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拝啓、全てを失ったキミへ―転生した復讐者は、優等生の仮面を被る―  作者: 藍澤誠
第一章 虚飾の仮面篇

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第二十四話「訪れた混沌」

 実技授業にて寮点を勝ち取ったその後、ラクアは教室への道を歩いていた。いつもなら隣にはレインとジグマがいて、そこにアルマが絡んでくる程度だが、その日は違った。


「いやぁーマジですげかったぁ! まさかあんな一瞬でけりをつけちまうなんて」


 ガルフを始めとする男子生徒が数人、ラクアを取り囲んでいた。


「お、落ち着けよガルフ、ちょっと馴れ馴れし過ぎないか?」


 メガネをかけた少年がガルフの肩を掴む。


「なんで? 友達の活躍を喜ぶのは当たり前だろ?」


 きょとんとした顔で、ガルフが首を傾げた。


「それにオートン、お前もあの時はしゃぎまくってたじゃねぇかよ」 


「そ、そんなガキっぽいことはしてねぇよ!」

「でもまあほんと凄かったよなぁ」

「どうやったのか、詳しくおしえてくれよ!」


 興奮と共に、ラクアへ質問が飛び交う。そんな様子をジグマ、レイン、アルマ、そしてリオンは後ろから眺めていた。


「あいつら、ようやくアニキの凄さが分かってきたみてぇだな!」


「でもなんか複雑だね。ラクアさんが僕たちを必要としなくなっちゃうんじゃないかって考えちゃうよ」


「そんな事考えてんじゃねぇよ。アニキが先を行くなら、俺たちは死ぬ気でついて行きゃあいい。そうだろ?」


 ジグマはレインの胸に拳を突き立てる。


「……はい! 頑張るしかないですね!」


 そんな二人のやり取りを見て、アルマとリオンは顔を見合わせる。


「俺たちも、負けてられないな」


「おうっ! あいつの隣に立つのは俺だぜ!」


「そういう意味で言ったんじゃないんだが……」


 リオンが呆れたその時、


「どいてどいて! 怪我人が通りますよ!」

 

 切羽詰まった声が廊下に響き渡った。声の方向から看護衣を着た中年の女性が、車輪付きの担架を大急ぎで押していた。


 担架には、白い布で包まれた何かが乗せられている。ラクアが通り過ぎていく担架を目で追っていると、不意に焦げたような匂いが鼻をついた。


「あれ、ティモール先生らしいよ」

「ほんと? あの怖くて理不尽な先生だよね」


 通りすがりの女生徒の会話が耳に入る。


(誰がこんなことを……)


 そんなことを思った矢先、


「やあ、ラクア。驚いてもらえたかな?」


 勿体ぶったような口調が、ラクアの背後から投げかけられる。ブロンドの髪に吊り上がった橙の目。見下したような笑みを浮かべて、カミラ・レイヴァーは立っていた。


「レイヴァー……あれはお前の仕業だって言いたいのか?」


「その通りだが、勘違いするなよ。俺は授業の一環であの女に攻撃しただけだ」


「まさか、東校庭で僕たちと同じ授業を……」


 レインが言葉を溢す。


「ああ……ルベライトも同じ事をねぇ。まあ、言われなくても結果は見えてる。成功したのは、そこにいるラクアだけだろう?」


「その通りだ。だが、なんか癪に障る言い方だなぁおい!!」


 前に進み出たジグマが声を荒げた。


「落ち着けよ。俺は別にお前らと争いに来たわけじゃない。今は……な」


 レイヴァーは不敵な笑みを浮かべた。


「ラクア、学校にも慣れてきた頃だろう。そろそろ、俺と一戦交えようじゃないか」 


「なるほど、決闘の申し込みか」


「その通りだ。忘れてないよな。最終的に負けた方は勝った方の言う事をなんでも聞くんだ。最初の勝負は、そうだな……魔術にしようか」


 レイヴァーはラクアに人差し指を向けた。


「お互い共通の土俵から、俺たちの戦い始めよう。一ヶ月後だ。それまで敗北の未来に打ち震えてまっていろ」


 そういうと、踵を返して去っていった。


「あんの野郎……またアニキを舐めやがって」

「落ち着いて、ジグマくん」

「あんなの、黙って見てられっかよ!!」


 騒ぎ立てるジグマの後ろで、ラクアは去り行く少年の背中をじっと見つめていた。無惨な姿になったであろうティモールを思い出し、目を細める。


(カミラ・レイヴァー……もしかすると、奴は俺以上の実力をもった強敵なのかもしれないな)



