⑤無意味な問答
「リヴォル」
俺の呼びかけに、リーダー役の彼が地面を蹴る足を止め、こちらに顔を向ける。その表情は未だ興奮が収まらず、目に力が入り、歯を食いしばる口の震えが見て取れた。
共感してはいけない。飲まれてはならない。俺は一度だけ目を擦るようにして瞑ると、彼の視界に入らないよう、背中の裏で拳を握り締める。
「生存者と荷物の確認を終わらせた。それと、現状の報告をしたいんだが、構わないか?」
だが、返事はない。
俺は彼を直視したまま、拒否されなかったという理由で続きを話す事にした。
「冒険者で生きているのは、俺達と魔法使いのロロの三名だけ。商人が雇った私兵は僧侶が一人のみ。荷馬車が無傷なものは前の二台。後衛の大半は完全に焼失か、一部の荷物が辛うじて生き残った程度だ………それに。最後尾の奴隷が見当たらない。死体がないから、全員が連れ去られたか、逃亡したんだろうと思う」
依頼主が無事とはいえ、商品の半数以上を失った時点で、この護衛は大失敗と見なされるだろう。白級冒険者の俺でさえそう思うのだから、ほぼ間違いはない。
「何故、守れなかった?」
「………は?」
こちらの報告に反応しないリヴォルの言葉に、思わず眉を潜める。
だが彼は拳を胸の前で震わせると、一気に感情の堰を破った。
「後方の馬車の担当は、お前達だったはずだ! それを放棄した以上、後方の損失の責任はお前達にあるからなっ!」
破棄ダレた言葉の影にある俺の拳が、背中で熱を持ち始める。
「俺は………いや俺達はお前の………リーダーの指示で動いた。『自分で考えろ』と、『相手の動きに合わせて臨機応変に対応しろ』と言われたからだ」
仮に、後方の馬車を俺達が律儀に守っていた場合、その荷物だけは今よりも守れたかもしれないが、逆に前方の馬車の荷物を失っていた可能性が高まる。そして、前方の馬車には依頼主がいた。荷物を失った事は大きいが、見方を変えれば、最悪の事態だけは防げたとも言える。




