⑨開戦の狼煙
三十分後。
砦を挟んだ反対側で、大きな声が上がる。
始まりの合図である。先輩冒険者達のパーティが、砦を囲むように四方の櫓に向かって遠距離からの攻撃を仕掛けられた。
「は………は、始まりましたね」
大木の影で、ロロが自分の魔導杖を全身で抱きながら微かに震えている。振り返って大きく数歩駆け出せば、そこは森の外にして扉の前。扉を挟む左右の壁の上には小さな櫓が組まれ、その櫓を繋ぐ細い通路からも周囲を見張る盗賊達がいる。
彼等から見れば、これから突貫する俺達は格好の的である。
「あぁ。始まったな」
俺も全身からの汗が止まらない。手汗は酷く、大木に隠れてからというもの、何度も両手を擦り合わせていた。
「頑張って。二人共!」
俺とロロよりも一つ後ろの大木の影で、アイリーンが腰を屈めたまま程よく小さな胸の前で拳を握って励ましてくる。回復と支援を担当する彼女からすれば、攻撃の為に顔を出す必要もなく、フォースィと共に最も安全な位置に居る事になる。
言葉にはしないが、非常にずるい。死んだら、アイリーンの枕元に出る事にしよう。
「三人よ。貴女も行きなさい」
「え、嘘………ですよね。フォースィさん」
アイリーンの笑顔が引きつり、青ざめていく。
言葉にはしないが、旅は道ずれ、ざまあみろである。死んだら、皆でフォースィの枕元に出る事にしよう。
「回復も支援も、私一人で十分よ。貴女も光撃魔法の一つくらいは撃てるでしょう?」
的は多い方が攻撃が分散する。我らがリーダーは性別に関係なく、実に合理的な判断を下してきた。
「だ、そうだ。頑張れ、アイリーン」
「大丈夫ですよ………ほら、危険な道も皆で渡れば怖くないって言うじゃないですか」
「それを言うなら、赤信ご………ゴホン、何でもありません。とにかく貴方達も、笑っていられるのも今の内ですからね!」