---



 翌日、ルベライト生の一年は校舎から少し離れた大きなテントにいた。木造の長机と椅子が並べられていて、景色はほとんど教室と変わらない。


 土や草の青臭い香りが充満している中、レイン、ジグマ、アルマは隣り合って椅子に腰掛けている。


「植物学の授業って、他の授業とちょっと違うよね」


「センコーが変わった人だかんな。毎回一人選んで授業の準備させるってのも他のセンコーはやんねぇし……」


「今日は十六日だから確かミラさんが……ってラクアさんは?」


「トイレに行くって言って、まだ帰ってきてないなー」


 アルマがのんびりとした様子で応える。だがその目からはいつものほんわかとした雰囲気は感じられなかった。


 授業開始二分前、全員が席につき、それぞれが筆記用具などを準備し始めたその時、入り口が開いてラクアが入ってきた。


「遅かったですね」


「道に迷った」


 答えを用意していたかのような早い返答だ。


「アニキにもそういうことあるんだな」


「ジグマくん……間に受けないほうがいいよ」


 しばらくせずとも、授業開始の鐘と共に一人の少女が入って来た。いや、その少女が“少女”ではないことは、最初の授業で誰もが知っている。


「皆さん、こんちゃー! 今日も元気に植物ちゃんたちを愛でていきますよー!」


 元気よく大見えを切った少女が、植物学の教師であることは周知の事実だ。深い緑の髪をおさげにしていて、丸眼鏡の奥で大きな目がキラキラと光っている。


「ドントリーナ先生……相変わらずですね」


「俺、あの人苦手なんだよなぁ……」


 レインの言葉に、ジグマは苦しげに頷く。


「あれぇ?! 私の専用ハサミ知りませんかー? あれがないと私ダメなんですゥ……おっかしいなぁ、ここに入れてあったはずなのにー」


 少女は教卓の裏にしゃがみ込んで喚き立てる。


「先生、これでもう四回目ですよ……」


 前の方に座っていたガルフが苦笑いしながら指摘した。


「あたし、ちょっと職員室見てくるんでぇ。カーラインさんが戻ってきたら前回の続き、カチコチ草の苗を間引くところから始めちゃってくださーい!」


 そう言って、ドントリーナは慌ただしくテントを出ていった。


 その後、ラクアたちはミラが到着するまでの間、他愛のない会話をして過ごした。だが、さほど遠くもない倉庫に行っているミラが、五分経っても現れないことで、生徒の間で徐々に不信感が広がっていく。


「なんかミラちゃん遅くね?」

「重くて運べないんじゃねぇの?」

「可哀想……誰か助けに行ったほうがいいんじゃない?」


 そんな時、グリードが立ち上がった。


「僕が見てくる。みんなはここで先生が来るのを待っていてくれ」


 そう言って、頼り甲斐のある彼が入り口へと向かおうとした、その時だった。


「待て……」


 何を思ったのか、アルマがただならぬ雰囲気を放ち、立ち上がった。


「何か、聞こえないか?」


 アルマの言葉に、誰もが恐る恐る聞き耳を立てる。


ギーーーン……ギーーーン……


 聞き慣れない不可解な音を、研ぎ澄まされた耳が微かに拾った。


「んだよこの音……」


「この音、まさか……い、いや、そんなはずは……」


 狼狽えるジグマの隣で、レインが頭を抱える。音は一秒が経つにつれ、どんどん大きくなっていく。何かが近づいてきていると言うことを、ここにいる誰もが理解した。


「おいレイン、なんか知ってんのか?」


「こんな気味の悪い威嚇音をだす生き物は、あれしかいない……」


「みんな! 警戒するんだ!!」


 グリードが声を上げた、その直後だった。


ギニャアァァ!!


