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拝啓、全てを失ったキミへ―転生した復讐者は、優等生の仮面を被る―  作者: 藍澤誠
第零章 心火篇

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第十二話「愚兄」

 翌日、ラクアはリーアの元気な声で目を覚ました。


「起きて兄さん! もうお昼だよ!!」


 目を開けると、小さな手が全力で自分の体を揺さぶっている。


(やってしまった…。つい寝過ぎたか……)


 わずかな罪悪感を覚えつつ、体を起こして居間へ向かった。


 リーアに急かされながら身支度を整え、テーブルに置かれていた作り置きの昼食を慌ててかき込む。予定より少し遅れて家を出ると、ラクアは誰もいない家をきちんと戸締りし、リーアの小さな手を取った。


 歩き始めると、リーアはすれ違う人々を少し怖そうに見上げながらもラクアの手をぎゅっと握りしめ、「あれなに?」「ここどこ?」と、途切れることなく質問を投げかけてきた。


 ラクアは一つ一つ答えながら、約三年前、自分も同じように両親を質問攻めにしていたことを思い出し、思わず目を細めた。


「よぉ、坊主!!今日は妹ちゃんも一緒に特訓か?」


 商店街を通りかかると、いつも通り露店から声が飛んで来る。


「いいえ、今日は休みをもらってて。農場にいる父と合流してから、出かける予定なんです」


 ラクアは差し出されそうになった農作物を「今日ばかりは」と断り、その場を後にした。


 活気あふれる通りを進んでいると、ふいにリーアがラクアを見上げる。


「兄さんは、やっぱりすごいね!」


「え? なんで急にそんなこと……」


 思いがけない言葉に、少し顔に熱が帯びるのを感じながら聞き返した。


「お店のおじさんたち、みんな兄さんのこと大好きなんだなって。この前もね、お隣のおばさんが兄さんはすごいって言ってたよ!」


 ラクアは純粋で愛くるしい目が自分の胸の奥を甘やかに温めるを感じ、気づけばリーアの頭をそっと撫でていた。


「リーアだって、みんなにすごく大事にされてるじゃないか。お前は俺なんかより、ずっとすごくなれるさ」


 撫でられたリーアは少し頬を赤らめ、満足そうに笑う。天使の手の感触を噛み締めながら、ラクアは軽い足取りで通りをすすんだ。


 しばらくして、二人は装飾品がずらりと並ぶ露店の前を通りかかった。金属や宝石が陽光を反射し、きらきらと輝いている。


 唐突にリーアの足がぴたりと止まった。


「見て見て、兄さん!これ、すっごく綺麗!!」


 リーアは目を輝かせ、氷のように透き通った石で作られた髪飾りを指さす。淡い光を受けて、冷たい輝きが揺れていた。


 リーアの年相応の表情が、ラクアの胸に衝動を産む。


(これをリーアがつけたら……どんなに綺麗だろう)


 だが――値札を見た瞬間、その想像は無慈悲に打ち砕かれた。


「……に、二十ガルド……」


 日本円で二十万円。思わず声が漏れ、落胆で体が硬直する。その様子を見て、露店の店主がくつくつと笑いながら声をかけてきた。店主は老人だが、背筋がピンと伸びている。


「お前さん、たしかこの街の英雄とか呼ばれてるラク……なにがしくんじゃないか?」


「初めまして。ラクア・シャーデットと申します」


 慌てて姿勢を正し頭を下げると、店主は肩をすくめた。


「これはご丁寧にどうも、うちは他の店と違って高値のものしか取り扱ってないから、なかなか譲れるものがなくてね……」


「いえいえ、お構いなく」


 そう答えるも、店主は首を振った。


「だが、ウチだけ君に借りを作るのも癪だ。これも何かの縁。好きなもの一つ持っていってくれ」


「そんな……受け取れませんよ」


「そう言わず……と言っても、英雄と呼ばれるお前さんのことだ、いらん謙遜をして受け取ってもらえないのだろうな。……なら出世払いで構わんよ。君が将来偉大な人間になったその時、金額の半分を返してくれ。もっとも、その頃にワシが生きてるかわからんがな」


