④考えなしの本番
「ロロ!」
倒れたまま動かない彼の傍へと駆け寄り、肩に手を置くと、俺はすぐに全身の状態を確認する。
「う………ごほっ!」
大きく咳き込んでいるが吐血はない。服の一部が破け、露出した肌が擦れて赤く滲んでいる箇所がいくつか見られたが、重症と呼ぶ程ではない。
「だ、大丈夫です」
回復薬を手にしていた俺の手をゆっくりと下げる様に、ロロの震える手が押し退ける。だが、彼はすぐに体を起こせず、何度も大きな呼吸と咳を繰り返していた。
すぐには動かせない。
そう判断した俺は、落とした長剣の柄を握って立ち上がり、六脚蜘蛛とロロの間に立つ。
「おらぁ、どうしたっ! 残ったのはお前だけだぞ!?」
言葉が通じると思っていないが、さも挑発的な言動で相手を釣る。頭の悪い俺には、それしかすぐに思いつかなかった。
だが幸いにも、倒れた人間よりも武器を持って騒ぐ人間に興味をもったらしく、ゴブリンライダーはゆっくりと横に移動し続ける俺の姿を睨みつけてきた。
そう、それで良い。
さらに俺は足元に転がっていた大黒蟻の死骸に剣の腹を何度も当て付け、音を立てる。
「雑魚ばっかりだったぞ! お前の仲間はもうこの世に居ねぇ!」
大声で捲し立てつつ、左足を体半分程ずらす事、十数回。敵の視界からは、既にロロの姿が完全に外れていた。
これが最適解かは分からない。だが、あのまま戦うよりかはマシだと思った。
後はどうやって戦うか、である。
思わず自嘲していた。
情けない話だが、肝心な部分は白紙のままだった。
ゴブリンライダーは、濁った音を不規則に連呼しながら両手を何度も振り上げると、ついに六脚蜘蛛と共にこちらへと突貫してきた。
「はん、単純で良いねぇ」
言い終えて、ふと視線を天井へと向ける。そしてすぐに首を左右に振った。
完全に敵の背後を取ると蜘蛛の糸が本能的に吐かれてしまう。俺は正面の攻撃を避けた後に振り返り、ゴブリンライダーが去り際に払おうと振った錆びだらけの剣に、自分の長剣を這わせるように重ねる。
そして、接点で火花を散らす様子を細目で睨みつけた俺は、小刻みに足の位置を調整し、六脚蜘蛛の側面へと至った。




