表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精通信  作者: 森林樹木
3/9

第3話 先生は歓迎会で黒い箱の噂を語る

「それでは改めまして、新人冒険者ども、くそったれな冒険者の世界へようこそ」


 遺跡第六層は最下層へと至るベースキャンプ。

 乾杯の音頭をとるのはB級剣士のミッチ。

 研修の指導教官なのでミッチ先生と呼んでいる。

 先生はこそばゆいと嫌がるけれど。


「カンパーイ」


 先生の秘蔵品、こっそりと持ち込んだスコッチで乾杯した。

 小指一本分のささやかな乾杯。

 スモーキーでスモーキーなスモーキーが口中に広がって、とってもスモーキー。


「へー、最初のクエストって、新人歓迎会も兼ねてるんですね」

「いきなりドラゴン討伐なんかさせるかよ。先ずは、ダンジョン生活のチュートリアルだ」

「串焼きが焼けたよ」


 ミッチ先生の相棒はB級魔法使いのマーカスさん。

 焚き火で炙った魔獣の串焼きを渡してくれた。

 数日ぶりの調理された料理。

 肉の焼ける匂いが鼻を刺激する。


 でも、魔獣の肉なんだよな。


 研修で作った魔獣料理は獣臭くて食べられたものじゃなかった。

 キャスの方を見ると、彼女はあっという間に平らげていた。


「なに? いらないなら貰うわよ」


 と、手を出してきた。

 それを華麗に躱して、かぶりつく。

 口の中に、甘い脂の味が広がった。


「うわ、なにこれ、美味い」


 マーカスさんがドヤ顔している。


「血抜きと熟成が重要なんだ。あとはスパイス」


 そう言って、マーカスさんはリュックの口を開いた。

 キャスがそれを覗きこんで感嘆の声を上げた。


「こいつは、魔法よりも、料理の才能のほうが高いんだよ」

「へー羨ましい」


 キャスと目があった。

 お互いに料理はからっきしなのだ。


「まあ、最初のうちは先輩に顔を覚えてもらうことだ。チームリーダーの名前を覚えて、そいつの好きなものや話題を用意しておけばイチコロだよ」

「へっへっへ」


 キャスが揉み手して、下品な笑い声を上げた。


「そうだと思いましてね。先輩たちにお土産を持ってきました」


 キャスが自分のリュックから袋を取り出した。

 小さく、かわいいリボン付。


「マーカスさんは珈琲好きと伺いましたので、これです」

「うわー、コピ・ルアクじゃないかこれ」

「量は少ないですけど」

「こんな希少なもの、いいのかい? ありがとう。大切に飲むよ」


「ミッチ先生にはこれです。こっちも量は少ないですけど」

「ん、済まないな。これは」

 ミッチ先生が袋からミニチュアボトルを取り出して、直ぐに袋に戻した。

「お前、これ最高級品じゃないか」

「個性的なのが好きとききましたので用意しました。気に入っていただけるとよいのですが」

「気に入るも何も、よく持ち込めたなこんな禁制品」

「なかなか苦労しましたよー」

「ブラックボックスに見られているんだ。次はもう少し偽装してくれるとありがたいな。しかし、それ以外は完璧だ、もうお前には教えることは何もない」

「そんな、いろいろ教えて下さいよ。昔の話とか聞きたいです」


 キャスとミッチ先生が小声で盛り上がっている。

 マーカスさんが隣に座った。


「彼女凄いね」


 と、こちらも小声だ。


「君も気を付けないと、食い殺されるよ」

「あ、はい、置いていかれないように、頑張ります」


 ***


「俺の新人の頃は、その当時はアルコール規制なんてないから、吐くまで飲まされた。朝起きると隣にドラゴンが寝ている」

「え?」

「まあドラゴンといっても小さな土龍だけどな」

「土龍って、あのトカゲみたいな?」

「そうだ。応戦しようにも、剣も服もない」

「えー」

「しかたないから裸で逃げ出すんだが、その様子を見ていた先輩が屋根の上で笑っているんだ」

「最低」

「酷い時代だったな、今思えば」

「今でもそんなことがあるんですか」

「もう、今はそんなことはできないな。良くも悪くもこのブラックボックスのおかげで」


 そういって、ミッチ先生は自分のブラックボックスを軽く叩いた。

 先生のブラックボックスには複雑な模様がペイントされていた。

 先生の出身部族の伝統模様らしい。


「ちゃんと持っているよな」

「はい」「ええ」

「今は、これ無しでダンジョンに入ると処罰されからな」

「それは、クエスト前にさんざん聞かされました」

「これは私たちの会話を記録しているのですよね」

「その認識で大体あっている。仕組みはわからんが」

「まさにブラックボックスですね」

「こいつが無かった時代のダンジョンは、さっきも言ったように、酷い状態だった。キャスの前でいうのもなんだが、女性がダンジョンに入ることは禁止されてた」

「え? なぜ――痛!」


 キャスが、脛に蹴りを入れてきた。


「クエストの横取りは日常茶飯事。殺人は殺人で。復讐は三倍返し。そんな地獄みたいな世界だった」

「だから会話や映像を記録する装置が導入されたんですね」

「実は、それミッチが関わっているんだ」

「マーカス」

「いいじゃないか、ミッチはもっと自慢するべきだよ」


「その話、詳しく聞きたいです」


 キャスが前のめりになった。

 ミッチ先生を見つめている。

 大きな焚き木が燃え落ちて火の粉が舞い散った。

 キャスの瞳に映る焚き火の炎が揺らめいている。


「こんな噂話はよく聞くな」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