 店主はそういうと、高らかに笑った。店主の熱意と期待に満ちたリーアの視線に抗えず、観念して氷色の髪飾りを手に取る。そして、そっとリーアの白い髪に留めた。


「わぁ……!」


 リーアはその場でくるくると回り、弾けるような笑顔を見せた。それを見て、ラクアと店主は、自然と顔を綻ばせる。


「どう兄さん、可愛い?」


「あぁ、宇宙一可愛いよ!!」


「こりゃ譲ったかいがあるってもんだ!!」


 リーアをぬか喜びさせるわけにもいかず、支払いと礼を済ませて店を後にした。


 街を抜けた二人は、延々と続くあぜ道を歩き始める。代わり映えのしない景色に、ラクアは少し退屈を覚えながらも、リーアを飽きさせないよう必死に会話を続けた。


 二十分ほど歩いた頃、ようやく景色が変わり始めた。はるか前方に木製の柵が見える。それは横に伸び、数百メートル先まで続いていた。


「ここが、父さんの仕事場所……」


「のうじょーって言うんだよね! すっごく広いね!!」


 リーアは興奮した様子で手を振りほどき、駆け出す。


 慌ててその後を追うと、目に飛び込んできたのは思考を奪うような美しい景色だった。柵の向こうには、黄金色に輝く小麦畑が広がっている。水路を流れる水はきらきらと光り、あちこちから牛の鳴き声が響き、独特の獣臭が鼻をついた。


 すると右手側の道から、ガラガラと音が響いてきた。現れたのは大きな牛車。黒く大きな牛の上には、一人の青年が跨っている。


 白髪の前髪は顔の中央で分かれ、整った額がはっきりと見えていた。切れ長の金色の瞳には、どこか揺るぎない自信が宿っているように見える。白いTシャツに茶色の長ズボンという、いかにも田舎らしい格好ではあったが、それを打ち消してしまうほど顔立ちは整っていた。「好青年」という言葉は、この男のためにあるのではないかと思うほどだ。


「あれ、もしかして君たち、ジークさんの息子さんと娘さん?」


 青年の声は、聞く者を落ち着かせるような優しいものだったが、どこか年相応の幼さも残っていた。


「こんにちは。ラクア・シャーデットと申します」


 すぐに深く頭を下げると、それを見てリーアも慌てて同じように頭を下げた。


「これはご丁寧にどうも。俺は君たちのお父さんの元で働かせてもらってる、レーヴェストという者だ」


「そうでしたか。いつも父がお世話になっています」


 レーヴェストは一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに柔らかな笑みを浮かべた。


「いやいや、こちらこそ君達のお父さんには感謝してもしきれないよ。……おっと、話したい気持ちは山々なんだけど先に伝えなきゃいけないことがあってね」


 そう言って、ズボンのポケットから一枚の紙切れを取り出す。


「君は賢いから、俺の伝言だけじゃ信用しないかもしれないってジークさんが」


 ラクアは紙を受け取り、書かれた文字に目を走らせた。


―――

ラクアとリーアへ


長旅ご苦労様。午前で終わるはずの仕事が少し長引いてしまってね。私はここから少し先にある村の商店街まで行って仕事を終わらせてくるから、二人はそこにいる青年に、私の居る街の入り口まで送り届けてもらってくれ。


ジーク

―――


 筆跡は間違いなくジークのものだった。気づけばリーアは、すでに牛が引く荷台によじ登っている。


「よいしょっと……兄さん! はやくはやく!」


 急かされ、ラクアもまた苦笑しながら荷台に乗り込む。最後にレーヴェストが牛にまたがり、牛車はゆっくりと動き出した。


 揺れる荷台の上で、ラクアは延々と語られる「ジークがどれほど素晴らしい人間か」という話を聞き続けることになった。ラクアは家族を褒められて悪い気はしなかったが、それもさすがに続きすぎると、少し退屈になってくるのだった。



---



 数時間後。林を抜け、三人は街の入口にたどり着いた。


 門番の立つ門前で、牛車は歩みを止める。


「悪いけど、送れるのはここまでだ。俺はこの先の村に用事があってね」


「父の手紙にもそう書いてありましたし、ここで大丈夫です。送っていただき、ありがとうございました」


 ラクアが頭を下げると、リーアもぺこりと真似をする。


「こちらこそ楽しかったよ。……そうだ、ラクア君」


「はい?」


「俺の一番下の弟が君と同い年でね。リオンと言うんだが、少し人見知りなんだ。どこかで会ったら、仲良くしてやってくれないか?」


 レーヴェストはそう言って、冗談めいた笑みを浮かべる。


「はい!ぜひ!!」


 断る理由など無い。そもそもラクアには一緒に遊べるような友達が一人も居なかったので、その頼みは願ったら叶ったりだった。


 そうして二人はレーヴェストと別れ、街の中へと足を踏み入れた。街の入り口に設置された掲示板で地図を確認し、まっすぐ商店街へ向かう。街並みはカルケルと大きく変わらない。ただ道は少し入り組んでいて、初めて来た人には困難な造りだ。


