第十七話「入学試験」
入学試験当日の朝、ラクアは黒色の地味なローブに身を包み、トランクを持って玄関に立った。振り返り、落ち着いた笑みを浮かべるファウロと向き合う。
「受かればしばらく戻らないが、休みには顔くらい出すさ」
「そうかよ。……にしても、あの生意気なチビが自立とは……泣けてくるぜ」
その言葉に、ラクアは首を傾げた。
「まるで受かる前提で話が進んでないか?」
ファウロはきょとんとした表情を浮かべる。
「お前が落ちるなんてことはありえねぇだろ。お前のことを何年見てきたと思ってる」
次の瞬間、ラクアはファウロに抱き寄せられた。顔が火照るのを感じながらも、無抵抗のまま俯く。
「胸張って生きろ。お前には俺が……家族がついてる」
「くさいセリフ言うようになったな。年か?」
「うっせえ」
ファウロはハハッと笑い、抱きしめていたラクアを離した。
ラクアは改めてファウロと向き合う。
「ファウロ。今まで本当に世話になった」
「やめろよ、後生の別れみたいに言うのは」
これまで何度もラクアを諭してきた真っ直ぐな目がラクアの青い瞳に映る。
「また、いつでも帰ってこい」
ラクアは頷き、扉を開けた。暖かな朝の日差しが玄関に差し込む。これから始まる日々は、決して輝かしいものではないはずなのに……。
「行ってきます」
ラクアはそう言い、外へと踏み出した。また帰って来られることを心から願って。
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一時間後、ラクアは街の外れで捕まえた馬車に揺られていた。懐から受験票を取り出し、一つの文を確認する。
『集合場所:各国の飛行車停留所』
(飛行車……空飛ぶ馬車だということは知っているが、いったいどうやって飛ぶんだろうか……)
そんな疑問を浮かべているうちに、馬車は止まった。ラクアは料金を払って馬車を降りる。そこは馬車の停留所で、ラクアが乗ってきた馬車の周りにもいくつもの馬車が規則正しく並んでいた。
馬車から降りてくる人々は、ローブ姿や軽装の剣士など、様々な格好をしている。だがその他の多くは、ラクアと同じくローブにトランクを持った同年代の若者たちだ。期待に満ち溢れた表情をした者もいれば、緊張気味な顔をした者もいる。
馬車から降りた者たちは、皆同じ方向へと歩いていく。人々が進む先に建っていたのは、煉瓦造りの、五十階建てはあるであろう巨大な建物だった。
(これがヘルバ最大の建造物。エバーグロス停留所か)
人混みに流されるように、ラクアは停留所へと向かっていった。
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中は外よりもさらに多くの人々で溢れていた。
「アークディア魔法学園に受験する方はこちらへどうぞ!!!」
話し声や雑踏の中、一際大きな声が響く。声がした方向には、紺色のコートを身に纏った大人が声を張り上げていた。胸には金色のバッジが留められており、大きな鳥が描かれている。
(フェニックス……アークディアの校章か。ならあそこで間違いなさそうだ)
ラクアは人混みをかき分けながら、声の方へと進んだ。
その時――
ドンッ
何かに軽くぶつかる。振り返ると、ラクアを見下ろす一人の少年が居た。ラクアと同じ制服。橙色の髪をリーゼントにしているその少年は、殺意を持った目でラクアを睨んでいる。
「てめぇ、どこ見て歩いてんだ……?」
「すまない。気を配っていたつもりだったんだが……」
怖気付く事無く、無表情で返答する。
「しらねぇよクソが……俺ぁ今気が立ってんだよ……」
ラクアより一回り背が高い少年は、覗き込むように顔を近づけた。
「殺すぞ……?」
(話が通じない……これ以上相手にする必要もないな)
踵を返し、先ほど声がした方角へと歩き出す。
「待てコラ!!話は終わってねぇぞ!!」
「君、何かあったのかい?」
気づけば少年とラクアの間には、紺色のコートの男が立っていた。
「君は受験者だね。騒ぎを起こすようであれば、今ここで不合格にするが?」
校章を胸につけた男は、冷徹に言い放つ。少年は舌打ちをして、ラクアと同じように案内に従った。
