19.暗殺未遂
ジネット様とリオ様が結婚をして、2週間が経ち、私は2年生になったので学園へ通学していた。
ジネット様からつけられた傷も、ほとんど良くなった。
ジネット様に王太子妃の部屋をお返しすると、リオ様まで私の部屋で暮らすようになった。
毎晩ジネット様を抱いたリオ様は、私の部屋を訪れて、私を抱いて、私と一緒に寝る。
ジネット様には自室で寝ると言って、自室に戻って沐浴をしてから、こちらに来ているらしい。
結婚式当日のようにジネット様の香水の匂いをまとって来るわけではないけれど、毎晩ジネット様を抱いているのだと思うと嫉妬してしまいそうになる。
ジネット様はリオ様との子供ができるのに、私は子供ができないように薬を飲んでいるので、子供ができない。
ジネット様とリオ様の間に子供ができるのが辛い。
私とリオ様は毎晩激しくお互いを求めた。
ジネット様の事を忘れるように。
「愛してる、アンネ。」
リオ様は毎日数えきれないほど愛を囁いてくれる。
「私が愛するのはアンネだけだ。」
心が満たされる。
学園ではシルヴァン様、トリスタンお兄様に会えなくなってしまったのが寂しい。
生徒会のメンバーも、シルヴァン様、リオ様、トリスタンお兄様がいなくなり、新しい人が増えた。
ジネット嬢が学園を卒業して、私をずっと慕ってくれていたご令嬢達が、またたくさん話しかけてくれるようになったのがらしかった。
お友達と話せるようになると、学園が一気に楽しいものへと変わった。
「アンネリーナ様、いじめられてる時は助けることができずに、本当にすみませんでした。」
「謝らないでください。いじめられないよう距離を置くようにお願いしたのは、私なのですから。」
「ですが」
「もうこの話はお終いにしましょう。それよりも私は、またみんなとお話ができるようになって嬉しいのです。私を庇わないようにお願いした時に、私の事を大切な友人だと言ってくれた事が、何よりも嬉しいのです。」
以前から生徒会に入りたがっていた、ウォロッペ伯爵家次男のモルガン様も会計として生徒会に入った。
私は副生徒会長になり、慌ただしく過ごしている。
モルガン様は、相変わらず私をライバル視しているのか、よく話しかけてくるけれど、仕事は率先してしてくれるので助かっていた。
学園からの帰り道、馬車がいつもと違う道を通っていることに気がつき、御者に声をかける。
「あの、いつもと道が違いますよね。どこに向かっているのですか?」
「止めてください」
と言っても、馬車は走り続ける。
そして、突然馬車が止まった。
「悪いが命令なんですよ。」
「え?」
と思うと馬車が止まり、周りを囲まれていることに気がつく。
「アンネリーナ嬢、あなたにはここで死んでもらう。」
周りはみんな敵なのだと気がつき、通学でいつも身につけている護身用の剣を握りしめる。
入ってきて私を斬りつけようと人物を斬りつけ、剣を奪い取る。
馬車の外に出ると相手は男性が10人だったが、切り掛かって来るのを避けつつ、逆に斬りつけ倒していく。
剣術は習って訓練はしていたけど、人を傷つけるのなど初めてで震えそうになる。
しかし、相手は私を殺そうと本気だ。
やらなければやられる。
私が殺そうとしてなくても、もしかしたら相手を殺してしまうかもしれないという考えが頭によぎって、その考えを否定した。
相手を殺してしまったとしても、今は生き延びる事を考えよう。
気がつけば、10人の男性が動けないようになっていた。
大量の血。
私も血まみれだ。
襲いかかってきた男性達の傷を止血しなければと思い、ハンカチを使って止血をしようとすると、また攻撃されたので止血をするのを諦めた。
すると、通りがかりの人がやってきて、驚いて私を見る。
「どうしたんだ、お嬢ちゃん。血まみれじゃ無いか。怪我は!?」
見ず知らずの私を心配してくれているのが分かり、涙が出た。
待っていな、すぐに憲兵を呼んでくる。
通りすがりの人が慌てて去っていったけれど、すぐに憲兵達と一緒に戻って来てくれた。
「お嬢さん、大丈夫ですか?…この馬車は、王家の紋章?」
憲兵が驚いている間に、10人いた私を襲った男性は全員一瞬にして自死をした。
驚いて固まる私。
人が目の前で死ぬのは初めてで、吐き気が込み上げて来て、吐いた。
憲兵に事情を聞かれて、キャペリー伯爵家長女アンネリーナである事、今は王宮に住んでいる事、貴族学園からの帰りに目の前で亡くなった男性達に殺されそうになり応戦したが、相手を殺すつもりまでは無かった、全員が自死した事に驚いている事を伝えた。
すぐに1人の憲兵が王宮へ報告へ行ってくれた。
私を見つけて憲兵を呼んでれた通りすがりの人に、お礼を言った。
憲兵に王宮へ一緒に戻るように言われたが、私が血まみれなのでこのままでは街に入れないと言ったら、自分の上着を脱いで私にかけてくれた。
「上着が血で汚れてしまいます。」
