④アイリーン
「グーレ平原ですね。僕も書物や話でしか見聞きしていませんでしたが………とても素晴らしい光景です」
風を変える構造物もなく、草原が素直に一礼しながらこちらの体を撫でてくる。
「サァ、シゴトダ」
合流したダッカ―が俺達の肩に大きな手を乗せる。遠方出身なのか、言葉に片言さが残る。
「仕事って、俺達は何をすれば………?」
馬車が街道から外れるようにゆっくりとずれていく。馬には草原の草を与え、御者達は休憩に必要な食料と水が入った背嚢を馬車から取り出している。
遠くでは休憩地となる大木の下で、女性が魔導杖を掲げていた。
薄い透明な幕が、半球状に展開されていく。
「ロロ?」
「あれは………警戒用の結界です。魔物が触れると術者が気付ける魔法です。凄い………結構、高レベルの技ですよ」
確か、シランド達とパーティを組んでいた僧侶。俺達とシランド達が迷宮で出会った際、体調不良で参加していなかった女性。アリアスの街を出発する時、初めて顔を合わせている。
僧侶の女性が大きく手を振っていた。
「アイリーンモ、チョウシガ、モドッタヨウダ」
ダッカ―が手を上げ、彼女の笑顔に応える。
「………アイリーン」
思い出せなかった名前が蘇る。シランド達中年に反して、若い女性の顔が同時に思い浮かぶ。
「リュウタチニハ、シュウヘンノ、ケイカイヲ、シテモラオウ」
「あ、それなら僕達にもできますね!」
ロロが俺の肩を押しながら颯爽と動き出す。
「お、おい!」
良く分からないまま、仕方なく大木の下へ向かう事になった。
「あら、貴方達は」
結界を張り終えたアイリーンがこちらに気付く。
白に近い灰色の長髪に、白い線の走る青い神官服を纏った女性。年は二十歳に満ちる前、俺達よりも上らしいが、中年達に不釣り合いな見栄えには違いない。
「リュウさんとロロさんでしたっけ」
「あぁ」「す、すいません。すぐに巡回してきます」
小さく一礼する彼女に俺は手を軽く上げ、ロロが慌てて頭を下げる。
「いえ………結界を張ったので、そこまで気負う必要はないかと思いますが」
「「えっ?」」
苦笑するアイリーンの顔に、俺達の時が止まる。