その光景を横目で見ながら、ラクアは一つ確信した。
(接触したからこそ分かる。あの体格、体の運び方……おそらく受かるな)
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進んだ先には、受験者と思われる若者たちが固まって立っており、ラクアはその集団に加わってしばらく待機した。数十分後、関係者と思われる大人たちの案内によって、集団は列になって進み始める。人混みの横をすり抜けるように、滞りなく集団は進んでいく。
だがしばらくすると進行が止まった。前方を見ると、そこには気が遠くなるほどの螺旋階段が上へと続いている。
一行は肩で息をしながら階段を登る。皆が苦しそうな表情を浮かべながら、列を乱すまいと足を動かし続ける中、ラクアは少しも息を乱すことなく一段ずつ登っていった。
ようやく階段が途切れると、そこからは長い通路が続いていた。集団は他の人々が素通りしていく角を曲り、そのまま個室へと案内され、そこで三つの班に分けられた。
入ってきた方とは別の扉が開き、ラクアの所属する班が最初に呼ばれる。列に従い個室を出ると、そこはバス一台は通れるほどの幅を持つ一本道になっていた。
奥から光と風が吹き込み、ラクアはそこが外と繋がっていることを悟る。だがそれよりも目を引いたのは、目の前にある馬車だ。家から乗ってきたものと比べ、数十倍の長さを誇っている。
(これが飛行車……)
集団が前へと進んだのでそれに続く。搭乗口に近づいた時、ラクアは再び驚いた。馬車につながれているのは見慣れた茶色の馬ではなく、純白の毛並みに大きな翼を持つ四頭の馬だ。
(天馬か。この世界に来る前から知っていたが、実際に見るのは初めてだ……)
天馬は凛とした態度で前方を見つめている。奥から吹き込んで来る風が、長く白いまつ毛を揺らした。
馬車へと乗り込むと、中はバスのように座席が並んでいた。ラクアは空いていた窓側の席に腰を下ろす。
同じ班の全員が搭乗すると、馬車はゆっくりと動き出した。やがて速度が上がり、それに伴って天馬たちが大きく翼を広げる。
その瞬間だった。
道が途切れ、馬車はヘルバの空へと飛び出した。受験者たちは一斉に歓声を上げ、手を叩く音が車内を満たす。ラクアはその音を聞きながら窓から下を覗いた。街がどんどん小さくなっていき、やがてただの模様のようになる。馬車はさらに高度を上げ続け、ついには雲を突き抜けた。
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出発から一時間。車内のざわめきはさらに増していた。受験者同士で会話する者や、呪文を声に出して練習する者がほとんどだったからだ。
そんな中でも、ラクアは一人、窓の外を眺め続ける。緊張していたわけではない。だが魔童園が廃園になって以来、同じ年頃の人間と話す機会が少なかったラクアは、初対面の者と会話する気にはなれなかった。
しばらくすると、馬車は高度を落とし始める。雲を抜け、見えてきた景色にラクアは息を呑んだ。
そこには、山脈に囲まれた大きな街が広がっていた。四王国をまとめる中心都市アランベール。ヘルバよりも若干文明が進んでいるように見えるその街の先に、山々を突き破るように巨大な城がそびえ立っていた。
それが――アークディア魔法学園。まず目に入るのは、高さ十数メートルはある分厚い外壁。幾重にも積み上げられた灰白色の石垣は、まるで王城というより難攻不落の砦を思わせる。外壁の四隅には煉瓦造りの大塔が一本ずつ建ち、さらにその中心には、それらの倍近い高さを誇る主塔が天を衝くようにそびえ立つ。五本の塔は空中回廊によって結ばれ、一つの巨大な城郭を形成している。その姿は魔法学校というよりも、一国を守る要塞そのものだった。
その姿に、多くの受験者が感嘆の声を上げる。そして城の遥か先、山の頂上には、アークディアと同等の大きさを誇る城がもう一つそびえていた。
(たしかあの城、クルドア城には龍王がいるんだったか……)
昔読んだ本の内容を思い出しながら、ラクアはその美しさに呆然とした。二つの城の距離はかなり離れているが、一つの視界に収めることができるほど近いとも言える。