 街の観察を続けること数分、二人は商店街に到着した。足を踏み入れようとしたその時――、


「君たち、子供だけで何をしている?」


 二人の前に、男が二人立ちはだかった。黒地に白い線が走るローブ。ラクアはすぐに、その正体に思い当たる。


(防衛員……警察か)


「最近、家出の子供が多くてね。目的を聞いてもいいかな」


 穏やかな口調だったが、視線は鋭い。


「父を探しています。この商店街にいるはずなんですが」


 ラクアはジークの外見や仕事の特徴を手短に説明する。男の一人が頷きながらメモをとっていたが、急に何かを思い出したようなそぶりを見せた。


「おい、それってさっき八百屋の前にいた男じゃないか?」

「ああ、いましたね。君たち、ついて来るがいい」


 男たちはそう言って踵を返す。ラクアとリーアは、その後を追った。


(よかった。これならすぐ合流できそうだ)



---



 一行は商店街の中を進んでいく。角を曲がるたび、人の気配が少しずつ薄れていくのが分かった。


「兄さん…」


 リーアが不安げな声を漏らす。


「大丈夫だ……防衛員もいるし、それに……俺がついてる」


 ラクアはそう言って、リーアの頭を優しく撫でた。だが周囲に漂う異質な雰囲気に、ラクア自身も警戒心を高めて周りの状況を観察する。


(それにしても、ジークはこんな場所で、いったい何をしているんだ?)


 小さな違和感が、ラクアの胸に引っかかり始めたその時、予兆もなく、前を歩いていた男二人が足を止めた。


 辿り着いたのは、人通りなどほとんどない薄暗い路地裏。両側の壁にはレンガが積み上がっている。そして、防衛員の男たちの前に二人の男が立ちはだかっていた。


 袖の破れた服。奇抜な髪型。その格好を見ただけで、ラクアは直感的に理解した。ならず者だ。


 胸騒ぎがしたラクアは、リーアの手を強く握ろうとした。


 しかし――、


 リーアの手は、そこに無かった。反射的に振り返ったラクアは思わず絶句する。


 前方にいた四人とは別の屈強な男が二人。片方はリーアの背後に立って片手で口を塞ぎ、もう一方の手で小さな体をしっかりと拘束していた。


「――ッ!!」


 ラクアが声を上げようとしたその刹那、強烈な衝撃波が腹に叩き込まれ、体が宙を舞った。そのまま地面に叩きつけられながらも、ラクアはすぐに身を起こす。目の前では、防衛員の一人がラクアに手を向けていた。


「便利だよなぁ、このローブ。着てるだけでみんな簡単に信用してくれるんだからさぁ」


 男二人は笑いながら、ローブを脱ぎ捨てた。その光景を見れば、どれだけ察しが悪くてもわかる。


(こいつら、人攫いだ……)


「ガキは一人で充分だ。そいつは殺してかまわん」


 ローブを脱ぎ捨てた男の一人が冷たく言い放つ。その言葉を合図に、男たちは一斉に武器を取った。剣が二本、大きな斧が一本、長い薙刀が一本……。


 ラクアは瞬時に 探知眼(レイダ)を開眼し、上下を除いた全方角へと視線を走らせる。


(全員で六人……武器持ちは四人。優先すべきは――)


 ラクアは迷わず両手を左右へと向けた。その先には剣を構えた男が一人ずつ立っている。


「『浮遊(リフラクト)』」


 周囲に聞こえないほどの小さな声で、短く呟いた。


 直後、ゴンという鈍い音が二度続き、二人の男が糸が切れたように前のめりに倒れ込む。そのまま地面に転がり、ぴくりとも動かなくなった。


「気をつけろ!!」


 先程までローブを着ていた男が声を荒げる。


「お前らの背後にあるレンガだ! 野郎、不意打ちしてきやがった!!」


(クソッ……初見で見破られた………)


