⑦初めての様な感情
「そうと決まれば、出発だ」
俺は焚き火の中から比較的硬さの残る炭を見つけると、目に付きそうな大きな岩壁に簡単な書き置きを残す。これで、落下後に俺達が生きていた事、上層部を目指して移動した事が伝わるだろう。
誰かの目に触れれば、の話だが。
さらに背嚢をひっくり返し、今回の目的だった鉱物を全て吐き出させた。
「あっ!」
「いいんだ。この状況で、こいつを持っては歩けない」
重量は体力だけでなく、速度も奪う。懐も心も軋むが、命には代えられない。
「………目的を明確に。帰る分の重量を計算に入れる事」
あいつと潜った際にかけられた言葉が蘇る。
やはり、彼は冒険解説職だったと感心せざるを得ない。
独り言がロロの耳に入ったのか、彼は首を傾げていた。
「俺の先生の言葉だ。腹は立つが、腕は………悪くない」
「そうですか………僕にも師と呼べる人がいましたが、似たような事を言っていました」
冒険者の心得として使い回された言葉。それ故に、多くの冒険者達が苦渋を舐め、学んだ生きた言葉なのだろう。
「そうか………なら、尚更生きて帰らないとな」
「はい。お互いに」
俺は手を伸ばし、ロロがそれを握る。そして互いに痛みに耐えながら姿勢を変え、ロロの腕を俺の肩に通すようにして歩き始める。彼は片足と杖で自重を支え、地面を懸命に蹴りながら必死に俺の歩幅と合わせようとする。
「無理をするな」
俺はいつもよりも歩幅を短くし、相手の疲労を和らげる。
何故か俺は笑っていた。
「どうかしましたか?」
「いや………」
ロロの問いに、俺は大きく息を吸い込む。
「誰かの為に………相手に合わせようとした自分がいる事に少し………そう、ほんの少しだけ驚いただけだ」
初めてだった。
相手がこちらに合わせるべきである。相手に合わせる事は弱い人間がする事だと思い込んでいた。だが、生きる為に、死なない為に、その矜持を変えていた自分に、変えられた自分がいる事に驚きを隠せなかった。




