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拝啓、全てを失ったキミへ―転生した復讐者は、優等生の仮面を被る―  作者: 藍澤誠
第一章 虚飾の仮面篇

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第二十一話「キング・オブ・トゥー」

 レインはベッドに寝ているジグマを見つめながら、ため息をついた。


「こんなに大きな人が一撃で沈むなんて……ラクアさん、いったい何をしたんだよ」


 目にも止まらぬ速さで沈められたジグマに同情したその時、


「うっ――」


 ジグマがうめき声を上げた。目が開き、体もゆっくりと起き上がる。


 直後、視線が交わった。


「お前……確かあいつと居た……」


「は、はい……レイン・スロウラットと申します」


 鼓動が慌てるのを感じながら、レインは震える声で名乗る。


「あいつに付き従ってるみてぇだが、お前も一泡吹かされた口か?」


「い、いえ……僕は自分の意思で、ラクアさんについて行ってます」


「そう、なのか……」


 そう納得したジグマの顔は、少し青ざめている。原因は、レインにもなんとなく分かるような気がした。


 ラクアのあの冷酷な目。向けられたものは皆固まってしまうような、情のかけらもない視線。それにあてられたジグマが恐怖を抱くのは必然だ。


(この人、話が通じないわけじゃなさそうだ……むしろなんだか……)


 沈黙を破ったのはレインだった。


「もし、よければなんですけど……あなたの事を、教えて頂けませんか?」


 レインは自身を奮い立たせ、まっすぐとジグマを見つめる。そんなレインを、ジグマは驚いた様子で凝視した。


「お前……俺が怖くないのか?」


「怖くない……と言ったら嘘になるかもしれませんが、それよりも僕は、あなたの事を知りたい。知った上で、あなたとこれから関わっていきたい」


 ジグマは鋭い目を大きく見開いた。再び沈黙が流れる。やがて大きく息をついて、ジグマはレインと向き合った。


「俺は……ガキの頃から避けられて来た。目つきの悪い面。でけぇ体。そんな見て呉れだけで勝手に怖がられて、俺はずっと一人だった」


 俯くジグマからは、先ほど教室で見せた威圧感は毛ほども感じない。


「ある日、俺は気づいちまった。俺に向けられる恐怖を利用すれば、人を集めることが出来るってことを……。俺はわざと、自分がより恐れられる見た目に変え、周囲の人間を暴力で支配した。その結果、俺は一人じゃなくなった」


 言葉とは裏腹に、ジグマの表情は沈んだままだ。レインはどう返していいか分からず、視線が揺れる。


「気づいたらよ……殴るのに躊躇いなんてなくなってた。気に入らねぇだけで手ぇ出して……止まんなくなってた」


 ジグマは自身の手に視線を落とした。今まで何人もの人を痛めつけて来たであろうその手に。


「俺はずっとガキのままだった。今日あいつに現実を見せられて、そのことに気がついたぜ……」


(人は簡単には変われない。でもこの人は、ずっと変わろうとして来たんだ……今までジグマさんにはその勇気がなかった。でも今日、ラクアさんが背中を押したことで、この人は変わり初めている……)


「レインとか言ったか? 俺はこれから、どうしたらいいんだろうな……」


 そう言ったジグマの顔には、寂しそうな笑みが貼り付けられていた。


「ジグマくんは、ラクアさんの事…怖い?」


「怖ぇな……他人を怖いと思ったのは初めてだ」


 心なしか、ジグマの顔に一段と青が刺した気がした。

 

「僕は、ラクアさんは優しい人だと思うんだ」


 そう言って、レインは穏やかな笑みを浮かべる。


「あいつが……優しい?」


「うん……間違ってるかも知れないけど、ラクアさんなら君をみんなの前で一方的に痛めつける事だって出来たと思うんだ。それをしなかったのは、多分……君の尊厳を守ろうとしたんじゃないかな」


「俺の…尊厳?」


「これから始まる君の生活に支障を出さない為に、最小限の力でその場を収めた。僕はそう考えてしまうんだ」


 ジグマの顔からこわばりが解けていく。 


「君がもし、よければなんだけど……」


 レインはジグマの眼前に、手を差し出す。


「僕に手を貸してくれないかな」



♢♢♢



 ラクアは目の前の男を、警戒のこもった目で見つめていた。


(アルマ・グラウクス……入学時の剣術試験で一位の成績を収めていた男だ。そんな奴が何故俺に……?)


