第6話 ブラックボックスに関する噂話 異世界通信技術
「異世界転生者って本当にいるんだ」
「僕は会ったことないけど、ミッチは会ったことがあるんだよね」
「ああ、王都で会ったことがある」
「すごい! それ、詳しく知りたいです」
キャスの勢いに先生は少し困惑気味だった。
「もう、二十年も前になるかな……王都の娼館前で、俺は黒い板を拾った。大きさは手のひらサイズ。傾けると美しい絵画が、何もなかった板の表面に現れるんだ」
「どんな絵だったんです」
「今でも忘れられないが、三人の女神が勝利の徴を掲げて微笑んでいたよ」
「すごい。すごい」
「これは、大変な落とし物だと直感した俺は、すぐにギルドに届けた。そこにいたんだよ、異世界転生者が」
「どんな人でした?」
「それが、よくわからない……覚えていない。普通というか、特徴がないというか。とにかく優しくて、女性の取り巻きが多かったというのは覚えているが、顔がよく思い出せない」
「なんか、異世界転生者っぽくて、かっこいいです」
「……そんなもんなのか。転生者は黒い板に気付いて、拾ってくれたことにとても感謝していた。そして、その正体を教えてくれた。それが携帯だった」
「携帯?」
キャスは首を傾げた。
「正確には携帯電話というらしい」
「電話?」
さらに首が傾く。このまま一回転するんじゃないか?
「電話というのは、離れた所で会話できる機械なんだ」
「双子通信?!」
「まあ、双子通信と同じだが、双子は要らないんだ。何かお礼がしたいと言うから、俺は、半分冗談で、この機械があればダンジョンの課題を解決できると言ったんだ」
「携帯をくれた?」
先生は首を横に振った。
「半年待ってくれと言われた」
「半年〜? 待ったんですか?」
キャスが身を乗り出して聞く。
「冗談だと思っていたから、すぐ忘れたよ」
「ええー」
「だが、本当に半年後にギルドを尋ねて来た。黒い箱を持ってな」
「それがブラックボックス?」
「この世界の魔法や技術を使って再現した。まずは三ヶ月使ってみてと言われたよ」
「手のひらサイズが、十五センチ角の立方体だから、だいぶ大きくなりましたね」
「そこがこの世界の技術力の限界なんだろう。ただ、冒険者ギルドは三ヶ月を待たずに転生者と契約したんだ」
「契約???」
「ブラックボックスは基本使用料無料。月々の通信量に応じて金を払う。三ヶ月は無料お試し期間。そういう契約」
「へーお金取るんだ」
転生者は善意のお人好しじゃなくて、商売人なんだと直感した。
基本的なアイデアはミッチ先生が出しているのに、転生者がそれをうまく拾い上げて、この世界の技術で商品にする。
そんな商売もあるんだなと素直に感心した。
「妖精通信だって維持費用はかかるから、金銭面での文句は無かったな」
「抵抗する人っていませんでした?」
キャスは興味深々だ。
先生は手を叩いて喜んだ。
「いるいる! いまだに妖精を使っている奴はいるよ」
「やっぱり、いるんですね。新しい技術が受け入れられない人って」
「ブラックボックスのことを妖精通信と呼ぶ奴は多いし、ブラックボックスを開けたら妖精がメモをとっていたというのが定番のネタ」
「これって開けられるんですか」
「メンテナンス用に開ける方法はあるらしいが、どうやって開けるのかは知らん」
先生は急に真面目な顔になった。
「だが中を見ようなんて思うなよ。ギルドでも説明されたろ」
キャスは頷いた。
「呪い……ですか」
「フハハ、呪いか。ある意味呪いだな。一生働いても返せない賠償金を背負いたいなら止めはせんがな」
キャスが真剣な顔付きで質問した。
「あの先生」
「なんだ?」
「お話を伺っていると、先生もブラックボックスの発案者だと思うんですけど」
先生は目を丸くした。
「その考えはなかったな」
「転生者から他に何か貰っていないんですか」
「ん、ないぞ。ブラックボックスが使えるようになったんだ、それで充分だろう」
「そうなんですね」
キャスは一人頷いていた。
その瞳は虚空を泳いでいた。
口元に浮かべた不敵な笑みが印象的だった。




