16.ジネット嬢との対話 王太子殿下
アンネの事を考えると緩む頬を抑えながら、政務をしていると、侍女が慌てた様子でやって来た。
「政務中、失礼致します。王太子殿下。」
「良い。何があった?」
「アンネリーナ様が、傷だらけになってしまい、医師に診せております。」
「…は?」
意味がわからない。
「アンネリーナ嬢のところへ行く。」
政務などしていられない。
侍女の話も聞かずに急いでアンネリーナ嬢のもとへ向かおうとすると、「アンネリーナ様はこちらでございます。」となぜか客間に案内された。
傷ついたアンネの姿を見たら血の気が引いた。
医師から説明を聞いて、ジネットに対する怒りが込み上げてくる。
王太子妃だからと抵抗しないように命令して、アンネを傷だらけにするなど許せない。
王太子妃の部屋に行くと、今まで使っていた家具が運び出されているところで、ジネットが侍女達に新しい家具について注文を付けていた。
「あら、リオネル様。ごきげんよう。酷いですわ。売春婦に私の部屋を使わせていただなんて。」
ぴったりとくっついて上目遣いに見上げられて、嫌悪でどうにかなりそうだ。
「売春婦に付いてた侍女達は皆、首にしましたわ。今すぐ王宮から出て行くように命令しましたの。」
この女は何を言っているんだ。
忠誠を誓い、長年王家に仕えてくれている侍女達を勝手にクビにしただと?
この女は気に入らない人がいると全て排除してきたが、王宮でもそれをするのか。
公爵家とは違うのに。
口を開くと罵声を浴びせてしまいそうだったが耐えて、「なぜ首にした。」と言った。
「侍女達は、あの売春婦を庇おうとしたのですよ。許せる訳がありませんでしょう。」
「勝手に侍女を辞めさせるのは止めてくれ。」
「まあ、私も王族の一員になったのですわ。侍女を辞めさせることもできるはずですわ。むしろ、あんな侍女達を辞めさせた事に感謝して欲しいです。」
開いた口が塞がらない。
「売春婦にも王宮から出て行くように命じたのに、王命で出来ないと言ったのですよ。本当に売春婦は面の皮が厚いわ。」
面の皮が厚いのはお前だろう。と心の中で言う。
「リオネル様、早くあの売春婦を追い出してくださいませ。あんな売春婦など相手にせずとも、これからは私がお側にいますわ。」
胸を押し付けられて気分が悪い。
「そういえばリオネル様は、なぜこちらに?今は政務の時間のはずですよね。…仕事も手につかない程、私に会いたかったのですね。昨夜は私を激しく求められて嬉しかったですわ。」
キスをされそうになり、反射的に避けてしまった。
無理だ。
義務だと思って耐えようと思ったけど、無理だ。
ジネットはいつも一方的に話してくるが、どうしてこんなに自信満々なのだろうか。
今までは、アンネを庇う程にアンネが更にいじめられる悪循環だった。
アンネをこの女から庇うこともできない。
抑えきれない程の怒りをなんとか耐えて、ジネットとの離縁を父に懇願することにした。
ジネットがここまで横暴なら、父も流石に思い直すだろう。
「リオネル様?」
「すまない、今は顔を見に来ただけなのだ。これ以上は(怒りが)我慢できなくなる。」
「まぁ。私はよろしいのですよ。」
ジネットが顔を赤らめるが、全てが忌々しい。
「いや、政務が途中なのに抜け出して来てしまったのだ。すぐに戻らなければ。」
「それは残念ですわ。そういえば、私達の寝室のベッドですが、あれも新しく買ったベッドにしますわね。売春婦が使ったと思うと全てが穢らわしいですもの。」
「分かった。」
私としてもアンネと数えきれないほど愛し合ったベッドを、ジネットに汚されるのなど嫌だからすぐに了承した。
「私、リオネル様にも怒っておりますのよ。私と言うものがありながら、売春婦などをそばに置いたこと。これからは私だけにしてくださいませね。」
歴代で側妃を娶らなかった王など存在しない。
我が国の王族は一夫多妻制だ。
それなのに、私を責めるジネットの王妃教育はどうなっているのだろうと思ったが、ジネットが勉強などしない人間である事をすぐに思い出した。
自分は偉いのだから勉強などする必要は無いと言っているのを、今まで呆れて聞いていた。
勉強させようとする人間がいたら自分で排除していたので、今まで何かを学んだ事も無いだろう。
着飾って高価な物に囲まれて満足してる女だ。
アンネを正妃にする事ができたのなら、決して側妃など娶らないのに。
「すまぬが、もう行かなければいけないのだ。」
「そんなこと言って逃げるのです?売春婦をそばに置いた事を、謝ってください。そして、すぐにあの売春婦を追い出すって言ってください。」
これ以上ここにいたら、怒りを抑えられなくなりそうだ。
「この国の王族は一夫多妻制なのだ。それを知っていて、王家に嫁いだのでは無いか?悪いが、私はもう戻らなければ行かない。」
ジネットの制止を無視して、強引に部屋を出た。
つい先程までの幸福感が嘘のように、最悪の気分だ。
傷だらけのアンネを思い出すと胸が痛む。
アンネを守りたいと強く思う。
父に会う為に、急いで先触れを出した。




