③種族の特性か個人のそれか
「な、何だってぇぇl!?」
青年が大きく一歩後退し、両手を使って大きな声で驚く。
正確には驚いてみせた。勿論、何も面白くないし、驚くような事でもない。
むしろ、口を開けた途端に笑わないかと、耐える方が辛かった程であった。
だが、そんなこちらの思惑を知らず、青年の素直な反応に満足したのか、ガーヴィと名乗る男は天井に向かって口を大きく開けて笑い始めた。
「がははははは! それにしても運が悪かったな………他の人間共ならともかく、幹部の俺様が相手じゃぁ、万に一つも勝ち目はねぇ」
「くっ、魔王軍………それも幹部がこんな所にいるなんて! 俺の冒険もここまでなのかっ」
「………御主人様」
悔しがるように体をやや屈めながら拳を握り締める青年に、コルティが振り返って苦笑する。
彼女の表情に気付いた青年は、彼女の顔をちらりと見上げて舌を出す。
「会って一秒馬鹿確定の奴だぞ。何か情報が入れば儲けものだろう?」
「そ、それはそうですが………そこまで、その………あからさまですと」
「いや、あの手の奴は気付かないんだ。いやマジで」
長年の経験による絶対的な自信から青年は顔の前で手を振り、全く心配していなかった。
子どもの遊戯ですら、もう少し強弱があった声が出せる。控えずとも質の良い演技に見えない主人の様相に、一体誰が引っかかるというのか。メイド姿の猫亜人は、溜息と共に前を向き直すが、目の前の狼亜人は腰に両手を置き、既に勝ったかのように大きな口を緩ませている。
「………どうして、狼亜人には、こうも短絡的な者達が多いのでしょうか?」
コルティの中で、同じ種族の知人を何人も想像するが、皆一様に同じ笑い顔が浮かび上がり、反論の根拠になる記憶が見つからなかった。




