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妖精通信  作者: 森林樹木
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第7話 キャス、ブラックボックスの蓋を開ける

「中が見れそうよ」


 目の前には蓋の外れかけたブラックボックス。

 少し持ち上げれば中が見える。

 噂通り妖精がメモを取っているのか、転生者の超技術が詰まった機械が動いているのか、その真実が分かる。


 いや、まて、冷静になれ。

 転生者の機械を見ても理解できるのか?

 このままギルドの救援を待って、正直にブラックボックスが壊れたと申告するべきなのではないか。

 Dランク冒険者二人が初回のクエストで土龍を倒したんだぞ。

 C級冒険者がパーティーを組んで倒すような相手をだ。

 普通はそれだけで称賛されるはずなんだ。

 わざわざブラックボックスの中を見て、賠償金を背負うリスクを背負う必要なんてないだろう。


 ここは、強くキャスに主張しよう。


「駄目じゃない? 一生返せない借金なんか背負いたくないよ」


 キャスが深いため息をついた。


「あなたも先生と同じで人が良すぎるわ。世界をひっくり返すような技術よ。そのアイデアを出したのに、権利を主張するどころか、上前を跳ねている転生者に感謝するなんて、馬鹿じゃない」


「先生を悪くいうなよ。いくらキャスでもそれは許されないぞ」


「いいえ、先生にはアイデアの使用料が支払われるべきよ。これは、それを証明するための正当な行為。それに、転生者がどうやって双子通信や妖精通信を実装したのか興味はないの?」


「それは……あるけども」

「なら、いいわね」

「いや、でも、ギルドに正直に言ったほうが……」

「もう、遅いわ」

「え?」

「取れちゃった」


 キャスが黒い蓋を持って舌を出した。


「ええー」

「さあ、何かあるかな?」


 咄嗟に目を瞑った。


「ねえ、ヤバいわ。これを見て」


 もうヤバいんだよ。


 自分は、何もしていない。

 何も見ていない。

 そういうことにしたい。

 ギルドに報告させてくれ。

 そうすれば、普通に出世できるんだから。


「ギル! いいから見なさいよ!」


 キャスに強引に引っ張られ、渋々目を開けた。


「ひ、人の顔?!」

「箱の中身は妖精じゃなくて、人間だったわね」


 箱の中の緑色の板の上には黒い部品が整然と並んでいた。

 その中に異物が埋め込まれている。


 人の目?


 顔の一部を皮膚ごと切り取られたようなそれは、まばたきもせず、しかし確かに“こちら”を見ていた。

 その瞳には魔法陣に似た図形が浮かんで回転していた。

 眼からは細い線が無数に伸びて箱の中に張り巡らされていた。


「まるで血管みたい」


 キャスも同じ事を思ったらしい。

 目の下の青色の配線は涙のようで、それを辿るとガラスのカプセルで覆われた装置に

 繋がっていた。

 中身は――


「脳ね。実習で見たことがある」


 灰白色のそれはガラスの内部に満たされた液体の中に浮いていた。

 これにも無数の線が繋がって、完全に回路の一部として固定されていた。


「脳って、こんな色なんだ」


 黒い部品に描かれた複雑な魔法陣がチカチカと点滅してる。


 トントンツーツートントントン。


 どこかと会話しているみたいだった。



「もう半分はどこ?」

「え?」


「脳は右と左に分かれているのよ」

「片方だけなの?」

「これは右側」

「じゃあ、左側がどこかに?」


 名前も同じ。

 全く同じように育てられ。

 いつも一緒にいて、いつも一緒に寝る。

 相手を分割された自分と認識している。


 昨日そんな話をしたじゃないか。


「双子通信」「双子通信」


 キャスも同時にその言葉を口にした。


「双子を用意するまでもない」

「頭の中には生まれた時から連れ添った双子がいるんだ」

「人間の脳を分割して通信機にする。それが」

「ブラック」「ボックス」


「中身は誰なんだろう」

「材料には困らないじゃない」

 キャスはウインクしてみせた。

「ダンジョンで死ぬ人間なんて珍しくない」


 ブラックボックスの中の瞳が瞬きした。

 瞳がぐるぐると回転して、こちらを睨みつける。

 箱の中の魔法陣が激しく点滅し始めた。


 キャスが慌てて、蓋を戻した。


「あるいは、私たちみたいに、中身を知っちゃった人間かも」


「や、やや、ヤバいよ」

「今更、うろたえないでよ」

「ど、どうする」

「今、考えているわ」


「お前達、大丈夫か」


「うわ!」


 不意に背後から先生の声がして、思わず悲鳴が出た。

 振り向くと、剣を抜いた先生が、息を切らして立っていた。

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