①深夜の雨音
部屋は暗かった。
いつもなら丁度いい時間に照明を点けてくれる者がいないのだから当然である。
青年は窓から入る僅かな光のみで、酒の入った木製のジョッキを小さく回していた。
それでも暗い。
窓越しから伝わる水滴の波と音から分かる天気であれば、当然である。
既に時刻は深夜。日が変わって一時間が経過しようとしている。
窓から同じ音の雨が続いており、空気も幾分か湿っていた。
そこへ、家の戸が静かに開く。
「只今、戻りました」
メイド姿の猫亜人族が傘を閉じ、濡れた服を払いながら帰宅する。
「………迷惑をかけた、コルティ」
青年は振り返る事なく、空になったジョッキをテーブルに置く。
振り返られなかった。
自分の過ちで、冒険者を危険に晒しただけでなく、一生の傷を負わせる事になってしまった。さらには、自分のメイドに回復を任せるという尻拭いまでさせている。
主人として、彼女に顔向けが出来なかった。
「迷惑など、とんでもありません」
コルティは小さく頭を下げると、近くに置いてあったタオルに気が付き、小さく微笑みながら濡れた体を拭き始める。
「お二人の容態は安定しました。一月もすれば、動けるようになるでしょう」
「………だが、冒険者としての道を閉ざさせてしまった」
青年が天井をそっと向く。
盗賊であるシランドは、四肢の怪我で今まで以上に素早く動く事が難しくなるだろう。弓手のダッカ―に至っては片腕を失っており、二度と弓を握る事はない。
青銅級の冒険者が、盗賊相手に囲まれ重傷を負っただけでも、人によって嘲笑の種になるだろう。しかも恥ずべき冒険解説職をわざわざ要請してまで連れていたとあっては、彼等を諫める者も少なくなる。




