⑦覚悟の先に芽生えたもの
「りゅ………リュウさん!」
ロロの掠れた声が、微かに片方の耳にだけ入ってくる。
だが、今の俺は自分がどこを向いているのかさえ分からない。視界は渦を巻き、吐き気よりも、呼吸の有無すらまともに理解できていない。何とか、彼の姿が視界に映っている事が認識できる程度である。
「う………ご、ふ」
気泡の混ざった血液だけが口からでるのみ、言葉は出ない。
そこへ魔獣の足音が、振動となって体に伝わってくる。
だが、振動の強さは徐々に弱くなっていた。
「く、来るな」
今度こそ、魔獣はロロを標的にしていた。彼は必死に生み出した炎で対抗するが、魔獣の腕が垂れた枝葉を払うように霧散させる。
ロロが魔獣の一撃に耐えられる訳がない。
俺にも倒せる力が無い。
万策が尽き、最早死んだフリで誤魔化せないかとまで考える様になっていた。
「クソったれ」
何度も口にしてきたが、その意味は徐々に変わっていた。
気が付けば、俺は二本の足で立ち上がっていた。
自分でも内心驚いているが、痙攣しかけている膝、内股になっている脚だが、俺は確かに自分の意思と力で立っている。
魔獣が振り返る。
元々折れていた左腕は完全に死んでいる。肩から先の感覚は既にない。
それでも俺は、残った右腕に力を集中させ、魔獣に向かってまっすぐに伸ばす。
そして、震えながらも手首を曲げると、中指を立てた。
「おぃ、牛野郎。悪いが、こっちはまだ死んでねぇぜ」
俺は一体何がしたいのだろうか。自分でも分からない。
武器はなく、戦う力も残っていない。残された選択肢は、殺される順番のみ。最初かその次か、それしか選ぶ事が出来ない。
結果として、俺は前者を選んでいた。
先の事など全く考えていない。大した理由などない。唯々、仲間の後に殺される事だけは、絶対に勘弁がならなかった。
それだけである。




