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Lost13 無名の青年が無名で終われる物語  作者: JHST
第九章 冒険者、砦と相対する
225/240

⑩多重魔法展開

 アイリーンが自分の両頬を二度叩き、覚悟を決める。

「………行きます。これでも青銅級(ブロンズ)ですから」

「流石先輩。俺達青銅半級(ハーフブロンズ)も、負けないようにしないとな」

「はい。後で僕だけ笑われるのは勘弁して欲しいですから」

 俺もロロも頬をぴしゃりと叩き、大きく深呼吸を済ませた。


「そろそろ始めるわよ」

 フォースィが立ち上がると魔導杖を俺達に向け、詠唱を始める。

 短い言葉だったが、彼女が口を閉じると同時に、俺達の体は淡い光で包まれた。

「こ、こいつぁ」

 十分に睡眠をとった後の目覚めの様な爽快さ、それどころか自分の装備の重さすら分からなくなっていた。地面を蹴れば、子どもの背丈程に飛び上がり、拳を握れば腕を守る籠手がはちきれんばかりに軋む。

「身体能力向上の魔法………ですが、こんなに一度の、それも三人同時に掛けられるなんて」

「………凄い。流石は師匠」

 魔法に長けたロロとアイリーンが、言葉を失う程の技術らしい。

 フォースィが額に滲んだ汗を拭う。大魔法の影響か、胸に手を置きながら何度も深い呼吸を繰り返し、体の調子を整えていた。

「腕力、脚力の能力向上。遠距離からの物理、魔法攻撃を二十まで防げる障壁、それに動体視力や反応速度の向上も重ねてあるわ。継続時間は十分程度で短いけれど、二等級上の能力は保障するわ」

 さらにロロとアイリーンには魔法攻撃の増幅もかかっていると補足する。

 言っている事は単純だが、とんでもない効果である事だけは分かった。


「これ以上無いってくらいに、力がみなぎってくる。これなら行けるぜ」

 目に力が籠っていく。まるで、御伽噺の主人公になったかの様な高揚が、さっさと前線に向かえと俺の背中を押すようだった。今なら、百を超える敵ですら軽々と薙ぎ払える。そんな根拠のない想像を叶えられる気分だった。

 俺が送る視線に、ロロとアイリーンも強く頷いている。

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