③思い込み
「そう言う事にしておきましょう」
ロロがくすりと頬を緩める。
「おい、嘘じゃねぇって」
「大丈夫です。分かっていますよ。冗談です」
揶揄われた。思わず頬を膨らませて、一瞬のみ感情が沸くが、ここで冗談が出せる相方には頭が上がらないと諦め、俺は大きく息を吐いて肩をすくめる事にした。
そこへ、アイリーンが戻ってくる。彼女も俺達に負けず劣らず、汚れた格好と酷い表情だ。
「ご苦労様です。アイリーンさん」
地面に置いてあった新しい水筒を、ロロが手渡す。
「………ありがとうございます」
髪の艶を失い、やつれた彼女が水筒を受け取ると丁寧に両手で包み、一口ずつ喉へと落としていく。そして体の中の不純物を吐き出すような大きめな溜息をつき、僅かに表情に温かみを戻す。
「本当に昇級試験なのかと思う位に、酷い状況です」
「全くだ。何度死ぬかと思った事か」
完全に同意する。
「それに………」
アイリーンは、荷馬車の中で声を荒げている商人に目を向けた。イフラーヴァは、こんなはずじゃなかった、この損害をどうしてくれるのかと、試験監督であるフォースィに対して一方的に吐き出している。
試験監督という立場も存外に大変なようである。彼女は、何も言わずに目を閉じたまま数々の暴言を浴び続けていた。
「確かに、何もかもが予想外だ」
商人の気持ちも分からない訳ではない。俺自身も、ここまでの激しさを予想していなかった。恐らく、ロロもアイリーンも同じ結論だろう。もしかしたらこれが『普通』かもしれないが、昇級試験という言葉に対して、俺達は『安全』や『感嘆』という想像を勝手に擦り付けていた事だけは間違いない。




