切ったこと」


涙ぐみながら顔を上げると、そこにはわずかに笑うウィルズの顔があった。

本人は頑張って笑おうとしているらしいが、顔が腫れていて表情が読み取りにくい。


「僕も君を疑ったことに後悔している。冷たい牢屋に押し込まれていたというのにあんな風に冷たくあしらって済まなかった」

「……こんなことわたしが言うのもアレだけど、もう忘れましょう。お互いさまってことで」

「本当にいいのかい?」

「ええ」


勇気を振り絞って歩み寄る。

もうリサはわたしを拘束したりしない。

後ろで静かに成り行きを見守っている。




「本当にすまなかった」




それはずっと待っていた熱だった。

強く抱き締められ、こみ上げてくるのは言葉にできない感情ばかり。この想いは決してロイでは感じることはできなかっただろう。


――わたしはやっぱりウィルズに惚れていたのだ。

なんだかんだ言いながら、こうなることを心待ちにしていた。


もう離れることはないのだ。

涙を流しながらわたしは彼の背中に手を回す。


「願わくば、もう一度君のことをリミューと呼びたい」

「わたしもウィルって呼んでもいい?」


『ウィル』。それは結婚式を挙げた日に言われた名。

あの時以来ずっと恥ずかしがって余所余所しく旦那さまと言い続けてきた。

だがもうそんな関係ではない。

そう信じている。


わたしたちは見つめ合ったまま、同時に答えを言い合う旨を以心伝心で決定した。

そして息を吸い込む。



「「もちろん」」



お互いの声が揃う。


やっと一つになれた。

わたしたちの恋が初めて結ばれた――


――そんな瞬間に思えた。




――☆――☆――




 7月上旬。

蝉のけたたましい鳴き声に悩まされる頃、わたしは元気な男の子を出産した。


体重は3キロほどで、初めて見る我が子は驚くほど小さかった。

手の平だってわたしの親指の長さくらいしかない。

まだまともに目も開けられぬような幼い身体。マシュマロみたいな柔らかい肌。

泣き声から仕草まで全てが愛らしい。




 この子はこれから一体どんな未来を描いて行くのだろう。


もしかしたら不幸が沢山訪れるかもしれない。

立ち直れないような絶望が待っているかもしれない。


でも最後には、わたしたちのように心から笑顔になれる――


そんな未来が待っているといい。



そう思いながら、わたしはウィルズと共にこの子を見守ることに決めたのである。









【あとがき】

長い間お付き合いいただき本当にありがとうございました<(_ _)>

色んな方から個別メッセで励ましのお言葉をいただき、おかげさまでコンスタントに連載することができました。

お気に入り登録やポイント評価等で励ましていただいた方々に心からの感謝を申し上げます。


さて、今後のことですが、もしかしたら番外編も追加するかもしれません。

番外編の構想はあることにはあるのですが、今はまだ書いていないので一応の完結とさせていただきます。

(追加する場合、6章以降に『番外編』の章を設けます。)


その他気になることがございましたら、個別にメッセージを頂けると幸いです。

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