「お前……何故俺の名前を知っている?」 


「そりゃあ調べたからだよ。お前みたいな人が現れるのを、俺はずぅっと待ってたんだ」


「俺みたいな人?」


 アルマはニヤリと笑う。


「お前は、人には無い力を持ってる……」


 声のトーンを落とし、アルマは探るような目で言った。


 ラクアは息を呑んだ。


(こいつ……俺が神傑者である事を知っているのか? それとも――)


 服の下にある皮膚から、汗が吹き出す。


「安心しろよっ! 俺はその事を言いふらすつもりはねぇから! ってか、言ったら仲良くしてくれなそうだし!」


 アルマの眩しい笑顔が、ラクアに向けられた。心臓の鼓動は徐々に落ち着いている。だが背中を流れる冷たい何かは、いつまで経っても拭い切れない。


「俺はお前と友達になりたいだけなんだ。仲良くしてくれよっ! ラクア!!」


 ラクアは一見裏表の無さそうな少年を、値踏みするかのようにじっと見た。


(……嘘には見えない。だが――)


――こいつからは何か、底知れないものを感じる

 

「ああ、宜しく頼む」



---



 生徒たちが行き交っている中庭。その中に、道行く生徒が足を止めるほど異様に目立つ集団があった。


「なるほど……事情は分かった。分かったんだが……」


 集団の一人であるリオンは怪訝な表情を浮かべる。視線の先には、ラクアとジグマが肩を並べて歩いていた。


「アニキ! 図書室はこっちらしいぜ!!」


「そうだな……またあとで見に行くか」


 見るからに不良のジグマを軽くあしらうラクア。その光景は妙に浮いている。


「あれは何というか……潔すぎるんじゃないか?」


「ジ、ジグマくんはすごく素直な人だから……」


 リオンの言葉に、隣のレインが苦笑しながら返す。


「ずりぃ……俺だってラクアと仲良くなりたいのに……」


 レインのさらに隣にいたアルマが、頬を膨らませ不満を漏らす。


「アルマくん……だったよね。なんでラクアさんにこだわるの?」


「そりゃあ入学早々、教室であんなかっこいいところみたら、友達になりたいって思うのは当然だろ?」


 レインの表情がパッと明るくなる。


「分かります!その気持ち」


「だろだろ!……ってことで、俺もラクア親衛隊に入れてくれよっ」


「俺は入ったつもりはないんだが……」


 盛り上がる二人とは裏腹に、リオンは困ったような顔だ。そんな三人のやり取りを、ラクアは横目で見ていた。


(今のところ、アルマが俺の力について触れる様子はない。しばらくの間監視しておくが、場合によっては――)


 その時だった。


ヒュンッ!!


 後方から何かが飛来した。


 ラクアは身を屈めてそれを交わす。通り過ぎた何かは、近くにあった覗き鏡をパリンと割った。


(誰だ!?)


 振り返ったラクアは、レインの少し後方に、佇んでいる集団があることに気がついた。その先頭に立つ男は、こちらに指先を向けている。


 憎たらしいほどの美少年だ。ブロンドの髪に、猫のように吊り上がった鋭い目。左眉の上で分けられた前髪は左右非対称で、一方は右耳まで流れている。長い後ろ髪を三つ編みにしていて、それが肩に掛かっていた。


「やあ、ラクア・シャーデット。会えて嬉しいよ」


 自身に満ち溢れた笑みを浮かべるその男は、ゆっくりとした足取りでラクアと距離を詰める。


(黄色のローブ……セレナイト寮か)


