22.王太子殿下視点
ジネットと結婚して2週間が経った日、アンネが暗殺者に襲われたと、騎士から報告を受けて目の前が真っ白になった。
アンネは無事でこちらに向かっていると聞き、私はすぐに馬に跨り、アンネのもとへ連れて行くように命令をした。
森の中に入ってすぐ、馬に跨るアンネが見えて、心底安堵した。
第3騎士団副団長のロランと一緒に乗っているのには嫉妬したが。
私のアンネにくっつくなと言いたいところだが、アンネを王宮に返すのには必要な事だと思って我慢した。
それよりもまずはアンネの無事だ。
アンネが血まみれだったので焦ったが、全て返り血で怪我がないと聞いて、心から良かったと思った。
10人の暗殺者に襲われて、傷一つ負わないアンネの強さに驚いたが、アンネは震えていた。
目の前で全員が自死をしたらしく、気分が悪そうだった。
実践経験も無く、怖かっただろうに、よく1人きりで戦って、自分の身を守ってくれたものだと思う。
今まで、騎士をアンネに近づかないようにしていたのが失敗した。
騎士は、みんなアンネを見るとその美しさに目を奪われる。
アンネは美しすぎるのだ。
だから、アンネが騎士に近づかないように、騎士もアンネに近づかないように仕向けていた。
でも、アンネが狙われてると分かれば、これからは騎士にアンネの護衛も頼まなければいけない。
今回はアンネが1人で勝てたけど、次も死なないとは限らない。
アンネの死は絶対に回避しなければいけない。
ロランがアンネに心を奪われているのは一目瞭然で、近づけたくは無かったが、アンネの命のために、アンネの騎士になりたいと言う申し出を了承した。
ロランは騎士団で一番優秀な男で、必ずアンネを守ってくれるだろう。
「アンネが暗殺者に襲われた」とジネットに話すと「売春婦は死にましたの?」と嬉しそうに言われた。
死んでいない事を伝えると「まあ、死にませんでしたの。しぶといのですね。死ねば良かったのに。」と残念そうにする。
頭に来て、アンネを殺そうとしたのか聞くと
「私はそんな事はしませんわ。私を疑うのですか?酷い!証拠もなく人を疑うなどおかしいです。私を疑うのであれば証拠を持って来てください!」
と自信満々に言われた。
暗殺者は全員自死していて、証拠が出てこないのが悔しかった。
暗殺者に襲われた3日後、今度はアンネが毒を盛られて倒れた。
そして、3日間目覚める事がなく、アンネは助からないかもしれないと聞いて、生きた心地がしなかった。
私はまたもやアンネを守れなかった。
毒味をさせていなかった私の落ち度だ。
アンネの目が覚めた時は嬉しすぎて泣いてしまった。
ジネットを問いただそうとしたが、馬車を襲撃された時と全く同じで、関わった人間は全員自死していて、ジネットからの指示だと言う証拠が出てこない。
父に今回の事を話したが、「ジネット嬢は疑わしいが証拠がない。証拠も無しに王太子妃に罪にとう事はできない」と言われた。
「私はもうジネット嬢を抱くことな無い」
「子供もいらない」
と父に宣言をして、アンネとの関係を誰にも邪魔されない権力をつけようと心に決めた。
アンネがリハビリを頑張っている甲斐があって、アンネは予想よりも早く回復して行った。
ロランがリハビリ中によろめいたアンネに触れるのが許せなくて、アンネのリハビリを手伝った。
そばにいる騎士にも嫉妬してしまう事を、アンネに伝えると「私が愛しているのはリオ様です。」とアンネが言ってくれた。
「シルヴァンは…」
気がつけばシルヴァンの名前を口にしていた。
シルヴァンの事はもう愛していない、リオネルだけの事を愛してるという言葉を期待して、咄嗟にシルヴァンの名前を口にしてしまっていたのだ。
アンネが驚きながらも、困ったような、切なそうな顔をする。
その顔を見た瞬間に、激しく後悔した。
今でもアンネはシルヴァンを愛しているのだと、訴えられてるような気分になって落ち込んだ。
