第4話 ブラックボックスに関する噂話 双子通信
「双子の間には不思議な力がある。そんなことを聞いたことはないか?」
「感覚を共有するってやつですか」
「それ、それ。昔、頭のおかしい錬金術士が、その力を通信に使おうとした。双子を養子して奇妙な実験を計画した」
「特殊な育て方をしたんですか?」
「鋭いなキャス。まずは双子を一人の息子として育てた」
「えーと。ちょっと何言ってるのか分からないです」
「つまりだな、双子に同じ名前をつけた。同じ服を着せた。同じ時間に起こし、同じ時間に寝る。それを十年続けた」
「だいぶホラーですね」
「そうして双子は、お互いを自分だと思うようになった」
「……怖」
「十五の誕生日に実験が行われた。錬金術士とギルドの立会人が兄をダンジョンに連れて行く」
「弟の方は?」
「弟の方はギルドに連れて行かれた。そして、立会人が兄の様子を尋ねる」
「どうなったんです?」
「弟は兄が見ているダンジョンの様子を詳細に語りだす。どこにいるのか、暑いのか寒いのか、匂いまでも伝えることができた」
「ヤラセじゃなんですよね」
「これはギルドの正式な記録に残っているから見てみるといい」
「へー、凄い」
「ところがだ、弟が変なことを口走り始めた」
「変なこと?」
「錬金術士と立会人が口論を始めた」
「何が原因だったんです?」
「さあな、金銭のもつれなのか、愛情のもつれなのか……その会話の記録は黒塗りにされていて分からない。ただ、口論は次第にエスカレートしていった。そしてとうとう――」
ミッチ先生が、三人の顔をゆっくり見渡した。
「錬金術士がナイフで立会人を刺した。弟はその様子を仔細に実況した。錬金術士の叫び。焦燥の表情。その狂気に満ちた目が兄の方に向けられ――」
焚き木がパチンと大きな音を立て爆ぜた。
キャスがビクッと身を震わせた。
「弟は立ち上がり首元を手で押さえて絶叫した」
先生が苦悶の表情を浮かべて絶叫し、そのまま後ろに倒れた。
動かなくなった先生に代わってマーカスさんが後を続ける。
「ギルドの立会人が弟を介抱したけれど、弟はもう事切れていたんだ。後でダンジョンに人を遣って確認すると、弟が語った通りだった。立会人は刺され、双子の兄は首を切られて死んでいた」
「錬金術士はどうなったんです?」
「行方不明さ。未だに見つかっていないんだ。噂ではそのままダンジョンを彷徨って、この話をする冒険者の後ろにーー」
「わあ」
ミッチ先生がキャスの背後で大きな声を上げた。
「キャア」
キャスは飛び上がって驚く。
耳を塞いで震えていた。
「怖い話は苦手なんです!」
「はは、悪い悪い。お前たちが真剣に聞いてくれるから、ついつい悪ノリしてしまった」
「そういえば、先生はお芝居の話も書かれてましたね」
「じゃあ、作り話なんですか?」
「半分脚色しているが、昔からダンジョンの治安の問題は深刻だったから、双子を使った通信が検討されたのは本当だ」
「え、まさか、ブラックボックスの中身って、双子の片割れ?」
「嫌ー」
「ははは、双子通信は実用化されなかった。双子を使うと採算が合わないことはわかりきっていたからな」
「ブラックボックスの中身は双子じゃないのですね」
キャスがふぅとため息をついた。
「ああ。でも離れた所と会話する技術については検討が続いた」




