①魔女の森
数分も進めば光が届かなくなる。左右の深い森に挟まれながら馬車で進む事、小一時間。
どこにでも隠れる場所があるにもかかわらず、一向に商隊の馬車が襲われる気配がない。
だが、油断は思わぬ失敗に繋がる。
俺は昂る気持ちを抑えつつ、御者の横で左右の茂みを定期的に睨みつけていた。
「リュウさん。そんなに張り詰めていては、後がもちませんよ?」
荷馬車の後ろから、目が隠れる程の長い前髪、隙間から見えるそばかすの少年が水筒を差し出してくる。
唯一の仲間である魔法使いのロロは、慎重な性格に珍しく肩の力を思いきり抜いていた。
「ロロ。こんな襲撃しやすい場所こそ、注意する必要があるんじゃないのか?」
断るのも悪いと水筒を受け取り、ゆっくりと一回ずつ喉に通す。欲する程に乾いていたとまでは言えないが、飲める内に飲んでおくのも冒険者としての基本である。
水筒を返してもらったロロが、左右の森を一瞥する。
「ここはまだ『魔女の森』の中です。いつ来るか分からない荷物を待つ為に、ここで隠れるには、危険が大きすぎますよ」
―――魔女の森。
アリアスの街周辺を取り囲む深淵の森を、いつしか人はその名で呼ぶようになった。魔女が住む家があるとの単純な子ども向けの噺もあるが、最大の特徴は魔法の源であるクレーテルが高濃度で漂っている事にある。その為、動物の類は、自身が内包するクレーテルが無意識に抜けていくという現象が発生する。
クレーテルは魔力の源であり、全ての物質を構成する因子と言われている。故に、この森の中で動物は長時間滞在する事が出来ない。
植物のみが繁る恐ろしくも神秘的な森。それが魔女の森である。