 流れでこのまま押し切りたかったラクアだが、敵の予想外の分析眼に思わず歯噛みした。


「このガキぃッ!!」


 大きな斧を持った男が地面を蹴り、ラクアへと突っ込んでくる。振り下ろされる刃。だがラクアは右手から強風を噴き出し、その反動で体を左へ弾いて刃を紙一重でかわした。そのまま滑らかに着地し、探知眼(レイダ)から極視眼(ジェノス)へと瞬時に切り替える。地面に散らばる砂利を掴み、風魔術で発射。狙いは――切りかかってきた男の目だ。


「ぐぁっ! 目がぁぁっ!!」


 男が悲鳴を上げた瞬間、ラクアは間を与えなかった。すぐさまレンガを浮遊魔法で男の顔面へと叩き込んでやると、喚いていた男はそのまま崩れ落ち、やがて静かになった。


(こいつら、連携が取れていない。戦闘に関しては素人同然だ)


「逃げろお頭!! 俺が止める!!」


 叫び声の方角には、防衛員に扮していた男の一人が薙刀を持ってラクアの前へと立ちはだかっていた。その背後では、涙目になったリーアが別の男二人に抱えられている。


(まずい、逃げられる……時間を稼がれたら終わりだ)


 視線を目の前の男だけに集中させる。


「うおぉぉっ!!」


 男が唸り声と共に突進してくる。その速度は、先程倒した男達とは明らかに違う。


(速い……!)


「『風刃(ウィンド・スラッシュ)』!!」


 ラクアは風を刃の形へと素早く凝縮。振り下ろされた刃を正面から迎え撃つ。


ガァン!!


 二つの刃がぶつかり合い、金属音が路地に響き渡った。衝撃が腕に走り、足元の砂利が跳ねる。


(でも、着いていける……リーファはもっと速かった!)


 ラクアは右手で風刃を保ったまま、もう片方の手を背後へと伸ばす。その先、数メートル後方に転がっていたレンガがふわりと浮かび上がり、一直線にラクアへと飛来した。レンガは速度を落とすことなくラクアの股下を通過し、そこから急上昇して――


ゴンッ!!


 鈍い音と共に、レンガが男の顎を下から打ち抜いた。体は宙を舞い、そのまま地面へと叩きつけられたかと思えば、男は動かなくなった。


 伸びた男に一瞥もくれず、ラクアは顔を上げる。


「リーア!!」


 必死に妹の名を呼んだ。だが、返ってくるはずの声はどこにも無い。


 ラクアはその瞬間、まばたきを忘れた。遠くの方で慌ただしい声が聞こえる。だが肝心なその内容が頭に入らない。


 つい先ほどまでリーアがいた場所には、誰の姿も無く、残っているのは踏み荒らされた地面と、虚しく舞い上がる砂埃だけだった。


 

---



 一時間後、ラクアは待合室のような部屋で固い椅子に腰掛けていた。汗で服がべったりと張り付く。足が微かに震え、じっとしているのが苦痛になってきている。


 傍らには顔色の悪いメリダ。そしていつもと違い、険しい表情のジークが立っていた。


 リーアの姿が消えた直後、ラクアは迷うことなく近くの交番、防民館へと駆け込んだ。そこで本物の防衛員に、起きた出来事をすべて話した。防衛員の男たちは即座に状況を整理し、行動を開始。十分後にジークが、三十分後にはメリダが到着した。


 メリダは取り乱してはいたが、ラクアの姿を見るなり強く抱きしめ、「無事でよかった」と震える声で何度も繰り返し、頭を優しく撫でた。自分の不安よりも先に、子供を安心させようとするメリダを見て、ラクアの冷え切っていた心にほんの少し熱が灯った。


