ケーキ屋
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駿平はひたすら街中を歩き続けた。
探し始めてから既に二時間近くが経つ。
「くそ……」
協力してくれている人たちが捜索範囲を広げているように、駿平もどんどんいろんな場所に足を進めていた。
グループホームの近くにある川沿いの道をぐるっと一周し、学校周りも捜索した。瀬名が勤めていた小学校方面の道にも行ってみた。昔、瀬名と二人でよく遊んだ公園や、瀬名がよく買い物に訪れていたというスーパーにも行った。
だが、結果はどれも空振り。瀬名の姿は見つからない。
「暗くなってくると厄介だぞ……」
時刻はもうすぐ六時になろうかという時間帯だ。
山に囲まれた上草市はもう日が沈んでいる。それでも、まだほんのり明りが残っていたのだが、徐所に夜の暗さになってきている。
「一回、戻ってみるか?」
三十分置きくらいに康弘から現状がどうなっているのか連絡があるが、それでも電話だけの情報ではよく分からない。一度、グループホームに帰って、体制を立て直した方が良いかもしれない。
「……」
それに、と駿平は思う。
この時間になっても、まだ黒鳥から連絡がない。学校での連絡の後、すぐにいろはのところに向かったのであれば、なにかしらの動きがあってもおかしくないはずなのだ。
一度、グループホームへ戻り、少し休みながら黒鳥に連絡してみるのもありだろう。
「……ん?」
そう結論付けて、くるっと反対方向へ足を向けたところで止まる。
現在、駿平のいる場所はグループホームから三十分ほど離れたところにある商店街だ。八百屋や文房具店、古本屋に薬屋と、いろいろな店が揃っているが、その中のある店に目がいく。
ケーキ屋だ。
この辺りで瀬名が目撃されたと聞いて来てみたのだが、特にこれといってなにがあるわけでもなく、適当に捜索していただけだった。けれど――
「まさかな……」
そう思いながらも、駿平の足は自然とそのケーキ屋へと向いていた。
店のドアを開けると、からんからんという音がする。店員のお姉さんのいらっしゃいませという声が耳に入る。にこにこと、営業スマイルを浮かべて駿平を出迎えてくれた。
しかし、店員のお姉さんには申し訳ないが、ケーキを買いにきたわけではない。
「ええと」
「どれになさいますか?」
「いえ、あの、ケーキを買いにきたわけじゃないんです」
そう言うと、お姉さんは首を傾げる。
ケーキ屋に来ておいて、ケーキを買うわけではないというのはおかしな話だ。
「もしかして、泥棒さんですか?」
可愛らしく言いながらも、お姉さんの左手はしっかりと近くにあった受話器を握っていた。
「違います!」
慌てて否定すると、お姉さんはさらに首を傾ける。
「この店に、三十歳くらいの女性がきませんでしたか?」
期待はしていなかった。
なにかの拍子に、瀬名が今日がなんの日なのかを思い出したのならケーキ屋にくることもあり得るのではないかと思っただけだ。瀬名と駿平は毎年、お祝いにと二人だけでケーキを食べている。もし、思い出したのなら、十分考えられることなのだ。
でも、心の中では半分以上諦めていた。康弘からも、医者からも、認知症を持つ方が一度完全に忘れてしまったことを思い出すことはほとんどないと聞いていた。
だから――
「いえ、知りませんけど……」
そう言われても、特になにも思わなかった。
駿平はありがとうございます、と頭を下げてから、ケーキ屋を出る。
「さて、戻るか」
今度こそ、駿平はグループホームへ引き返した。




