④幼馴染の過去
交代するように、花瓶に花を生けたティリアが戻ってくる。
「また………怒られたの?」
「またって………まぁ、確かに怒られた内には入るんだろうが」
振り返っても、思い出すのはショーンの小言ばかり。怒られた数の方が圧倒的に多い。
「どちらかといえば、心配をかけるなという意味だった気がする」
「なら怒ってない。御主人様は、滅多に怒らないから」
花瓶が近くのテーブルに置かれる。季節に合わせた桃と黄色、そして白い花が僅かな風に反応して揺れる。
「いつも怒ってる顔しか思い出せないんだが」
両腕を組んで深く思い出してみるが、やはり小言を言っている姿が真っ先に思い浮かぶ。
「それは、リュウが何も考えないから」
「むぅ」
否定できない。
指示された事を終えたティリアが窓の前の丸椅子に腰かける。背中から入る風が彼女の服の端や白と黒の混ざった髪を揺らし、遅れて石鹸と花の香りが俺の鼻を同時に刺激する。
俺は彼女を無意識に見つめていた。
「なぁ、ティリア。お前はどうして—――」
聞くべきか、聞かざるべきか。今でも俺は迷っていた。
「私は、売られたの」
「売られたって、まさか!?」
彼女の両親かと思って口に仕掛けたが、先にティリアが首を左右に振る。
「リュウが出て行ってから数か月経って、村で流行り病が起きたの」
その際、ティリアの両親が真っ先に病で亡くなった。
そして、病の原因がティリアにあると村の中で噂が広がっていくのに、そう時間はかからなかった。
「私は、人でもなく、亜人でもない半亜人。昔から、厄を呼び寄せると言われてきたけど、ついに村の人達は私を追い出すしか方法がないって決まったの」
「………馬鹿な事を。あの村はまだ、そんな事をしていたのか」
それが本当ならば、既に故郷は何度も滅んでいる。彼女の両親はティリアを腫物の様に酷く扱っていたが、良くも悪くもあの両親が最悪の行動にならないような防波堤だったという事になる。そう思うと、俺の心境が複雑に絡まっていく。
それでも俺の拳は、布団の中で震えていた。