馬車は高度を下げ続け、アークディアの手前にある街へと降り立った。受験者たちは順番に馬車を降り、ラクアもそれに続く。
馬車を降りると、ラクアたちはすぐに別の馬車へと案内された。翼を持たない馬に引かれた馬車に、数人と共に乗り込む。馬車が出発すると、レンガ道を進む振動で軽く揺れた。
揺られながら、ラクアは外の景色を眺めた。人通りと空を飛び交う空郵便の数が多いこと、そして商店街の外にも様々な店が点在していること以外は、ヘルバと大きくは変わらない。
だが、しばらくすると景色が変わり始める。それまでと違い、建物の造りに統一感が生まれ、行き交う人々もラクアと近い年齢に見える者が多くなっていった。
ふと道路脇にある標識へと視線を移す。
『学園都市 アレーナ』
それを見て、ラクアはこの街に若者が多い理由に納得した。
ラクアの事前の調べによれば、アークディアの生徒はアレーナの中にある寮塔と呼ばれる建物で生活している。そして学園都市内の娯楽施設や商店街で休日を過ごすのだ。
やがて馬車は坂道を登り始める。そのまま城の土台となる石垣を登りきり、馬車は城の西側へと到着した。馬車を降りると前方に大きな門が現れ、他の受験者と同様にラクアもその門をくぐった。
その後、紺色のコートを着た案内係に導かれて、ラクア達は城の中へと入った。中は絵画やランタン、絨毯などで細かく装飾されており、華やかな印象を放っている。少し鏡が多い事以外は、ただの綺麗な廊下と言った感じだ。
案内係に連れられ、ラクアたち受験者は大きな円形の部屋へと入った。机と椅子が中央へと下がる階段状に並べられている。その中心には、スキンヘッドにけつ顎といった強面の男が一人、静かに立っていた。
すでに何人かの受験者は席に着き、机の上に置かれた数枚の紙に目を通している。ラクアも同じように腰を下ろし、紙に視線を落とした。
『アークディア魔法学園 入学試験 筆記』
(到着していきなりか……)
そう思いながらも、心臓は不思議なほどに落ち着いている。諸注意に目を通した後、ふと周囲を見渡す。顔を青ざめさせて震えている者。深呼吸を繰り返し、必死に気持ちを落ち着けようとしている者。それぞれの緊張が、静かな空気の中に滲んでいた。
やがて席がほぼ埋まり、入り口の扉が閉ざされる。
「これより、アークディア魔法学園入学試験を開始する!!」
中央の男が声を張り上げた。
「私は本校で教鞭をとっているテリス・マクラーゲンという者だ。今回、縁あって試験の総監督を務めさせて頂く」
迷いなく発せられる言葉に、ほとんどの生徒が気圧されている。だが中には、教授に目もくれずぶつぶつ声を発している者や、ふんぞりかえって値踏みするような目つきの者もいる。
「我が校はこれまで、優秀な人材を社会に送り出し続けてきた。我が校に入学することができるかどうか、それによってこの先の人生が決まるといっても過言ではない。今日という日が、君たちの人生における大一番であることは間違いないだろう」
マクラーゲンは一人一人の目をじっと見つめていく。その目には、人を激励するような熱がこもっていた。
「私から言える事はただ一つ……君たちの強さを、想いを、全力で我々にぶつけてくれたまえ」
(やる事はただ一つだ……)
ラクアは深く息を吸い込んだ。
「それではこれより、第一次試験……筆記試験を開始する。……始め!!」
その瞬間、紙を捲る音が部屋中に一斉に響き渡った。
筆記試験が始まった。
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二時間後。ラクア達受験者は筆記試験を終え、城の北側にある広大な校庭に立っていた。 芝生の上に立つ受験者たちは皆、覚悟を宿した目をしている。その視線の先にある壇上には、マクラーゲンが立っていた。
「これより、第二次試験……実技試験を行う!!」
その一言で、場の空気が引き締まる。受験者達の目は、さらに鋭さを増した。
「諸君らには、三つの項目に挑戦してもらう。最初に出力測定試験、次に剣術試験、最後に総合力試験だ」
マクラーゲンは懐から、三十センチほどの棒状の物を取り出す。
(あれは……小型の杖か?)