 テントの壁である白い布を破り、それは現れた。苔むしたような緑色の肌をもつ人型の生き物。背丈は五歳児くらいしかないものの、耳まで裂けた口にずらりと並ぶ鋭い歯が、その生物の危険性を露わにしていた。


餓鬼(グレムリン)だ……。国が警戒するほどの害獣がなぜ校内に……」


 腰を抜かしたレインだったが、地獄はここからだった。テントのあちこちが破られ、そこから何匹も同じ怪物がなだれ込んできたのだ。


「きゃぁぁっ!!」

「な、なんだこいつらぁっ!!」


 和やかな教室が、阿鼻叫喚の地獄絵図へと変貌した。


「落ち着くんだみんな!!刺激しない方がいい」


「グリードさん! こいつら急な体温の変化に弱いんです! 凍結魔法なら、動きを封じられるかも知れない!!」


 レインが叫んだ頃には、すでに何十匹もの餓鬼が、生徒たちを囲んでいた。それらはカチカチと牙を鳴らし、飛びかかるタイミングを伺っているように見える。


「やるっきゃねぇのか……」

「みたいだなっ!」


 ジグマとアルマはそう言って立ち上がった。二人だけではない。リオンにガルフ、他の生徒たちも次々に立ち上がり、臨戦体制をとった。


「ジグマ、レイン、俺は隙をみてここを抜け出す。ここはお前らに任せた」


「えっ、ラクアさん?」

「どういうことだよ」


「この予想外の状況に、対応できない奴が一人いる」


 ラクアは不自然ほどに落ち着いていた。そしてその佇まいは、そばにいたレインへと連鎖した。


「……そうか、ミラさんは今一人だ!」


 レインのはっとした言葉に、ラクアは頷く。


「最悪の場合、あいつは死ぬ。こいつらは人を喰らう生き物だ。死体までなくなったら遺族が浮かばれないだろう」


「そんなこと言わないでくださいよ……」


「だが起こり得ることだ。いいか、誰一人怪我人を出さずにこの場を収めろ」


 いつになく強い言葉に、二人は一瞬言葉を失う。だが、普段何でも一人でこなすラクアから信頼を感じる言葉をかけられ、胸の内から燃え上がる物を二人が抑えられるはずが無かった。


「……分かったぜ。俺たちに任せてくれ」


「ラクアさんもお気をつけて」


 二人の言葉に、ラクアは再び頷いた。


「おい、お前ら! ボサッとしてんじゃねぇぞ!」


 リオンの声が、三人を現実に引き戻す。すでに全員が、自分たちを取り囲んでいる餓鬼に向かって手を向けていた。


「来るぞみんな!!」


 グリードが声を上げた、それが合図であったかのように、取り囲んでいた餓鬼たちが一斉に飛びかかって来た。


「『氷槍(グレシアス・ランズ)』」

「『熱閃(アラクシス)』!!」


 ラクアとリオンが同時に唱える。


グギャガァァッ!!


 攻撃が命中し、数匹の餓鬼が地面に転がる。転がった餓鬼はみるみる色が変わり、やがて人肌のような肌色に変化した。


「んだこれ、気持ち悪ぃ!」

「ラクアさん! 行ってください!!」


 魔物の死体に素っ頓狂な声をあげるジグマの横で、レインが声を張り上げた。


 ラクアは駆け出した。飛びかかってくる餓鬼たちをかわしながらテントを飛び出していった。


 二匹の餓鬼がラクアに釣られ、背中を追いかけるように走り出す。だが次の瞬間、一匹の餓鬼の肌に園芸用のハサミが突き刺さった。もう片方も、一瞬にして焼けこげて倒れる。


「行かせない!!」


「俺らの大将の邪魔は、一匹たりともさせねぇぜ!」


 二人の声が混沌の中、高らかに響き渡った。

[アークディア雑多学]

ルベライト寮の生徒であるオートンは入学してからすぐにあった小テストでルベライトで三位という好成績を収めた優等生です。ちなみに、ルベライト寮の小テストトップ5は以下の通り……


一位 レイン・スロウラット

二位 ラクア・シャーデット

三位 オートン・ロッド

四位 フィリア・マスカルディア

五位 シュリアーナ・ロズベルト


明日も20時頃投稿予定です。


『面白い!』


『続きが気になる!』


『応援したい!』


と思っていただけたら、下にある☆☆☆☆☆から応援していただけると幸いです。


初投稿作品なので、ブックマークや、感想もいただけると大変嬉しいです。


今後もよろしくお願い致します。

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