「お前のことは噂で聞いていたんだ。なんでも、入学試験を首席合格した秀才なんだとか……」


「誰だてめぇ!アニキに何のようだ!!」


 気づけば二人の周囲には多くの生徒が集まっており、その視線の全ては見つめ合う二人に注がれていた。


「俺に名乗らせるとは脇前を知らない奴だ。だが、俺は今気分が良い……無礼を許してやろう」


 男は一呼吸置いて、


「俺の名はレイヴァー。……この学校を統べり、王となる傑物だ。以後見知り置け、下々ども」


 胸に手を当て、軽く頭を下げる。その振る舞いの節々には確かな気品が感じられた。


 遅れて、周囲にどよめきが起こる。


「すげぇ……あれが?」

「アカデミーからの進学生……」

「内部進学者の頂点って話だぜ」

「一年に見えないわね」


「あれが、カミラ・レイヴァー……」


 レインも言葉を漏らした。


「ラクア、俺がわざわざお前に会いに来てやったのはお前に提案があったからだ」


 そう言いながら、レイヴァーはラクアの頭に優しく手を置いた。


「――っ!」


 ラクアの手が、すぐさまレイヴァーの手を弾く。


「ははっ、そんな顔するなよラクア……。お前も薄々気づいてるんじゃないか?


「なんの話だ」


「……俺とお前は、似ている」  


 舐め回すような視線が、ラクアに向けられる。


「共に進学者の頂点であり、男では珍しい魔術師。そして、俺たちは互いに…女に与えられる名前をつけられている。だが――」


 レイヴァーは再び一歩踏み込んだ。ラクアの両肩に手を置き、顔を上げる。その顔からは、先ほどの余裕ぶった笑みが消えていた。


「――王は、二人も要らない……」


 鼻同士がぶつかる距離。二人の視線が噛みつき合うように交わり、火花を散らした。


「そこで提案だ。これから卒業まで、俺とお前で勝負をしないか?」


「勝負……」


「そう。三年間、俺たちは互いに決闘を申し込み合い、競い合う。魔術、剣術、武術……種目は何でもいい」


 レイヴァーの語りを、周囲の人間は固唾を飲んで見ている。


「卒業時、勝利数の多い方が勝者となり、敗者になんでも一つ命令できる。どうだ……良いルールだと思わないか?」


 ラクアは目を逸らすことなく、レイヴァーを睨み続ける。


(この勝負、受けるメリットは正直小さい。だが、こいつの影響力はおそらく本物だ。うまく利用出来れば、名をあげる大きなチャンスになる)


「そんなめちゃくちゃな勝負、アニキが受けるわけ――」

「良いだろう」


 ジグマの言葉をラクアが遮る。中庭一帯にざわめきが広がった。


「ラクアさん!?」

「お前……正気か?」


 レインとリオンも、驚愕の声を上げる。アルマだけは、変わらずニヤニヤとした笑みを浮かべていた。だが、その目は笑っておらず、ラクアを真っ直ぐ見据えていた。


 ラクアの返答にレイヴァーは手を叩き、再び笑みが顔に戻る。


「お前ならそう言ってくれると思ったよ。契約成立だ…。言い忘れていたが、申し込まれた決闘を断ることは出来ない。断ればその時点で負けだ」


「俺が、お前ごときに臆するとでも?」


 ラクアが冷ややかに言い返す。その視線を、レイヴァーは真っ直ぐ受け止めた。


「やはり、お前は面白い。お前が首席で本当によかった……」


 ラクアの喉仏に、人差し指が突き立てられる。


「震えて待っていろ……。お前を王座から突き落とすのは俺だ」


 そう言って踵を返すと、レイヴァーはセレナイト寮の集団と共に、来た道を戻って行く。


「敗北に泣き叫ぶさまを楽しみにしているぞ、ラクア・シャーデット……」


 レイヴァーはラクア達に背中を向けながら、大きくひらひらと手を振った。その手からは恐れも、不安も、焦りさえも感じられなかった。


(やってやるよ、レイヴァー……)


 その後ろ姿を、ラクアは静かに見つめる。


――俺はお前をも利用して、この学校の王座を貰う

[アークディア雑多学]

この世界は小学校や中学校の代わりにアカデミーというものがあり、レイヴァーはアークディアに付属するアカデミーの卒業者です。ジグマはアカデミー時代番長を務めており、地元でも名だたる不良として恐れられていたそうです。


明日も20時頃投稿予定です。


『面白い!』


『続きが気になる!』


『応援したい!』


と思っていただけたら、下にある☆☆☆☆☆から応援していただけると幸いです。


初投稿作品なので、ブックマークや、感想もいただけると大変嬉しいです。


今後もよろしくお願い致します。

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