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知らない友達

 これは、当時大学1年生だったSさん(男性)が体験した話である。


 免許を取り、中古の車も手に入れたSさんは、大学の友達に誘われて夏休みに心霊スポットへ行くことになった。

 最初は渋っていたが、車を持っているのがSさんだけだったこと、ノリが悪いと思われたくなかったことから、結局Sさんを含めた4人で行くことになった。


 場所は隣県の郊外にある廃ホテル。

 心霊系YouTuberが動画にしているらしく、幽霊の声が入っていたという。友達はその動画を見るよう勧めたが、これから行くのに怖くなると思い、Sさんは見なかった。


 夏休みのある夜、Sさんの運転で廃ホテルへ向かった。

 近くまでは車で行けるが、ホテルへ続く道は草木に覆われており、歩くしかない。Sさんたちは道路に車を停め、茂みの中を進んだ。


 湿気の多い、じっとりとした暑さ。

 草木は最大限に伸び、イバラや蜘蛛の巣に引っかかりながら進む。ようやく茂みを抜けて廃ホテルの入り口に着いた瞬間、Sさんの背筋はゾクリと冷えた。汗だくだったはずなのに、全身に鳥肌が立った。


 霊感などないはずなのに、窓という窓から誰かに見られているような視線を感じた。

 直感的に「ここにいてはいけない」と思ったという。


 Sさんはたまらず、車が心配だとか具合が悪いとか言い訳をして車へ戻った。他の3人は文句を言いながらも、Sさんを置いて建物の中へ入っていった。


 車に戻ったSさんは、先ほどの感覚が忘れられずソワソワしていた。

 気のせいかもしれないが、まだ誰かに見られている気がする。

 周囲を見るのも怖くて、鍵を閉め、イヤホンで爆音の音楽を流し、目を瞑って友達の帰りを待った。


――コンコンコンコンッ!


 1時間ほど経ったころ、運転席の窓を強く叩く音がした。

 目を開けると、笑顔の友達が立っていた。


 鍵を開けると3人が車に乗り込んだ。


「なんだよS、寝てたのかよ」


 明るい声に、Sさんは安堵した。

 何事もなく戻ってきた。入り口で感じた違和感も、ただのビビり過ぎだったのかもしれない。


 そう思いながら車を発進させようとした時、友達のKさんが話しかけてきた。


「YouTuberが怖いって言うから期待してたけど、なんにも起きなかったよ。Sも来れば良かったのに。なあ、ノブユキ」


その瞬間、Sさんの動きが止まった。


 今日ここへ来たのは、Sさん、Kさん、Mさん、Hさんの4人。

 Sさんに、ノブユキという名前の友達はいない。


「でもM、なんか声っぽいの聞こえたって言ってなかった?ノブユキも聞こえたって言ってたよな」


「何か聞こえたけど、声かどうかはわかんないな。動物かも」


「まあ写真はいっぱい撮ったし、心霊写真とか撮れてるかもよ」


 3人は普段通りに話し続ける。

 助手席のHさんも、後ろの2人も、誰もいない後部座席の真ん中を見ながら喋っている。


 まさか、そこにノブユキが座っているのか。


 そう思った途端、体が震え出し、血の気が引いた。

 Hさんが心配そうに声をかける。


「S、大丈夫か?顔が真っ青だぞ?」


 Sさんは恐る恐る問いかけた。


「な、なあ。今日来たのって……俺とHとKとMの4人だよな?」


 すると3人はドッと笑った。


「何言ってんだよS。今日はお前と俺とHとMとノブユキの5人で来たじゃん」


「なんでノブユキだけ仲間外れにすんだよ」


 ゲラゲラ笑っている。


「S、ここ着いた時から様子おかしかったもんな。なんか取り憑いてんじゃねーの?」


「そ、そうか……そうだったな。俺どうしちゃったんだろ。脅かすなよ、取り憑いてるなんて」


 Sさんは笑って誤魔化した。

 自分がおかしいのか?

 それともドッキリなのか?


 モヤモヤしたまま帰路についた。

 道中も3人は、誰もいない後部座席の真ん中に向かって話し続けていた。


 数日後、廃ホテルで撮った写真を現像するため4人は集まった。写真はたくさんあったが、心霊写真はなかった。


 Sさんは冗談混じりに聞いてみた。


「なあ。結局ノブユキって誰だったんだよ。冗談だったんだろ?」


 3人はポカンとした。


「……ノブユキって誰だよ」


 言葉が出なかった。

 あんなに当たり前のように話していたのに。


「S、心スポ行った日もおかしかったし、お祓い行ったほうがいいんじゃない?」


 Mさんが真剣な表情で言った。

 やっぱり自分がおかしいのか?

 怖くなったSさんは後日、念の為お寺でお祓いを受けた。


 それから何事もなく夏休みを過ごしていたある日、また3人から心霊スポットに行こうと誘われた。

 しかし、Sさんは断固として断った。

 結局、3人はSさん抜きで行ったらしい。


 ところが、心霊スポットへ行った3人は行方不明になってしまった。山の中にある自殺が多発しているダムへ向かったらしい。

 警察によると、山の麓のバス停までは3人で行ったことが確認されているが、その後の足取りは掴めなかったそうだ。


 しばらくして、Sさんは廃ホテルで撮った写真を見返した。その時、現像時には気づかなかった一枚の写真を見つけた。


 左からHさん、Kさん、Mさんが並んでピースしている写真。タイマーで撮ったのだろう。

 よく見ると、KさんとMさんの間に不自然なスペースがある。人が一人立てるほどの空間だ。


 ただ立ち位置のバランスが悪かったのかもしれない。

 しかしSさんには、そこに“見えないノブユキ”が立っているように思えてならなかった。


 3人が行方不明になってから10年が経つが、いまだに見つかっていない。

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