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Lost13 無名の青年が無名で終われる物語  作者: JHST
第十章 初級冒険者、悪夢と再び遭遇する
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⑦覚悟の先に芽生えたもの

「りゅ………リュウさん!」

 ロロの掠れた声が、微かに片方の耳にだけ入ってくる。

 だが、今の俺は自分がどこを向いているのかさえ分からない。視界は渦を巻き、吐き気よりも、呼吸の有無すらまともに理解できていない。何とか、彼の姿が視界に映っている事が認識できる程度である。

「う………ご、ふ」

 気泡の混ざった血液だけが口からでるのみ、言葉は出ない。

 そこへ魔獣の足音が、振動となって体に伝わってくる。

 だが、振動の強さは徐々に弱くなっていた。


「く、来るな」

 今度こそ、魔獣はロロを標的にしていた。彼は必死に生み出した炎で対抗するが、魔獣の腕が垂れた枝葉を払うように霧散させる。

 ロロが魔獣の一撃に耐えられる訳がない。

 俺にも倒せる力が無い。

 万策が尽き、最早死んだフリで誤魔化せないかとまで考える様になっていた。


「クソったれ」

 何度も口にしてきたが、その意味は徐々に変わっていた。

 気が付けば、俺は二本の足で立ち上がっていた。

 自分でも内心驚いているが、痙攣しかけている膝、内股になっている脚だが、俺は確かに自分の意思と力で立っている。


 魔獣が振り返る。


 元々折れていた左腕は完全に死んでいる。肩から先の感覚は既にない。

 それでも俺は、残った右腕に力を集中させ、魔獣に向かってまっすぐに伸ばす。

 そして、震えながらも手首を曲げると、中指を立てた。

「おぃ、牛野郎。悪いが、こっちはまだ死んでねぇぜ」

 俺は一体何がしたいのだろうか。自分でも分からない。

 武器はなく、戦う力も残っていない。残された選択肢は、殺される順番のみ。最初かその次か、それしか選ぶ事が出来ない。

 結果として、俺は前者を選んでいた。

 先の事など全く考えていない。大した理由などない。唯々、仲間の後に殺される事だけは、絶対に勘弁がならなかった。

 それだけである。

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