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第21話 再会の夜

 メリッサが一旦失踪したあの日以降、僕らは庭園で遊ぶことを禁じられ、彼女に至っては罰としてしばらく外に出ることも許されなかった。


それからというもの、大きくなってくるにつれ暇な時間はどんどん減っていき、外交などの公務がしばしば入るようになった。

メリッサの方も私用等で忙しく、事件の日以降僕らが顔を合わせることは無かった。



それから15年以上の歳月が流れた。




――☆――☆――




 夜会がお開きになった後、ウィルズは一同に簡単な挨拶を残して会場をあとにした。


向かったのはとある女の部屋。

無論、その相手が一体誰であるのかは言うまでもない。



 お互い最後に会ってから長い時間が経っていた。


女性と比べて男性は本能的に浮気性といい、昔に付き合った女のことなどコロリと忘れて別の女を好きになるのが普通だという。

それは自分自身にもあてはまる。

別にメリッサとは交際していたわけでもなかったが、月日が経てば記憶は風化していき、今ではリミューアのことで頭が一杯になっている。


――いや、『なっているはず』だった。


 今日を境にその気持ちは変化の兆しを見せ始めた。


あどけない幼顔だった少女はいつしか絶世の美女と(うた)われるほどの美姫に変身していて、十数年ぶりにその姿を見たときは心に電気のような衝撃が走った。

昔とのギャップが大きかったというのもある。

だがそれ以上に、自分は彼女に惹かれた気がした。


メリッサのことは友達だと思い続けていたはずなのに、舞踏の場で「好き」と告白されたとき、本当に自分たちは『親友』という二文字で終わらせることのできる関係なのかと疑念を抱いた。

単なる友達だけの関係だったのなら、あれほど胸が熱く、苦しくなったりはしなかっただろう。



「お待ちしておりましたわ、旦那さま」


寝室ではガウンを羽織るメリッサが一人で待っていた。

夜会が終わって自分のところにやって来た王子を見てニコッと微笑む。

それは15年前に見た時と何ら変わることの無い優しい笑み。


なんだか昔に戻ったような気がして、ウィルズの胸にも熱い何かが流れた。


「上着をお預かりしましょうか?」

「ん、ああ。頼む」


昔に一度知り合っているせいか、メリッサはリミューアと違って気さくに話しかけてくる。

言われるがままに上着を手渡すと、彼女はクローゼットからハンガーを取りだしてきてかけた。


 その足で今度は丸テーブルの方へ移動し、棚の上から大きめのポットとティーカップを取りだしてきて配置する。


「お疲れのようですし、お茶でもいかがです?ハーブティーですよ」

「…………。」

「旦那さま?」


話しかけても反応が無い夫にメリッサは首を傾げる。

一体なにがあったのだろう、と顔を覗き込もうとすると、唇を真一文字に結ぶウィルズと目があった。


「さっき、君にあんなことを言って悪かった」

「?」


何の前触れもなく彼の口から出た言葉に首を傾げる。

でもその動作がとぼけている風に映ったらしく、ウィルズは少し苛立ったような声で続けた。


「僕が君を愛するつもりは無いと言ったことだよ」

「そんなこと気にしていらっしゃったのですか?」


しらばっくれたような返答に王子は眉を顰めた。


「君は何も気にしていなかったのか?」

「ええ、気にしておりませんでした。そもそも私をどう想うかは旦那さま次第ですし、単に子を産む道具として後宮入りした私が寵をいただけるなど最初から想定しておりませんでしたもの。愛人――とまではいかなくとも、せめて『友達以上恋人未満』と思っていただけるのなら十分」

「では相思相愛ということは?」

「願わくば――」


メリッサは紅茶を注いだカップをトレーに載せて差し出す。

ちょうど喉が渇いていたこともあり、ウィルズはカップの茶を一度に喉の奥に流し込んだ。


「美味しい」

「お口に合ったようで。お代わりはまだありますからご遠慮なさらず」

「いや、これ以上飲むと寝れなくなる」

「たかが一杯や二杯では摂取するカフェインの量も大したことありませんわ」

「そうか。じゃあ “あと”でもらうよ」


『あと』の部分が強調されると、それに呼応してメリッサの口の端がニュッと上に上がる。


「かしこまりました」


手にしていた盆をテーブルの上に戻し、ガウンの紐をほどいてから二人用ベッドに仰向けに寝転ぶ。

直後、身体を押しつぶさんばかりの勢いでウィルズの胸板が覆い被さった。

二人が指を絡ませ合うのと舌を絡ませ合うのは同時だった。


「こんなことをしてもよろしくて?」


長いキスの後、メリッサは息を荒げてそう問うた。


「どういう意味?」

「正妃殿下がいらっしゃるのに、側妃たる私に軽々しく口づけなど許してよろしかったですか?」


リミューアがいないところで他の女と懇意にしていたら彼女がヤキモチを焼くのではないかと心配しているのか。


「君のことはリミューにも伝えてある。それに、もうお互い夫婦なんだからキスくらいしてもバチは当たらないさ」

「そう。じゃあ許しついでに、もう二つ旦那さまにお許しを頂きたいことが」

「?」


メリッサはどこか勿体ぶって焦らす素振りを見せる。


「なに?」

「また昔のように旦那さまを『ウィル』と呼んでも?」


懐かしい呼び名だ。

そう言えば自分たちが初めて出会った15年前、付き合っているわけでもなかったのにお互いに愛称で呼び合っていたのを思い出した。


「構わないよ」

「では、これからは私のことは『メリー』とお呼びになって」


メリッサはウィルズを抱きかかえるように両腕を彼の首の後ろにまわす。

同時に細い脚も彼の身体に絡ませ、唇を上にして再びキスをねだる。


「あくまでプライベートの話ですけれど、あの時みたく、また馴れ馴れしく口を利いてもよろしい?」

「ああ。二人きりなら無礼講だよメリー」

「ありがとう、ウィル」


二人は再び長いキスをすると、そのままベッドの中に身体を沈めていった。



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