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もう一人のお姉ちゃん

 この三十分間はとにかくグループホームから家までの道のりを入念に捜索した。康弘たち職員さんを疑うわけではないが、自分の目で確認しておきたかった。それに、瀬名はおそらくどこか一点に留まらずに移動している。そうであるなら、この近辺に戻っている可能性もあるのだ。

「……」

 普段は入らない路地も確認し、歩き続ける。

 駿平は考える。

 そもそも、瀬名はどうして家に帰りたいと言ったのだろうか。家族に会いたいという康弘たちの考えが正しいのならば、先日、駿平がグループホームに行ったばかりだ。瀬名が脱走するとは思えない。

 もう一つ、すぐに思いつく。瀬名はグループホームの職員さんや利用している方々を嫌っていた。さらに、何故自分がそこにいるのかも忘れてしまっていた。

「……でもなあ」

 その考えはすぐに否定する。

 グループホームにいたくなくて逃げ出したという可能性はもちろんあり得る。けれど、駿平はどうしてもそれはないのではないかと思う。瀬名の変わりようを見てしまっている今では少し説得力に欠けてしまうが、瀬名は嫌なことがあるからと逃げ出すような性格ではないのだ。自分が物事を忘れてしまっていることに対しても、いつも真摯に受け止めていた。自分のミスなんだと重く受け止めていた。

 状況は違うかもしれないけれど、本当に嫌なら、近くの誰かに相談すればいい。相談する相手がいないということもない。駿平のことは忘れていなかったのだ。ならば、「家に帰りたい」ではなく、「駿平に会いたい」と口にすればいいだけなのだ。

「……」

 しかし、そうなると手がかりがなくなる。

 家に帰りたい理由として、今日が記念日だから、ということも一瞬考えるが、それは瀬名自身が忘れていることを証明している。あり得ない。

「とにかく、見つけるのが先決だ」

 手がかりがなくなったからと言って、足を止める理由にはならない。

 何故と考えるのは後でもできる。

 今は、瀬名を見つけることに集中しなければならない。



     ◆



「ここか……」

 一方、内部分裂を起こしたチーム氷牙へと向かった黒鳥は既に彼女らの活動拠点に到着していた。

 彼らの現在の活動拠点は、廃工場だ。立ち入り禁止になっているものの、鍵などはかかっておらず、不良が集まるにはうってつけの場所だ。周りには草が生い茂り、身を地面に伏せていれば見つかることはない。

「現在の状況は、と」

 黒鳥は携帯を取り出し、工場の内部を確認する。

 実は、駿平が思っているほど黒鳥は万能ではない。黒鳥がどうして毎度のようにいろはの居場所を知っているのかというと、チーム氷牙の中に友達がいるからなのだ。黒鳥にとってもその友達にとっても、互いのことは心配していて、だからこそいつでも連絡を取り合っていられたのだ。

 チーム氷牙ができた当初からのメンバーの一人で、いろはともそれなりに仲良くなっていると黒鳥は聞いていた。

「お、まだ暴力沙汰には発展してないか……」

 黒鳥からの命で、その友達はなにかあった時にはこれで知らせろとカメラを持たされていた。その映像が、黒鳥のノートパソコンを経由して黒鳥の携帯に届いているのだ。

「さて、どうしたものか」

 工場内の様子が分かることやいろはや友達が傷ついていないのは良い。

しかし、ここで自分が突っ込んでいってもなにかが解決するとは到底思えない。何度もメンバーやリーダーのいろはと接触しているから顔は覚えられているだろう。ある程度警戒されているのは言うまでもない。

「……」

 黒鳥の目的は二つある。一つは、いろはの奪還だ。

 こうして二つに分かれて対立しているというのは悪い状況じゃない。いろはを指示している側につけば、少なくとも一対多数の状況にはならない。が、その後が問題だ。黒鳥が出て行こうがいくまいが、様子を見ていると、いつ暴力沙汰になってもおかしくない雰囲気だ。

「……できれば、この後のことも考えたいんだが」

 そして、二つ目の目的はこの一件を瀬名捜索に繋げることだ。

 この発想は、駿平には絶対にできない。駿平がもう一人の姉と認め、学校内で黒鳥などという不気味なあだ名が付けられる所以だった。

 どちらかに味方するということは、恩を売れるということなのだ。そうなれば、この一件が解決した後、瀬名捜索の協力を要請できる。いろはの側の人間は経緯はどうあれ、いろはを支持しているようだから、いろはに事情を話せばそちら側の人間にこうしろああしろと言ってもらえる可能性も出てくる。

 けれど、問題は、動ける状態でこの一件を終わらせられるかどうか。骨折やら打撲やらしたような人間、しかも明らかに不良ですというような者が街中を歩いていたら、警官に呼び止められる。そうでなくても、怪我をしている人間にいくら人助けとはいえおおっぴらに頼みごとなどできないだろう。

「……」

 黒鳥は考える。

 どうしたら、この一件を良い方向に持っていけるか。


 いろはを無事、元の世界へ戻すことができるのか。


 駿平が信じるもう一人のお姉ちゃん、黒鳥の本領発揮はここからだ。


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