第二十話「選ばれし人間」
[アークディア雑多学]
リオンは大兄弟の末っ子で、一番上の兄とは九歳差もあります。全員地球で言う国民的アイドルほどの美形なのですが、全員ドがつくほど天然なので彼女は今のところ誰もいません。
明日も20時頃投稿予定です。
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今後もよろしくお願い致します。
”最強の男”。そう呼ばれた白髪の老人、オルヴェウスは最前列にある玉座のような空席に腰掛ける。その途端、張り詰めていた空気がすっと引いた。
ラクアは思わず息を吐く。
(何だったんだ? さっきまでの威圧感は……)
「優秀な者たちよ……」
オルヴェウスが地鳴りのような低音を響かせた。
「今日ここに集うことができたことを、私は嬉しく思う。まずは先ほどの事を心から詫びよう。皆を静めるために、最も迅速な方法をとらせてもらった」
(なるほど、あの威圧感は意図的なものだったのか)
「だからって……あんなにやらなくても……」
レインが小さく呻いた。
「手短に終わらせるとしよう。新入生に告ぐ。本校は大陸随一の就職率を誇る。己を磨くことを怠らず、人としての力を日々向上させることに励め。さすれば卒業後、輝かしい未来を手に入れられると約束しよう」
「ようは自分次第ってことだな……」
そう言ったリオンはいつも通りの無表情だったが、その目には確かな熱がこもっている。
「最後に、“警備団”団長のサーバル・レイヴェールから注意事項が届いている。西塔に展示されている“強欲の石”の一つ『峻酷なる粛清』について、先日警備に不備が判明した」
大広間一帯にざわめきが波のように広がる。
「しばらくの間、西塔最上階の出入りを禁ずるとの事だ。皆くれぐれも用心するように」
(強欲の石……四つ全てを手にすれば、なんでも願いが叶うと言われている世界一の秘宝……)
ラクアは手を強く握りしめた。だが、そのことに気づくものは誰もいない。
(俺がこの学校に来た理由の一つだが――)
ラクアの冷たい眼差しが、オルヴェウスを鋭く射抜く。
――俺がここを卒業する頃には、その全てが姿を消すことになるだろう
---
入学式が終わり、ラクア、レイン、リオンの三人は、配布された地図を頼りに教室へと向かっていた。
「そういえばリオンくん、一つ気になったことがあったんだけど……」
「俺にはタメで話してくれるんだな、レイン」
「うん、今のうちに出来るだけ距離は近づけておきたいと思ったんだけど……駄目だったかな」
レインは頬を掻き、自信なさげに笑った。
「いや、その方が俺としても嬉しい。で、気になった事って?」
「さっきラクアさんに、お兄さんの特徴を聞いたのってなんで?」
その言葉に、リオンは「あぁ」と声を漏らす。
「俺、兄貴が四人いるんだよ」
「えぇっ! 四人も!?」
レインは素っ頓狂な声をあげた。
(確かに、この世界で大家族は珍しいな……俺のとこも
言えた口じゃないが……)
「仲はいいのか?」
「まあ、そこそこだと思う。みんないい奴だから喧嘩することもないし……」
「いいなぁ……」
レインは少し俯きながら、寂しげに笑った。
「お前は、兄弟いないのか?」
「ま、まあね……そう言えば、ラクアさんはいるんですか? 兄弟」
ラクアは一瞬間をおいて、
「妹が二人と、弟が一人だ」
淡々と答える。
「そうなんですか!? 意外…ですね」
「てっきり俺もいないものかと」
レインとリオンは、揃って目を丸くした。
「ラクアさんの兄弟か……きっとすごく優秀なんでしょうね!」
レインは興奮した様子で食いつく。
(優秀、か……)
「そうだな、本当にできた奴らだよ。俺なんかには勿体無いくらいに……」