マクラーゲンはそれを軽く振った。途端に受験者たちから少し離れた場所でポンッという軽い音が鳴り、巨大な氷の像が出現した。人の形を模したそれは透き通る巨体を持ち、まるで氷でできた巨人のようだ。
「出力測定試験は、この氷像に放出系魔法を一撃放つというものだ。採点基準は破壊面積。飛行車で分けた通り三班に分かれ、名前を呼ばれた者から前に進み出るように」
説明が終わると同時に、受験者たちは三つの班に分かれて整列する。
ほどなくして、実技試験が開始された。ラクアの列の審査員は、目が吊り上がった細身の女と、試験進行を務めている男、マクラーゲンだった。
前から順に二人ずつ名前が呼ばれていく中、ラクアは城の造形を頭に入れようと、周囲をくまなく観察する。
「……なぁ、お前」
不意にかけられた声に、ラクアは視線だけを向けた。前に並んでいた赤毛の少年が、興味を測るようにこちらを見ている。その隣では、茶髪の少女が小さく首を傾げていた。
「さっきから死体みたいな表情のまま固まってるけど大丈夫かぁ?」
その少年は言葉と裏腹に、心配の意志など毛ほどもないように見える。むしろ見下したような目線をラクアに向けていた。
「……俺になにか?」
「別に。ただ気になっただけだ」
少年は肩をすくめる。
「この場で平常を保てる奴は、大抵二種類だ。本物の実力者か、はたまた状況が飲み込めずただ呆然とすることしか出来ない奴か……」
少女がくすりと笑う。どうやら二人は知り合いらしい。
「それでお前、自分はどっちだと思う?」
(……くだらないな)
少年の問いの生産性のなさに呆れ、ラクアは思わず短く息を吐いた。
「別に……どう取ってくれてもいい」
「ははっ、強がんなよ」
少年は口角を上げる。
「見りゃ分かる。お前田舎もんだろ」
一歩、距離を詰める。
「ここは優秀な人間が通う学校なんだ。お前みたいな田舎もんが来るとこじゃねぇんだよ」
「ま、せいぜい頑張りなさいよね」
少女が軽く手を振る。
「無様な格好を晒すことにならなきゃいいけど……」
(他人を貶めることで優位に立つことでしか、自分にかかるプレッシャーを払い除けられない弱者が二人……か)
無視を決め込むか、それとも何か返すか。ラクアがわずかに思案したその時――、
「ソルン・ペオルド」
「イーファン・ショー、前へ!!」
ラクアの前にいた二人の名前が呼ばれた。いつの間にか、列は進んでいたようだ。二人はニヤリと笑みを浮かべたまま、氷像の前に立つ。そしてそれぞれの氷像に同時に手を向けた。
「始め!!」
「『火炎』!!」
「『炎弾』!!」
両者の手から炎が放たれ、氷像を撃ち抜く。少女の氷像は腕が吹き飛び、少年の氷像は頭部が破壊された。
「そこまで!!」
マクラーゲンが声を張り上げる。二人は笑みを浮かべたまま、まだ名前が呼ばれていない者たちの横に並ぶ、出力試験終了後の待機列へと戻った。
(自信につき、少し期待していたが……はずれだったか)
すれ違いざま、少年はラクアに薄ら笑いを向けた。
「見ててやる……せいぜい恥をかかないよう頑張れ」
ラクアは少年を見ず、ただ前に進む。
(……駒として見るには、物足りないな)
「ラクア・シャーデット、前へ!!」
ラクアは迷う事なく、氷像の前に立った。
(採点基準は破壊面積……なら急所を狙うのではなく全体を一瞬で消し飛ばせば満点だ。ターゲットは氷……熱を使うことが第一前提か)
