③洗礼開始
「うぅ。す、すいません。戻りました」
口元を袖で拭いながら、ロロが復帰して来る。
「だ、大丈夫か?」
「だだだ、大丈夫です」
顔も唇も白い。痩せ我慢にすらなっていない。
そういう俺も、それ程余裕は残っていない。
フォースィが、俺達のやり取りを見て、何度目かの溜息をつく。
「これから人間相手に剣と魔法を振るのだから、早く慣れる事ね」
「はい………頑張ります、師匠」
起伏のない言葉に、ロロが面目ないと小さく頷く。
俺はぴしゃりと両頬を叩いて、気合を入れ直す。
「アイリーン! ほら行くぞ!」
残ったのは彼女のみ。
「うぅ! 分かりました! 今行きます!」
行けばいいのだろうと、大きな踏み足で大木から姿を現したアイリーン。
だが、その十数秒後。
すぐに大木の影へと戻り返り、ロロと同じ末路を歩む彼女の背中を見る事になった。
「早くしてくれ………俺も、そんなに保たないから」
二人が撒いた据えた匂いが、俺の喉元を酷く刺激する。何度も胸を撫でたい所だが、革鎧の上からだと効果が薄い。と、いうか全く無い。
二人と同じ運命を自分が辿る前に、俺も早々にここを立ち去りたかった。
「正直、きついぞ………なぁ、どうすれば慣れるんだ?」
駄目で元々。俺は熟練者のフォースィに視線を送る。
それに気付いた彼女は、仕方がないと眉を潜めた。
「馬鹿ね。鼻から空気を入れるから匂いを感じるのよ。口で呼吸しなさい。それも………思いきり大きくね」
「「な、成程!」」
俺とロロが、そんな簡単な事で良いのかと掌にぽんと拳を落とし、早速口を大きく開けた。
そして大きく一呼吸。
「「うぅおっ! むぐぅっ!」」
口を閉じていた事で、胃の中の逆流を押さえていた力が弱まる。その事に気付いた俺とロロは、すぐに口を閉じ直したが、代わりに鼻で吸った空気が決定打となり、胃の中のものが喉を通り、口の中を占領していった。




