②偶然という名の必然
「先生達が、偶然にも同じ階層に居合わせていなかったら死んでいました」
這いつくばっていたアルゼットを踏み潰そうとしていたデスタウロスを、ショーンとコルティが仕留め、彼女は無事生還した。
「まったくだ。俺達がいなかったら今頃―――」「先生」
呆れた言葉でショーンが掌を左右に広げると、アルゼットが言葉を挟む。
彼女は果物が乗った皿を近くのテーブルに避けさせると、改めて視線を送った。
「先生は、どうしてあの場にいたのですか?」
「どうした、藪から棒に」
声に低さが加わり、部屋に入る足元の風に不穏さが僅かに混じる。
「俺は報告にあった例の魔獣が、他の階層にも残っていないか、調べて―――」「何体目でしたか?」
再び言葉を挟まれる。流石のコルティも笑顔が消えていった。
「先生が倒した魔獣は、何体目のデスタウロスだったのですか?」
アルゼットが上半身を起こしたまま顔を近付けて来る。
「魔獣を調べていたのは、ギルドからの依頼ですか?」
「………ギルドからの直接の依頼は受けていない。あくまで自主的なものだ」
「私達が遭遇した以上、あれが初めてという訳ではないですよね?」
彼女の問いに、ショーンは無言を返した。
「………何が言いたい。アルゼット」
立て続けの疑問に、流石の彼も声が低くなる。
「私は、本当の先生が知りたい」
アルゼットがショーンの服を掴む。
「先生は一体何者なんですか!? 私なりに先生と向き合ってきたつもりですが、近付けば近付く程、先生の強さを見れば見る程、追いつけるどころか、まるで霧を相手にしているかのような虚無感を感じるんです」
「………アルゼット」
コルティが間に入ろうと静かに腰を浮かすが、ショーンが小さく手を伸ばしてそれを制止させる。
「先生は、いつも大事な所で線を引くように誤魔化します。そんなに私が信じられませんか? 私が貧民街の出身だからですか?」
「それは違う」
ショーンの服が強く握りしめられる。
「貧民街で盗みをしていた孤児のお前が、ここまで成長できたのは他でもない。お前自身の努力と才能によるものだ。俺はそれを誇りに思いこそ、お前の過去を理由に避けた事は一度もない」
「………だったらどうして」
アルゼットの肩が震えている。ショーンはコルティを一瞥するが、彼女は静かに首を左右に振っていた。