手を氷像に向け、目を閉じる。筆記は問題なくこなした。ラクアにとってこの試験は、合格のためだけのものではない。入学後に上の人間から一目置かれる存在になるため、他の受験者と力の差を示す必要がある。
(なら、ありきたりな威力では不十分……)
その時、ラクアの脳裏に一つの考えが浮かぶ。
(あの仕組みを使うか……)
ラクアは目を開き、氷像に狙いを定めた。
「始め!!」
号令と同時に、ラクアは小さく呟いた。
「『火』」
次の瞬間、ラクアの手のひらに、小さな炎が灯る。
そのあまりに控えめな火に、マクラーゲンは目を見開いた。
「なんと……」
赤毛の少年は、それを見て声を上げて笑い出す。少年だけではない。誰もが失笑しかけた、次の瞬間――、
その笑いは凍りついた。
「『巻風』」
ラクアの手を中心に、風の渦が巻き起こる。炎は風に煽られ、急激に勢いを増した。蔓延る熱で、空間が歪む。その場にいた全員の表情が、驚愕に変わっていった。炎は膨れ上がり続け、やがて色を変え、鮮やかな青へと染まっていく。
「馬鹿な…?!」
審査員の男が声を漏らす。炎は氷像と同等の大きさまで膨れ上がり、渦を巻いた。
「はぁっ!!」
ラクアの一声と共に、轟音が弾ける。巨大な青い炎が一直線に放たれた。芝生を焼き裂きながら進んだそれは、一瞬で氷像を飲み込む。
黒煙が辺りに立ち込め、その場にいる全員の視界を覆った。
やがて煙が晴れる。
立ち尽くすラクアの前方には、何も残されていない。芝生も、氷像も、跡形なく消え失せていた。
ゆっくりと周囲を見渡すと、試験管を含む全員が、言葉を失ったままラクアを見つめていた。それはまるで、異形の怪物を見るかのような視線だった。
焦げた匂いが鼻をつき、沈黙が場を支配する。
それを破ったのは――、
「そ、そこまで……次の者、前へ……」
試験管であるマクラーゲンだった。ラクアは何も言わず、ゆっくりと待機列へと戻る。
(炎に風を加え、酸素を送り続けることで一瞬で高温へと引き上げる。強風下でも燃え続ける魔法の炎だからこそ、成立する魔法だ)
すれ違う受験者たちの声が、自然とラクアの耳に入る。
「あれ……融合魔法か?」
「なんだよ、それ」
「まさか……誰も扱えないはずだろ?」
「すげぇ……」
「でも、青い炎って……」
ラクアはそれらに一切反応せず、歩みを止めない。
列に戻ると、前方にあの二人の姿があった。赤毛の少年と、その隣の少女。その表情は、先程までの余裕を失い、恐怖と憎悪が入り混じっている。
「お、お前……」
「そこまで驚くことでもないだろ。ここは優秀な人間が通う学校だ。これくらい出来なきゃならないんじゃなかったか?」
ラクアは二人に向かって、視線すら向けないまま言い放った。まるで挑発してきた二人ではなく、自分自身に言い聞かせているかのように。
♢♢♢
ラクアが放った異次元の大技に驚愕していたのは、同じ班の者だけではない。一つの班を挟んで一番奥で試験を行なっていた者達の目にも、その魔法は確かに焼き付けられていた。
皆言葉を失い、揃いも揃って口が空いたままだ。だがその中に一人、他とは違う表情の少年がいた。
アルマ・グラウクス。真紅の髪の間から除く血のように赤い目は、まっすぐとラクアを捉えている。
「見つけた……」
誰もが息を呑む中、ただ一人――
その少年だけが、笑っていた。