と断ろうとしたが、「気にしないでください。辛かったですよね。」と言われて、涙が出た。
血まみれで馬に乗るのも申し訳なく思い、「歩きます。ここはどこでしょう。」と言った。
馬車の中は血まみれで、とても乗ろうとは思えない。
「王宮へ歩いて行くには少し遠いですが、馬でならすぐですよ。私の馬に一緒に乗ってください。アンネリーナ嬢が乗っていた馬車は部下に運ばせましょう。」
「ありがとうございます。そこまでしていただいて、よろしいのですか?」
「もちろんですよ。あなたのような美しい女性を、こんな森の中で夜に1人で歩かせる訳にはいきませんからね。とは言っても、アンネリーナ嬢は驚くほどお強いのですね。たった1人で10人の暗殺者を倒してしまうなど、騎士でも滅多に出来る者はおりません。」
「剣術には多少自信がありましたが、実際に人を傷つけるのは初めてで手が震えてしまいました。今も…手の震えが止まりません。」
「それは当然でしょう。私も初めて人を切った時は手が震えたものです。ましてや、全員が目の前で自死するなど…大丈夫ですか?」
「大丈夫…では無いかもしれません。少し、休んでもいいですか?」
思い出したら、また気分が悪くなって来た。
「すみません、思い出させてしまいましたね。地面で申し訳ないですが、ここに座って少し休みましょう。ゆっくりで大丈夫ですよ。」
「重ね重ね、ありがとうございます。…あの、お名前を伺っても?」
「これは申し遅れてしまい、申し訳ございません。私も混乱していたようです。サマセット伯爵家次男、ロランと申します。第3騎士団副団長をしております。」
「まさか、騎士団副団長様とは…。無礼を働き、申し訳ございません。お若いのに、凄い出世をされていらっしゃるのですね。」
気が動転して気が付かなかったけど、凄く上質な制服を着ていて、普段だったらすぐに騎士様って気がついたはずなのに。
見た目は20歳くらいの好青年の彼が、まさか騎士団の副団長をしているだなんて思わなくて驚いた。
「お気になさらないでください。アンネリーナ嬢。名乗っていなかったのは私です。私はアンネリーナ嬢と、このように話ができて嬉しいのです。」
「ありがとうございます。私もロラン様とお話ができて、嬉しいです。ロラン様のお陰で少し気が紛れました。」
「実はアンネリーナ嬢のお名前は度々耳にしたことがあるのです。王太子殿下を護衛するのも私共の任務ですから。アンネリーナ嬢の事もお見かけする事があり、皆があなたの美しさに目を奪われています。」
「お恥ずかしい限りです。学園では…よく売春婦と呼ばれていました。私は、ロラン様にこのように優しくしていただける人間では無いのですよ。」
「いいえ、あなたは美しいだけでなく聡明な女性です。ですが、命を狙われて怖かったでしょう。無理はなさらないでください。」
「ありがとうございます。もう動けます。でも、また気分が悪くなったら、お言葉に甘えて休んでもいいですか?」
「もちろんですよ。アンネリーナ嬢。むしろ、私はアンネリーナ嬢と話せる時間が増えて嬉しいくらいです。王太子殿下があなたに夢中になるのが良くわかる。貴方程に美しい女性は他にいないでしょう。」
ロラン様は立ち上がり、私に手を差し伸べてくれる。
その手を取り立ち上がり、馬に乗るように促してくれた。
私が馬に跨ると、ロラン様も馬に跨り、密着した状態になると、馬が軽く走り出した。
「アンネリーナ嬢にはこんな状況なのに申し訳ないですが、私はあなたとこうしてお話できるのが夢のようなのです。」
「え。」
「あなたをお慕いしております。アンネリーナ嬢が王宮に連れてこられた時、初めてあなたを見て一目惚れをしました。まさか今日このような形でですが、お話をさせていただく機会をいただけるとは思ってもいなかったのです。」
びっくりしてロラン様の事を見ると、想像以上に顔が近くて驚いて慌てて前を向く。
「アンネリーナ嬢がもうすぐ側妃になられることは分かっております。それでも、私はあなたを愛しています。こうしてお話することで、ますますアンネリーナ嬢に惹かれているのです。」
こんな状況なのに、後ろから抱きしめられながら愛を囁かれて、ドキドキしてしまってる自分がいる。
「私の想いを、アンネリーナ嬢に伝えられるのは今だけでした。こんな機会は2度と訪れないでしょう。とてもお辛い状況なのに、私の我儘で想いを告げてしまい申し訳ございません。気持ちに応えて欲しいなどとは言いません。私の想いを知っていただきたかったのです。」
私は堪らず、またロラン様の事を見ると、ロラン様も馬の速度を少し落として私を見つめる。
「謝らないでください、ロラン様。あなたの気持ちを嬉しく思いますが、ロラン様の言う通り、私はあなたの気持ちに応えることはできません。」
「そんな顔をしないでください。アンネリーナ嬢。もともとあなたが私の気持ちになど応えられない事は分かっていたことなのです。王太子殿下は心からアンネリーナ嬢を愛していて、他の男を近づける事は無い。ただ、今このようにあなたといられる時が、私にとっては夢のようなひと時なのです。」