ラクアは二人から目を逸らしながら応えた。同時に胸の奥に、ずっしりと何かがのしかかる。
(今のこいつらに、俺の家族のことを言う必要は無いし、これからもそのつもりはない……)
――みんなの死を背負うのは、俺だけで充分だ
「……ラクアさんって、そんな優しい顔するんですね」
その言葉に、ラクアは我に帰る。
「優しい……俺がか?」
記憶が戻ってからと言うもの、感情らしい感情は全く湧いてこない。ただ強い憎悪だけが、ラクアを突き動かしていた。
「俺もさっきまでと大して違いを感じないんだが……」
「僕には分かるんです。ラクアさんは、家族をとっても大切にする人なんだって」
レインはそう言って、白い歯を見せて笑った。その隣にいたリオンが、ふと身につけていた腕時計に視線を落とす。
「おい、あまり時間が無い。少し急ぐぞ」
そう言って歩みを早めた。レインもそれに続く。だがラクアは一瞬立ち止まった。前を歩くレインの背中を静かに見つめる。
(それは違うぞ……レイン。大切になんてできなかった。だから今、俺はここにいるんだ)
「ラクアさん、何してるんですか?」
「早くしねぇと、朝礼に間に合わねぇぞ」
二人は振り返り、立ち止まっている。
「ああ、今行く」
ラクアは足早に二人の後を追った。
---
「着いた……ここが僕たちの教室だ」
ラクアの前には横引きの扉がある。教室の外観は前世で見たものとほとんど変わりは無い。
「入らないのか?」
教室後ろ側の扉の前で動かないレインに、リオンが声をかける。
「は、入りますよ、もちろん……」
レインは恐る恐る扉に手をかけ、横に引いた。中へと踏み出し、リオンとラクアも後に続く。中も外観と同じく、見覚えのある景色だった。椅子が縦に六列並び前方には黒板。座席にはすでにほとんどの生徒が腰掛けていた。
「すごい、こんなに人が……」
レインがあんぐりと口を開けたその時、
「おい、コラてめぇ!!」
荒々しい声が教室に響き渡った。
橙色の髪をリーゼントにしたがたいの良い少年が机に足を上げ、ラクアを憎々しげに睨みつけている。
「お前は、確かエバーグロス停留所にいた……」
「ラクアさん、お友達ですか?」
「仲が良いようには見えないが……」
リオンが言葉をこぼすと、リーゼントの少年は立ち上がった。しっかりとした足取りでラクアと距離を詰める。
「このジグマ様とぶつかっておいて、ただでいられると思うなよ……。有名な話だが、ここは生徒間の決闘が認められている戦闘至上主義の学校だ。俺がお前をカタにはめようが、咎められることはねぇ……」
「それだけ聞けば、さながら不良校だな。お前、今まで腕っ節で人の上に立ってたタイプだろ」
「ペラペラと……誰が喋っていいって言った? あ゛ぁっ? どうやら、痛い目に合いてぇみてぇだなぁ!!」
ジグマは拳を大きく振りかぶった。
だが――その拳が振られる事は無かった。
パァン!!
振られるより早く、ラクアは一瞬でジグマの真横に移動し、拳を止めていた。
「なっ……!!」
教室の全員が息を呑む。
「てめぇ!!」
ラクアは、続けて振り払われた右腕をかわす。
ジグマは止まらず、ラクアに向かって拳や足を振り続けた。だがその全てを、最小限の動きでかわされる。
(何だよ……これ。当たる気がしねぇ!?……)
「一つ、お前は勘違いしてるようだが――」
刹那、ラクアは躱した腕を掴み引き寄せる。そのままジグマを背負い、素早く投げ飛ばした。
「がはっ!!」
床が揺れ、叩きつけられる音が教室に響く。
「ここは選ばれた者だけが集う場所だ。お前がこれまで威張ってきた力は、ここじゃ通用しねぇよ」
冷徹な視線。
「ひっ――」
ジグマの顔は凍りつき、冷や汗が流れる。
(何だ……何なんだよ……この化け物は!!)
