第2話 初めての検分の儀式で決断を迫られる
「では、検分の儀式を始める。検分者は剣士ギル」
「魔法使いキャス。場所は遺跡第六層のキャンプ地です」
早急な治癒魔法は猛烈な痛みを伴う。
これを利用した拷問も存在するぐらいだ。
ただ、キャスの鎮痛魔法は極めて優秀。
治療の間、ほとんど痛みを感じることはなく、キャスの宣言通り、一時間ほどで応急治療が終わって動けるようになった。
『あくまで応急的だから』と釘は刺されている。
キャスが設置した黒い箱のランプが緑色に点灯したことを確認して、冒険者マニュアルの冒頭を読み上げる。
「なんか恥ずかしいな」
「戦闘後の検分は、私たちが倒したという重要な証拠になるのよ」
キャスは自分のリュックから取り出した冒険者マニュアルとにらめっこしている。
「クエスト受注番号4900235。クエスト内容は遺跡キャンプ地への物資輸送です。予定通りキャンプ地に到着して、納品自体は完了しました」
「翌朝、ゴミ捨て場付近で土龍と遭遇、戦闘状態となった。昨日まで当該地区を担当していたB級剣士ミッチ並びにB級魔法使いマーカス氏は、別クエストで不在のため、私、D級剣士ギルと、D級魔法使いキャスが対処に当たり、これを撃退した」
「赤い鱗が特徴的。尻尾から頭までは五メートルぐらい。マニュアルの平均値よりも随分大きい個体です。本当なら三階層ぐらい下のところにいるはずのモンスターみたいだけど、最近ギルドで話題になっている、ダンジョンボスの交替の影響が考えられます」
「続いて戦闘の詳細の検分……なあ、こいつなんであの時動きを止めたんだろう?」
「私が色々投げつけた時?」
「そうそう」
「そこら辺にあった物を適当に投げたから――何か、致命的な物が口に入った、とか?」
「じゃあ、原因は口の中に残っていそうだな」
「見てみましょう」
仰向けに倒れた土龍の唇をキャスがめくり上げた。
口の中を見て、その原因が分かった。
「みろよ」
「あ、これ」
土龍の頑丈な牙に黒い箱――一辺が十五センチの立方体がめり込んでいた。
「これって俺のブラックボックスだよな」
「そうね。魔薬を探してリュックの中身をぶちまけたから」
土龍の口の中とは予想外だった。
でも見つかって良かった。
ギルドから絶対に無くすな、無くしたら弁償だと散々脅された貸与品。
リュックの中に無かったから、どこにいったのだろうと心配していた。
因みに弁償金額は、D級冒険者の平均年収ぐらい。
新米冒険者には手痛い出費。
「これが牙にめり込んで、その痛みが土龍を止めたのか」
「噂以上の硬さね、剣を粉砕する牙、その牙を粉砕する黒い箱」
いや、待てよ。
土龍が噛み砕くタイプのモンスターでよかった。
もし、ヘビみたいに丸呑みするタイプだったら……排泄物の中から探すはめになっていたのでは?
キャスがブラックボックスを取り出そうと手を伸ばした。
「あ」
「何?」
「蓋が外れかけている」
ブラックボックスは絶対に壊れない。
ドラゴンが乗っても、灼熱のブレスに晒しても。
アダマンタイトですら傷をつけるのが難しい。
そういう説明だった。
「え、なんで?」
「人間が作ったものなら壊れるでしょ」
これ以上、キャスに話をさせるなと、頭の片隅で危険を知らせるベルが鳴っている。
「もし、本当に壊せないなら、ブラックボックスで武器や防具を作ればいいじゃない。マニュアルにもブラックボックスを壊したら弁償と書いてあるし」
あれ、だとすると弁償しないといけない?
でも、それって誰のせい?
「中が見れそうよ」
キャスの一言に、昨晩先生がしてくれた噂話の記憶が蘇った。
「開けると呪われるんだろ」
キャスの手が止まる。
その美しい瞳が決断を迫って来る。




