①青年は手加減を覚える
「それにしても、随分と上達されましたね」
砦の最奥に建つ施設に突入して数分。メイド姿の猫亜人が、赤く染まった三日月斧を手にしたまま振り返る。
「………上達? あぁ、さっきの炎の事か?」
今更褒めても何も出ないと鼻を鳴らして返しつつも、青年は腰に手を当てて満更でもなさそうに自慢気に頬を釣り上げた。
「ご主人様の魔法は、大抵何も残らないものですから」
「お前なぁ。それは褒めているのか?」
綺麗な笑顔で吐かれた青年の表情が一転、両端の眉が下がっていく。
だが、彼女の言っている事は否定出来ない事実があった。
青年の魔法は、その特性から調整が難しい。殆ど効果のない威力になるか、全てを灰塵と帰す威力となるかの両極端。二つに一つであった。
「そうならないよう、今まで枷をはめて学んできたんだ。いやぁ大変だったなぁ」
思い返せば、涙と汗と震えが止まらない。剣技にしても、魔法にしても、文字通り長い年月をかけて師と呼ぶべき存在を探し、教えを請い、見つからない時は自分なりに既存の技を練り、組み合わせながらその身に刻み付けてきた。
「ですが—――」
メイド姿の猫亜人が右手の三日月斧を頭の高さまでゆっくりと持ち上げると、視線を主人に向けたまま側面へと振り投げ、石の支柱を切断させる。
青年が体を反らせて柱の奥を覗くと、三日月斧が壁に突き刺さり、その下で体が二つに分かれた盗賊が赤い湖と川を作っていた。
青年が口笛を鳴らす。
「強くなれられても不死ではないので、どうか御自愛ください」
「分かってるさ………だけど、ほら、コルティがついているからな。その辺はまるっと心配していない。お前が無理なら、俺も諦めがつくさ」




