⑩冒険者の背中
デスタウロスの危険度はアルゼットと同じ銀級。俺達は勿論、青銅級のシランド達ですら、太刀打ちできない。
俺は下唇を噛み、自ら声を封じた。
ダッカ―に体重の半分以上を預けていた俺は、崩れた扉、上層へと続く階段の前へと運ばれていく。シランドが先に到着し、こちらも可能な限りの速さで合流に向かっていた。
情けない。
同じ仲間のロロどころか、助けに来た彼らの世話になり、アルゼットの援護にすら入れない。
敵わない魔獣と分かっていても、それを口にしたくない自分が確かにいた。
「………強く、なりてぇ」
思わず呟く。
アルゼットがデスタウロスの視界を誘導している間、俺達は無事に休憩所として扱われていた広間へと入る。扉は既に崩れ落ちており、魔獣から身を守るには殆ど意味を成していない空間だが、シランド達は階段横にある壁を背に俺達を降ろした。
そして、俺の前に二本の回復薬を置く。
「いいか? 体が動くなら回復薬を使って、階段を上がれ」
上層の広間も休憩所となっており、危険はない。彼は真剣な面持ちで、かつ分かりやすい言葉と速さで説明する。
「………!?」
視線を動かし、満足に動かない首を震わせながら、シランドとダッカ―を一瞥する。
「俺達は、少しでも奴の足を止める」
無茶だ。
「う………ぁ」
声に出したくとも、既に体力は尽き欠け、体がまともに動かない。
泳ぐ視線からこちらの意図を汲んだのか、シランドが眉を潜めて苦笑する。
「いくら俺より上の先輩でも、年下の女の子を一人残して逃げるっていうのも………なぁ?」
彼がダッカ―を見上げた。
「アア。カッコワルイ」
荷物をその場で全て降ろしたダッカ―は矢筒だけを背負い直し、弦を軽く弾いて張り具合を確認する。
「なぁに、心配するな。自分の身くらいは守れる。無茶も死にもしないさ」
青銅級の二人が笑っていた。
これが冒険者の姿だと思った。
俺は、まだ何も冒険者を理解していなかった。そして、自分の無力さを噛みしめながら、何も出来ない自分の情けない体を、その眼で見続けるしかなかった。
「さぁ、行こうぜ。戦友」
「アア」
シランドとダッカ―が横に並び、拳を重ねる。




