②狼の亜人
砦の外壁へと戦力が割かれているせいか、内部の盗賊は左程多くない。他の冒険者達は近場にあった左右の建物から制圧しに向かっており、青年としては単独行動が出来て都合が良い。少なくとも雑談が出来る程度の余裕を青年は感じていた。
「コホン。も、勿論、御主人様は私の命に代えても、お守りします」
照れながらもメイドの猫亜人がそれに、と続く。
「連れて来た他の者達にも、時間稼ぎを命じているので。後ろは安全でしょう」
「全くもって頼もしい………ん?」
そこに現れる一人の亜人。全身灰色の毛並みを持つ二足歩行の狼であった。
自分よりも先に行かせた仲間はいない。青年は相手が味方ではない事を悟る。
「一人で現れたという事は………さてさて、そろそろ本命かな?」
青年は彼女よりも一歩前に踏み出し、腰の片手剣に手をかける。
「………狼亜人ですか。これまでも何人がいましたが、そもそも高い能力をもつ彼らが外にいるとは珍しいですね」
メイド姿の猫亜人は、青年の後ろから壁へと歩みより、壁に刺さったままの三日月斧を抜き取った。そして何事もなかったかのように戻ってくると、主人よりも前に立ち、赤く汚れた先端を払って床に線を引いて、その矛先を相手へと向ける。
「同じ亜人同士です。貴方に名乗る時間と権利を与えましょう」
尊厳を重んじる言葉であるが、彼女の紡いだ声にその重みはない。同じ亜人であれ、主人の道を遮った時点でそれは『敵』であり、生かす理由が消失する。
狼亜人の男は、毛並みの上に革のジャケットを羽織り、裸足と大きめの長ズボンという軽装。一見、装備に金をかけていないような印象だが、引き締まった筋肉と狼特有の瞬発力を十分に発揮させる為の服装であり、彼等の種族としてはこれが一般的なのである。
その一般的な服装の男が、鶏冠の様な頭髪を払いながら大きな口を開く。
「ふん。俺様はガーヴィ。栄えある魔王軍の幹部の一人………冒険者風情が逆立ちしても敵わない存在よぉ」