なぜ、シルヴァンの名前など口にしてしまったのだろう。
アンネが私を愛してくれている、それだけで良かったはずなのに。
いや、本当は私以外の男の事など愛さないで欲しい。
アンネは今もシルヴァンに会いたいのだろうか。
聞くのは怖くて、聞けない。
アンネとの結婚式は、幸せだった。
ジネットとの結婚式は拷問だったが、花嫁が変わるとこうも違うのだと驚くほどに。
アンネは凄く美しくて、見惚れてしまう。
皆が見惚れているから、隠したくなってしまうけれど、自慢したいとも思ってしまう。
他国の王族から
「アンネリーナ妃殿下は我が国の言葉をとても流暢に話し、博識なので驚きました。それに天使のように美しい。ジネット妃殿下は言葉も話せないし、教養もありませんでしたので、アンネリーナ妃殿下が正妃では無いのが不思議なくらいです。」
と言われて、私の方が不思議に思ってると、思わず言いそうになってしまった。
ジネットは披露宴でもアンネを売春婦と大声で話して、私は慌てて控室にジネットを連れて行った。
その場にいた者はみな、ジネットをキチガイだと思うだろう。
実際にキチガイなのだが。
控室に着くと
「リオネル様は私と2人っきりになりたかったのですね。こんなところでだなんて、恥ずかしい。最近はあの売春婦が寝たきりで、離してもらえなかったのでしょう。お可哀想なリオネル様。でも、売春婦が勝手に倒れようが放っておけば良かったのに。」
と、また喋り始めて、眩暈がする。
「挨拶をしなければいけないから」
と逃げようとしても、「私もご一緒します。」とくっついて離れない。
香水の匂いはきついし、触れられてると思うと気持ちが悪くて仕方がない。
仕方がないのでジネットと一緒に披露宴会場の父のところへ行く。
先程の騒ぎを見ていた父は、ジネットを連れ立って近寄ってくる私に驚いて狼狽えている。
これ以上王族の恥を晒されるのではないかと慌てている様子だ。
「ジ、ジネット王太子妃は控室で休むのではなかったのか。さ、先程は随分と疲れている様子だったが。」
「まぁ!私は元気ですわ!お義父さまもリオネル様も私に控室で休むようにと、おかしな事をいいますのね。私はリオネル様と一緒に挨拶回りを致します。」
「い、いや、それは頼むからやめてくれ。今日はリオネルとアンネリーナ王太子妃の結婚式なのだぞ。アンネリーナ王太子妃とリオネルが一緒にいないと皆が不思議に思う。」
「売春婦などとリオネル様が一緒にいる必要などありませんわ。」
「その、売春婦という言葉をこの場で使うでない。ジネット王太子妃殿下は気が触れてるのかと、皆が囁き合っていたぞ。」
「まぁ、おかしいのは、あの売春婦ですわ。私は間違っておりません。」
「ジネット王太子妃を連れて行け。とてもお疲れのようだ。ゆっくり休め。これは王命だ。」
「ちょっと触らないで!何するのよ!私は王太子妃よ!あんた達全員首よ!」
父は、暴れながら遠ざかっていくジネットを眺めながら、疲れた様子で「何だあの娘は。同じ人間とは思えない。話が全く通じない。」と呟いていた。
この日の時間で、ジネット王太子妃殿下はキチガイだと、国内外に広まったのだった。
急いでアンネを探すと、ロランにエスコートされながら、シルヴァンと話しているアンネを見つけて急いで近寄る。
「私もアンネリーナ王太子妃殿下をお守りしたいのです。」
とシルヴァンが話すと、頬を赤くしながらシルヴァンを愛おしそうに見つめるアンネの横顔が見えてしまった。
やはり、アンネはまだシルヴァンを愛している。
シルヴァンもアンネを愛しているのだと、思い知らされる。
胸が痛い。
「アンネの護衛は第三騎士団に任せている。シルヴァン。」
自分でも低い声が出てしまったと思った。
「出過ぎた事を申しました。申し訳ございません、リオネル王太子殿下。」
「お戻りになりましたのですね。リオネル王太子殿下。」
それからは幸せな時だった。
アンネと結婚できた事が何よりも嬉しい。