「くそがぁぁっ!!」
ジグマは闇雲に駆け出した。
「お前は、俺が“使って”やる……」
小さく呟いた後、ジグマの視界からラクアが消えた。直後、うなじに手刀による一撃が叩き込まれる。ジグマの体は崩れ落ち、地面に伸びて動かなくなった。
教室が沈黙に包まれる。誰もがラクアに注目し、その顔を恐怖に歪めていた。
その時、扉が開く音が沈黙を破った。入って来たのは、一人の男だ。白い長髪に鋭い水色の瞳。高身長を深い青色のローブが包んでいる。
「全員席につけ、朝礼を始める」
男は教壇に立つ。そして、教室の後ろを見るなり、目を細めた。
「進行を妨げる決闘は、褒められたものではないな」
「自己防衛ですよ。先に手を出された事は、この教室の全員が見ていますが……」
男は静かにラクアを見つめる。その表情からは、何も読み取れない。
「ラクア・シャーデット……だったか」
「はい」
「……了解した。後で確認する。速やかに着席しろ」
男は表情を変えずに言った。
「あとで……って、一体どうやって……」
リオンが小声を漏らした。
「あ、あの……この人はどうすれば」
レインは地面で動かない少年を指さした。
「……保健室に連れて行ってやれ。お前達二人には、あとで個別に説明する」
「わ、わかりました」
レインはジグマを担ぎ上げ、ふらふらとした足取りで教室を出ていった。その間にラクアは自分出席番号の席に腰を下ろす。
「これから、この学校についての説明を行う。申し遅れたが、私はここルベライト寮一年の担任となったヴィクター・アルヴァースだ。これから三年、お前たちが優秀な人間に育つよう努めるつもりだ」
淡々とした口調。落ち着いた声に教室の空気は微塵も揺らがない。
「お前たちには卒業までの三年間、同じ学年の他の寮と競い合ってもらう。この学校では、至る所にある“のぞき鏡”によって、一挙手一投が監視されている」
その言葉に、教室の空気は一変。
「嘘でしょ……」
「監視って……」
「風呂は? トイレは?……どこまで監視されてんの?」
口々に驚愕と疑問の声が漏れる。
コン、コンッ
アルヴァースが、取り出した小型の杖で机を叩いた。その静かながら圧するような音に、再び教室が静けさに満ちる。
「のぞき鏡が配置されているのは廊下や教室、談話室などの公共の場のみだ。寝室などの個人の空間は確保されている。だがそれ以外の場所では、常に誰かに見られていると思え」
(徹底した監視体制……情報通りだが、やはり動きにくいな)
すると一人の少年が挙手した。紺色の髪を持つ、真面目そうな生徒だ。
「先生、それで僕たちは何を競うんですか?」
「お前たちは、寮点というものを稼がなければならない。寮点は生徒同士の決闘、試験の結果、授業態度などにより増減する。そして卒業時、最も点が多い寮は――一万ガルドが全員に与えられる」
「なっ――」
「まじかよ!!」
驚きと期待が、波のように伝わっていく。
日本円に変換すると一億円。一般的に人が生涯で稼ぐ年収は三億円といわれているため、その三分の一を社会に出る前から保証してもらえるというのだから当然の反応だろう。
だがそんな中、ラクアは表情を変えなかった。そんなことはすでに承知の上で、この学校を選んだのだから。
「説明は以上。朝礼を終わる。今日一日は各自校内を見学して過ごすように」
そう言い残し、アルヴァースは教室を出た。緊張の糸が切れたように、教室が騒がしくなる。
「聞いたかラクア。こんなすごいとこだったなんて俺は知らなかった」
後ろに座っていたリオンは、相変わらず感情の薄い表情だったが、高揚しているのは明らかだった。
「ああ、俺も初めて知ったよ」
「俺も兄貴たちに負けてられねぇ。金にはそこまで魅力を感じないが……絶対一位になってやる」
リオンの瞳が熱く燃えた。
「そういえばレインの奴、一人で大丈夫なのか?」
「気になるなら、助けにいったらどうだ」
ラクアは仏頂面のまま返す。
「そうだな、行ってくる」
リオンは立ち上がり、教室を後にした。
(それにしても本当に良かった。この学校を選んだ理由、強欲の石でもなく寮対抗戦でもない――最後の一つに、こんなにも関与しやすい状況になるなんて……)
その時だった。
「よっ!秀才くん」
後ろから誰かに呼びかけられた。振り返るとそこには、知らない少年が立っている。燃えるような真紅の髪に、血のように赤く大きな瞳。背丈はラクアとさほど変わらず、体格までもそっくりだ。
「ホント良かったぜ。おんなじ寮で」
その瞳が交わった瞬間――、
奇妙な感覚がラクアを襲った。頭の内を見透かされているような、不気味な感覚。なぜだかわからないが、今すぐに逃げ出してしまいたくなるような悪寒が背中に走った。
だが少年の表情からは圧も邪悪も感じない。どちらかといえば、柔らかな印象を放っている。
――いったい何なんだ、こいつは……
心臓が跳ね、冷や汗が頬を濡らした。
「俺はアルマ。宜しくな、ラクア!」
アルマはラクアに手を差し伸べ、輝くような笑顔を浮かべた。まるで先ほどまでの感覚が錯覚であったと思ってしまうほど、その瞳は透き通っていた。




