第5話 ブラックボックスに関する噂話 妖精通信
「妖精は何から生まれると思う?」
マーカスさんがコーヒーを淹れてくれた。
「木になるんじゃないの?」
「違うわよ、森の精を受けて可憐な花から生まれてくるのよ」
コーヒーを飲もうとしたら、粉が一気に口の中に入ってきた。
「うえ、っぺ、っぺ」
「ははは、こうやって飲むんだよ」
マーカスさんが、コップの上に溜まった粉を息で吹いてからコーヒーを啜った。
キャスが真似をする。
その表情がパッと明るくなった。
「はあ、美味しい」
「こいつは嗜好品についてはこだわりがあるからな。コーヒーと魔法の話題は饒舌になるぜ」
自分も真似してみる。
豆の香りや雑味まで一気に押し寄せる。
「……個性的な味わいですね」
「フィルターを通してないから、人を選ぶかもしれないね」
「とっても美味しいです」
キャスはコップを大事そうに抱えて、感心したように呟いた。
「妖精は花から生まれるんだ」
「ほらー」
キャスがドヤ顔を見せつけてきた。
「蕾の根本に妖精が卵を産みつけて、その養分を吸って大きくなるんだ」
「え、ええ」
キャスは口をポカンと開けていた。
「卵を取り出して、真ん中を糸で結んで、また花に戻す。そうすると連結された妖精が生まれてくる」
連結された妖精?
想像してみたが、それって本当に妖精?
「もしかして、さっきの双子の代わりにするんですか」
「そうそう、だから妖精通信。妖精を分割したら、一方はダンジョンに持っていく。一方はギルドに置いておくんだ」
「その時はカゴだったけどな」
「なんか虫みたいですね」
「妖精通信は安価だったが、弱点もあった」
「それ、分かりました。妖精の言語体系が人間と違うからですよね」
「妖精は『トン』と『ツー』この二文字しか送れなかったんだ」
「聞いたことありますよ。『助けて』がトントントンツーツーツートントントンってやつですよね」
「よく知っているな。昔はギルドの横に妖精通信用のでかい建物があって、通信士が情報を取りまとめていたんだ」
「じゃあ、ブラックボックスの中には妖精が?」
「いや、妖精通信が使われたのは短い時期だけったんだ」
「何があったんです」
「携帯という新しい技術を、異世界転生者がもたらしたんだ」