顔が赤くなってしまい、じっと見つめられてるのも恥ずかしくて、前を向く。
気がつけば手の震えがおさまっていたが、自分の手が血で汚れている事に気がつき、また震えて来て、涙が出て来た。
「怖かったですよね。アンネリーナ嬢。私はあなたを守りたいです。」
「ありがとうございます。でも、こうして今私とお話ししてくださった事だけで、とても嬉しいです。先ほど私は、どうしたらいいのか途方に暮れていました。ロラン様が来てくれて良かったです。」
「アンネリーナ嬢に今日出会えたことは、私にとっては人生で一番の幸運でした。もうすぐ森を抜けますよ。」
とロラン様が言った時に、馬の蹄が聞こえて来た。
先程、王宮に使いに行った騎士様が戻って来たと思ったら、その後ろに同じように馬に乗ったリオ様が続いていて驚いた。
騎士様から私が襲われたと聞いて、馬を飛ばして駆けつけてくれたのだと分かって嬉しくなる。
「アンネ!」
「リオ様!」
「あぁ、アンネ無事なのか!?」
私達は馬から降りて駆け寄る。
すぐに私を抱きしめるリオ様。
「汚れてしまいます、リオ様。」
「そんなこと構うものか。」
私の無事を確かめるために体を離して、上に羽織っていた騎士様の上着を取られる。
「大丈夫だったか?アンネ。血まみれでは無いか。怪我はしていないか。」
すごく心配されているのが伝わって来る。
「ありがとうございます。全て返り血なので、怪我はありません。」
私は今まであった事を話すると、リオ様は青ざめていた。
「よく、無事でいてくれた。本当にありがとう。感謝してもしきれない。全ては私のせいだ。私がアンネを守れなかったから。アンネを守れるだけの力が欲しい。アンネを殺そうとした事、絶対に許さない。」
「リオ様のせいではありませんよ。それに、私は無事です。」
「アンネで無かったら、10人の暗殺者に囲まれて戦ったら死んでいたであろう。それに、全員が目の前で自死したのは辛かっただろう。」
「リオ様。。」
涙が出て、強く抱きしめられた。
「一刻も早く、暗殺者の血など洗わなければな。私の馬に乗れ、王宮へ向かおう。」
「ロラン、アンネリーナには護衛が必要だ。これからは騎士団でアンネリーナを守れ。」
「はっ、かしこまりました。アンネリーナ嬢をお守りする光栄をいただきましたこと、感謝いたします。この剣に誓って、必ずやアンネリーナ嬢をお守り致しましょう。」
「今回の暗殺未遂、犯人への証拠を徹底的に集めろ。」
リオ様と一緒に王宮へ帰ると、部屋に着くなりすぐにリオ様に服を脱がされて、湯船に浸からされた。
2人で湯浴みするのは2度目だ。
震える体を抱きしめられる。
「アンネ辛かったよな。私がアンネを守りたかった。本当にすまない。ただ、怪我だけが無くて良かった。」
「私は…目の前で全員が自死してしまった事が一番辛いのです。本当に一瞬のことでした。彼らはなぜあんな事をしてしまったのでしょう。人が目の前で死ぬのを見るのは、とても辛いです。」
「暗殺者達に指示した犯人への証拠を出さないようにするためだろうな。計画を実行したら全員自死するように言われていたのだろう。指示した人間は本当に腐った人間だ。暗殺者も指示した人間も、アンネを殺そうとするなど許せない。徹底的に証拠を調べ上げさせる。」
「ありがとうございます。私もこんな事をさせるなど指示した人間が許せません。人の命を何とも思っていないのでしょう。また誰かが被害に遭ってしまったら困ります。」
「アンネは優しいのだな。そんなアンネを私は愛している。」
湯浴みをしてすっかり綺麗になったのに、大量の血がまだ自分についているかのように錯覚をしてしまい、なかなか震えはおさまってくれなかった。
そんな私をリオ様が辛そうな表情で見つめる。
「アンネ、今日はゆっくり休め。」
ベッドの上で私を抱きしめてくれるリオ様。
「今日はジネット王太子妃殿下のもとへ行かれなくてよろしいのですか?」
「こんな状況で震えるアンネを置いて、ジネットのもとへ行くわけが無かろう。本当に、アンネが無事で良かった。アンネが暗殺者に襲われたと聞き、無事な姿をこの目で見るまで生きた心地がしなかった。」
「ご心配をおかけして、すみませんでした。」
「アンネが謝る事は何もない。アンネを護衛させていなかった私の落ち度だ。本当に申し訳ない。」
「いいえ、リオ様が私を大切にしてくださっている事、私が一番よく分かっております。今も、一緒にいてくださりありがとうございます。」
「私がいる事で、少しでもアンネの気が休まれば良いのだがな。おやすみ、アンネ。愛してる。ゆっくり休め。」
「リオ様がいてくださるから、安心して眠れそうです。ありがとうございます。今日は疲れてしまい、眠くなってまいりました。おやすみなさいませ、リオ様。私も愛しております。」