「それで……防衛員に扮していた男に、リーア・シャーデットさんが連れ去られたと。男たちの見た目に特徴はありますか?」


 一人を除いて家族が揃ったところで、再び事情聴取が始まった。


「何度も言いますが男は二人。服はボロボロで、筋骨隆々。片方は妙に目立つ髪型をしていました」


 防衛員は焦りも見せず、ゆっくりと質問を繰り返している。その態度に苛立ちを覚えながらも、ラクアはひとつひとつできる限り正確に答え続けた。


 そんなやり取りが二十分ほど続いた後、防衛員はようやく口を開く。


「分かりました。ただいま防衛省本部に調査員の派遣を要請しています。捜索は調査員が到着次第……おそらく明日の朝ごろ開始すると思われます」


 その瞬間、胃の奥がすっと下に落ちるような感覚に陥った。


「……明日!? リーアは、今この瞬間にも殺されそうになっているかもしれないんですよ!!」


「そう言われましても……現在防衛省は人手不足でして……。それに、調査員ではない私どもは事務対応が専門なので――」


 防衛員は申し訳なさそうな表情を浮かべながらも、それ以上踏み込もうとはしなかった。


「防衛員なんだろ!? だったらすぐに動けよ!!」


「で、ですが規則ですし……」


 声を荒げて糾弾すると、メリダがそれを必死になだめようとしてきた。だがその表情からは、絶望の色を隠しきれていない。


 事情聴取が終わり、三人はそれぞれ別の部屋に通され、防民館で仮眠を取ることになった。ラクアは一人、ベッドに横になりながら天井を見つめる。胸の奥で渦巻く不安がどうしても静まらず、眠気は一向に訪れない。


コン、コン。


 不意に静かなノック音が部屋に響いた。


「開けるぞ」


 その声はラクアが何度も聞いてきた、尊敬してやまない師の声だった。扉が開くと、そこにはいつも通り無表情のリーファが立っている。ラクアと目が合うと何も言わず部屋へ入り、椅子に腰を下ろした。


「武装した大人四人を倒したと、防衛員が言っていたが……外傷がひとつもない所を見るに、苦戦はしなかったようだな」


「運が良かっただけです。四人中二人は、子供の俺を完全に侮っていましたし……一人は、戦い慣れていない様子でした」


 ラクアは俯いたまま、淡々と答える。


「最後の一人も、うまく死角を突いて倒せました」


 そこで言葉が一瞬だけ途切れた。


「……でも、俺は一番大切なものを守れなかった」


 噛み締めるように放たれたその一言には、隠しきれない悔しさが滲んでいる。膝の上に置かれた硬く握られた小さな手が、後悔を握りつぶすように強く握りしめられた。


「俺は、あの時から……なんにも変わってない……」


 声が、わずかに震える。


「友達が切り裂かれるのを、黙って見ていることしか出来なかったあの時から、なんにもっっ………!!」


 気づけば声は大きくなり、ラクアは拳で壁を叩いていた。


「確かにお前は友を守れなかった。だがその敗北があったからこそ、お前は強さを求め、大人相手にも勝てるようになった」


 感情を剥き出しにするラクアを、リーファは冷静な眼差しで見据える。


「敗北を意味あるものにするかどうかは、その後の行動で決まる。あの日お前がした選択が、今日お前を生かしたんだ」


 静かな声がはっきりとラクアの胸に届く。事実リーファに鍛えてもらっていなかったら、間違いなく今ここで葛藤を抱えている時間など存在しなかっただろう。


「だが今、お前は選択を投げ出そうとしている。お前は妹を救い出すことを諦めるのか?」


 自然と瞼が持ち上がる。諦めたつもりなどなかった。だが今この瞬間を己の惨めさを嘆くことに費やす行為は、現実から目を背け、リーアの誘拐という問題から逃げることを意味すると言っても過言ではないのだろう。


 火種が胸の内で燻り始める。


「下を向くな。前を向け。次にお前が尽くすべき最善を見据えろ」


 鋭い視線が、眼球を通して脳に直接突き刺さった。


「お前が今、やるべきことは何だ?」


 そんなことはもう決まっている。


(俺が今、選ぶべき道は――)


「捜索は明日から始まるそうだが、私は今夜から単独で動く」


 答えが口をつくより先に、リーファが静かに口を開いた。


「私が掴んだ情報では、誘拐犯は街の南側にいる可能性が高い」


 リーファは椅子から立ち上がり、扉へと歩き出す。


「お前自身が、後悔しない選択をしろ」


 そう言い残すと、リーファは振り返ることもなく、部屋を出ていった。


 扉が閉まり部屋に残されたのは、ラクア一人だった。

リーアの無事は如何に……


カクヨムでの同時投稿を始めました。投稿時間はこちらの方が早く設定されています。


明日も20時頃投稿予定です。


『面白い!』


『続きが気になる!』


と思っていただけたら、下にある☆☆☆☆☆から応援していただけると幸いです。


初投稿作品なので、ブックマークや、感想もいただけると大変嬉しいです。


応援よろしくお願い致します。

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