26.トリスタンお兄様の毒殺
リオ様とジネット様の第一王子が生まれて2ヶ月、私達は平和に過ごしていた。
リオ様と執務室で仕事をしていると、侍女が慌ててやってきた。
「キャペリー伯爵様が至急お会いしたいと。」
「お父様が?」
驚きながらも、急いでリオ様と一緒に父と会う。
「トリスタンが死んだ。毒殺だ。」
「…嘘…でしょう?」
父の言葉が理解できなかった。
毒殺されたトリスタンの側で自死した実行犯と思われる侍女が、死ぬ間際に自らの血で書いたのが
『アンネリーナのせいでトリスタンは死んだ。』
という文字だったそうだ。
「嘘、嘘です。嘘だと言ってくださいませ、お父様!だってトリスタンお兄様はつい最近も、私に会いにきてくださったのですよ!」
「アンネ…!」
泣きながら取り乱す私をリオ様が私を抱きしめる。
それからのことは混乱しすぎてあまり覚えてない。
気づけば私は実家で静かに眠るトリスタンお兄様の前にいた。
トリスタンお兄様は眠っているだけのように見える。
「…トリスタンお兄様?」
トリスタンお兄様の頬に触れると、冷たくて驚く。
「トリスタンお兄様、起きてくださいませ。また、私を驚かせようとしているのですか?」
「アンネ。。」
側にいるリオ様が私のことを呼ぶ。
私も冷たくなったお兄様が、私を驚かせようとしているわけでは無いことを分かってはいるのに、どうしても信じられない。
「嫌です。嫌です。トリスタンお兄様。私を置いていかないでください。」
「トリスタンお兄様、目を開けてください。」
トリスタンお兄様を抱きしめながら、泣く。
「私の、私のせいです。お兄様。お兄様が私と2人で逃げて平民になろうと言ってくれた時に、どうして私はお兄様と2人で逃げなかったのでしょう。」
「あの時、私が逃げていればお兄様は殺されなかった。」
「お兄様では無く、私が死ねば良かった!殺すのなら私を殺して欲しかった!…お兄様、あなたのもとへ私も連れて行ってくださいませ。」
「アンネ!お願いだから、そんなことは言わないでくれ!」
リオ様に後ろから抱きしめられる。
散々泣いた私は、吐き気が込み上げてきて、吐いた。
トリスタンお兄様の葬儀も、悪い夢なのでは無いかと思いながら眺めていた。
トリスタンお兄様はまだ19歳なのに。
それからは体調を崩して、吐くことが増えた。
食事も喉を通らない。
常に気分が悪いし、ふとした拍子に涙が出て来る。
私のせいで、トリスタンお兄様は死んでしまった。
周りはみんな否定してくれるけど、私があの時お兄様と逃げれば、お兄様は死ななかった。
「アンネのせいで死んだと言うのならば、トリスタンが死んだのは私のせいだ。すまぬ。」
「リオ様のせいではありません。リオ様は、私を守ってくれています。」
「アンネ、頼むから死ぬなどと言わないでくれ。アンネを失う事など、考えられない。トリスタンも、アンネが死ねば悲しむだろう。」
「アンネリーナ様、私からもお願いします。私はアンネ様を必ずお守りすると誓いました。何があってもお守りしたいのです。」
ロラン様も心から私を心配してくれているのが伝わって来る。
「でも、私のせいで、また誰かが亡くなってしまうかもしれません。」
「アンネの家族には護衛をつけたから、心配しないでくれ。」
「私の友人が殺されてしまったら?誰が狙われるのか分からないのです。」
「…皆、守る。ジネットに接触している人間を使用人も含めて全員尋問して、今後接触できないようにする。」
リオ様は、そう言ってくれるけれど、誰が狙われるかも分からない人を全員守るなど、無理な事は分かっている。
「トリスタンお兄様を毒殺した実行犯は死んでしまっています。また、証拠は見つからないでしょう。」
「それでも、何としてでも証拠を見つける。もう2度とこのような事は起こさない。」
リオ様がそう言ってくれても、私の不安は消えなかった。
眠ると優しかったトリスタンお兄様が夢に出てきて、「やっぱり生きていたんだ。なんて悪い夢を見ていたんだろう。」と思うのに、起きると現実だったのだと思って涙が出てくる。
私が泣くたびに、抱きしめてくれるリオ様。




