③青年は格好をつけたい
「いえいえ、とんでも御座いません」
笑顔のままの彼女は、何もない空間から淀みのある黒い穴を作るとそこに手を入れ、新たな白銀の斧を引き出した。
そして振りかぶり、石を投げる様に森の奥へと放り投げる。
生きた木材をいくつも断つ音が小さくなっていき、一秒もしない内に斧は赤く染まって帰って来る。
「昔から御主人様は、気配を探るのが苦手だったので………つい」
「いつの話だ、いつの! お、俺だってそれなりには探れるようになったんだからな!?」
今度はコルティの背中に向かってきた矢が、六角形の黒い障壁によって阻まれる。
「有難うございます」
「ふっ………そこだな」
全てを見通す深い笑顔のコルティを前に、青年は目の粗いジーンズのポケットから親指程の小石を取り出した。そして、それを握り、親指の爪で弾く。
拳から放たれた小石は、弾丸のように風を切って直進すると、彼女の後ろ奥にある大木の上部の枝葉の中へと消えていった。
しかし、反応がない。
再び矢がコルティの後頭部に向かって飛んできたが、彼女は顔だけ振り返り、二本の指で挟んだ。
「………もう少し、左でしたね」
「ぐぬぬぬぬ!」
コルティは挟んでいた矢を指でへし折ると、赤く染まっていた三日月斧を投げ払い、自然と共に刺客を排除した。
「待て………まだ気配があるかもしれ—――」「もう、誰もいませんね。御主人様、他の冒険者が来る前に先へ進みましょう」
コルティは戻って来た獲物を握ると、開けておいた空間にしまい込む。そして青年の横を通り過ぎながら先へと進み始めた。
「ぐぬぬぬぬぬ………お、俺だって、格好よく終わりたい」
項垂れる青年の背中に、コルティが静かに振り返る。
「御主人様は、いつでも格好良いですよ」
「………何故だろう。情けをかけられている気がする」
青年は後頭部を掻きながら、仕方なく前進を始めた。
「気のせいですよ」
「うっせぇ」




