③それは見果てぬ頂か
ショーンがコルティの無言の意図に小さく頷く。
「アルゼット」
もう一度彼女の名を呼び、ショーンはアルゼットの顔を上げさせた。
「確かに、お前には言えていない事がある………それは認めよう」
目を瞑るコルティの横で、『だが』と続く。
「世の中には知らなくてもいい事がある。知れば、元の生活に戻れなくなる事もある、時には命を狙われる事もある、最悪敵同士になる事だって………俺は、お前にそんな世界で生きて欲しくはない」
「それでも―――」「それでも」
ショーンが言葉を遮る。
「………もしそれでも、俺の事を知りたいのならば、強くなれアルゼット。少なくとも、俺が倒した魔獣の数を倒せる程度にはな」
ショーンが自分の服を掴む彼女の手を取り、一本一本丁寧に指を解く。そして全ての指を服から手放させると静かに立ち上がり、無言を貫いていたコルティもそれに続く。
「先生!」
扉を出ようとしたショーンの背中を、アルゼットが呼び止めた。
「………何体ですか? 何体倒せば私を認めてくれますか?」
その答えは、彼が口にした条件に通じる。
ショーンが振り向き、手の甲を見せる形で五本の指を全て開く。
「………五十だ」
「五十匹」
アルゼットが目を大きくさせた。
銀等級の認識票を持つ上級冒険者の視点でも、それは異常だった。事実ならば、冒険者の最高位に匹敵する。
そんな彼女の表情を余所に、ショーンがいつもの意地の悪そうな微笑をつくりだす。
「一日でそれだけ倒せるようになったら、いくらでも教えてやる」
そう言って彼は冗談めかしく手を振り、部屋を後にした。




