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Lost13 無名の青年が無名で終われる物語  作者: JHST
第十章 初級冒険者、悪夢と再び遭遇する
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⑨アルゼットの戦い

「アルゼットさん! 援護を頼みます!」

 その言葉に俺は前を向くが、既に彼女の姿はそこになかった。

 アルゼットは、一瞬でデスタウロスの顔前まで飛び上がり、細身の長剣(ロングソード)を振り上げている。

「言われるまでもない。弟弟子を痛めつけてくれた礼は、喜んで果たさせてもらうよ」

 彼女の長剣(ロングソード)に風が纏い始める。

「斬り裂け!」

 風と共に刀身が魔獣の頭上から振り下ろされた。

 洞窟の天井に触れるかのようなデスタウロスの長身は、アルゼットの一閃を受けて左瞼から頬、そして左胸までを縦一閃に切り裂かれる。魔獣は三度吠えながら数歩後退すると、噴き出す血を止めるかのように両手で傷口を押さえていた。


「………すげぇ」

 訓練場でも目にしたが、彼女は自分の剣撃に風の魔法を乗せる事が出来るらしい。鋭利さを追求する為に直接斬っても良し、解き放って遠距離技に使っても良し。単純で汎用性の高い攻撃である。

 だが、デスタウロスも受け身で終わらない。後退に使っていた足をそのまま地面を蹴る推進力として活用し、自重を乗せた拳を振り下ろしてきた。

 一方のアルゼットは着地したばかり。魔獣の拳は彼女も視界に捉えているが、膝を曲げ、地面を蹴って避けるだけの時間はない。

「ゲイルウォール!」

 両手を広げた彼女の前で、方向性をもった強風の壁が地面から巻き上がる。その勢いは、魔獣の拳の軌道を徐々にずらさせ、ついには地面へと衝突させた。

 すかさず彼女は、風を纏った長剣(ロングソード)でデスタウロスの伸ばした腕を深く斬り払う。切断とまではいかないが、その深さは骨が露出するにまで達していた。

 噴き出す赤黒い血が地面の色を変えていく。


「ダッカ―! 応急処置は終わった! さっさとずらかるぞ!」

「ワカッタ!」

 シランドが最低限の処置を終え、気を失っているロロを肩に担いだ。

「サァ、オレタチモ、イクゾ」

「行くって!? だってまだ敵がっ!?」

 勝手に腕と肩を持ち上げられ、俺は必死に戦っている彼女へと視線を向けて訴えた。

 だが、ダッカ―は首を左右に一往復させる。

「オレタチガイルト、ジャマ!」

「………くっ!」

 短くも正論だった。

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