①かつての自分
「御主人様」
メイド服の女性は、前を淡々と歩く主人に声を掛ける。
「どうした、コルティ」
足を止め、青年が振り返る。
暗い道、最低限の照明と岩に囲まれた迷宮の果て。青年は、下層に似つかわしくない革の鎧と市販の片手剣を纏い、その姿は初級冒険者と見間違われても仕方がない。
「何故、あの男を迎えたのですか?」
「あの男?」
「リュウとかいう、失礼極まる無作法者の事です」
特段強くもなく、それどころか感情的、短絡的に行動する自分勝手な少年。普段は冷静で温和なコルティが、彼を辛辣に表現する。
「あの者は、御主人様の傍にいるべき人間ではありません」
まだ数回も顔を合わせていないにも関わらず、彼も随分嫌われたものだと青年が鼻で笑った。
「コルティ。もう随分と長い付き合いなのに、何故かと俺に聞くのか?」
「長い長い付き合いだからこそです」
気が付けば困った顔で苦笑しているコルティが、仕方がないと母性豊かに流し始めた。
「これが初めてではありませんが、あまり良い趣味とはいえません」
「だが………懐かしいだろう?」
両手を軽く開くと、青年は天井の先を見通すように眺め、頬を緩める。
「あいつは、昔の俺さ」
一度呼吸を挟む。
「何も分からず、目の前の大切な存在しか意識できない程に視野が狭い。手元にある情報で全てを悟ったかのように振る舞い、挙句の果て感情的に相手へと噛みつく」
その度に周囲に諭され、何度も失敗してきた。青年は、自分の過去と例の少年とを重ねていた。
「気が付けば、今の俺には出来なくなった、忘れてしまった純粋な姿だ」
他人が見れば粗暴な言動でも、時にそれが羨ましくなると青年が語る。
「御主人様は、昔から何も変わっていません。今もこうして、多くの為に身を粉にし、振る舞っておられます」
「それしか取り柄がなかったからな」
青年が自嘲する。
そして、腰の片手剣の上を這うように手を伸ばした。
だが、彼が剣を抜くより速く、青年の左右で風が舞い、二本の巨大な三日月斧が奥へと通り過ぎていく。




