⑬一時撤退
彼女の後退速度に合わせ、俺は彼女の感覚を維持しながら後ろ向きで歩き始める。櫓の損壊で盗賊達の攻撃は一時的に弱まったが、傷の浅い者から弓を構え、元の勢いへと戻っていく。
戻る最中、炎の矢が俺達の頭上を越えて盗賊達が立っていた扉上の通路に当たる。ロロの援護魔法だ。
彼の魔法だけでは通路の全てを破壊するに至らず、炎を巻き上げて盗賊達の視界を塞ぐだけで一杯だが、弓の狙いが定まらないだけで十分に有り難い。
「リュウさん、こっちです!」
「あぁ! 見えている!」
俺は少ない矢を払いながらも、二人の模範的な行動に助けられていた。それに引き換え、俺は身体能力向上の魔法を受けて、気持ちが抑えられずに馬鹿でかい門に英雄の様に剣を振りかざしたのだ。
結果は見ての通り、全くもって情けない。
俺は障壁を張り直しているアイリーンの動きを時折確認しながら後退の方角を逐一修正し、手を振っているロロの位置まで下がる事に成功した。
「ここまで来れば、安心ですね」
「ふぅ、死ぬかと思いましたよ………誰かのお陰ですけどね」
柔らかい笑みのロロとは対称的に、アイリーンの表情は険しかった。
言葉だけの追及が辛い。『死にたいのか』と、胸倉を掴まれて殴られた方が楽だと思う日が来るとは思わなかった。
森の中へと入り、俺達は矢の線上に大木を挟んでそれぞれ腰を落とす。
ようやく呼吸が落ち着き始めると、俺は大きく息を吸うと一瞬呼吸を止め、吐きながら覚悟を決めた。
「悪い………本当に助かった」
改めて、謝罪と感謝を混ぜた言葉を送る。フォースィの魔法が一斉に効果を失った反動か、体が一気に重くなり、今蠢いている感情とは別の不快感が俺の中で込み上げてくる。
「………感謝なら、形のある物を希望します」
息を整えながら、アイリーンが表情を戻しながら軽口で返す。
「無事に帰ったら、好きなだけ奢るよ」
「止めて下さい。そういう言い方をすると、高確率で死ぬんですから」
また不機嫌になるアイリーン。高確率で死ぬ根拠は分からないが、次からは使わないようにしようと決める。
「ですが結果として、相手は僕達が本気で攻めていると思ったはずです」
ロロが俺の無謀に意味を見い出したかように、話を変えてくれた。




