10.鳥籠
リオネル王太子殿下と無理矢理結ばれた翌朝、私は泣き腫らした目をしていた。
こんな、姿で学園に行かないと思い、目元を水で濡らしたタオルで冷やす。
気を抜くとすぐに涙が出てくる。
授業はいつも通りに受けて、生徒会室に向かった。
生徒会室に行くのは気が重いけれど、仕事だ。
緊張しながら生徒会室に入るとリオネル王太子殿下と目が合って、思わず逃げ出したくなった。
次に、シルヴァン様と目が合って、私は涙が我慢できなくなり、泣き始めてしまった。
驚きながら私に駆け寄るシルヴァン様。
「どうしましたか、アンネリーナ嬢。」
私を本当に心配してくださっているのが分かり、心が苦しい。
「申し訳ございません、シルヴァン様。」
「なぜ謝るのです。何があったのか話してくれませんか。」
「私…シルヴァン様と結婚できません。申し訳ございません。」
「…突然何を言っているのですか。私はアンネリーナ嬢を愛しています。私の妻になるのはアンネリーナ嬢以外いません。もう私の事は愛していないと言うのですか?」
「…いいえ、愛しています、シルヴァン様。それでも、私はシルヴァン様の妻になる資格が無いのです。」
「それはどう言う…」
「ここから先は私が話そう。」
リオネル王太子殿下が、シルヴァン様に昨日の事を話をした。
「嫌がるアンネリーナ嬢に無理矢理手を出した…と言う事ですか?」
シルヴァン様が凄く怒ってるのが伝わってくる。
「そうだ。私はアンネリーナ嬢を側妃にする。」
「…何を言って…」
「これは王と私で決めた決定事項だ。…すまない。アンネリーナ嬢にも、シルヴァンにも心から申し訳ないと思っている。それでも、私は何としてでもアンネリーナ嬢が欲しい。彼女を愛している。」
涙が止まらない。
「申し訳ございません。シルヴァン様。」
「謝らないでください、アンネリーナ嬢。あなたは悪くありません。一番辛いのはあなたのはずです。」
「リオネル様、アンネリーナ嬢を本当に愛しているのであれば、彼女の事を諦めるべきです。私とアンネリーナ嬢はお互いに愛していて、結婚する事を望んでいます。私なら必ずアンネリーナ嬢を幸せにします。一度の過ちなど、無かった事にしましょう。アンネリーナ嬢、私は何があってもあなたを愛しています。」
私はシルヴァン様の真摯な眼差しが、優しさが、私の事を愛してると言ってくれる事が嬉しかった。
シルヴァン様の手を取りたい。
涙が止まらない。
「リオネル王太子殿下、私はシルヴァン様を愛しております。私を愛していると言うのであれば、どうか昨日の事は一度の過ちと捨て置いてください。」
「すまないが、それはできない。私はアンネリーナ嬢を何としてでも手に入れる。アンネリーナ嬢が手に入るのであれば、次期国王の座も兄に譲ると言ったが、父に許されなかった。」
「アンネリーナ嬢の気持ちは考えないのですか?」
「アンネリーナ嬢に振り向いてもらえるように努力をする。」
「無理に側妃にされて、アンネリーナ嬢が幸せになれるとは思いません。彼女の望む未来も得られないでしょう。アンネリーナ嬢を王宮に閉じ込めるのですか?」
「アンネリーナ嬢を閉じ込めてでも、私はアンネリーナ嬢を手に入れる。アンネリーナ嬢以外何もいらない。」
「私もですよ、リオネル様。私もアンネリーナ嬢以外何もいりません。リオネル様はジネット嬢を正妃にされるのですから、彼女との幸せを考えるべきです。」
「シルヴァンは、あんな性格の醜いだけの女を愛せるのか。」
普段は優しいリオネル王太子殿下が、驚くほど辛辣な言葉を口にする。
「それは。。」
「あんな女を正妃にしなければいけないなど、本当に忌々しい。父は私にあの女との間に王子をもうけるように言っている。あの女を正妃にしてからアンネリーナ嬢嬢を側妃に、あの女との間に王子が産まれるまではアンネリーナ嬢との間に子供を作るなとご命令だ。それまではアンネリーナ嬢には子供ができないように薬を飲んだもらう事になる。」
「なんて事を。。アンネリーナ嬢の気持ちをよくここまで無視できますね。」
「これは王命で、決定だ。ジネット嬢との間に第一王子をもうけなければ、国が揺れる。スタンリー公爵家の権力は強大だ。アンネリーナ嬢、私は生涯あなただけを愛すと誓う。私の妃になってくれ。」
跪いて私の手を取り、手の甲にキスをするリオネル王太子殿下。
その恐ろしいほどの美貌を見て、私は震え上がった。
王命である以上、私には拒否する事ができない。
何も言う事ができず、リオネル王太子殿下を見つめていた。
その日のうちに私の住まいは学園の寮から王宮に強制的に移された。
まだ16歳になったばかりで、17歳になったらするデビュタントもしていないので、王城を訪れるのは初めての経験で緊張した。
リオネル王太子殿下に連れられて、国王、王妃陛下に初めてお会いすると、お二人から謝られて恐縮した。
「頭をお上げくださいませ。不束者ですが、よろしくお願いいたします。」
「いや、アンネリーナ嬢は優秀だと聞いている。そなたの望まぬ事だとは分かっているが、息子をよろしく頼む。」
夕食の際に、「この薬を毎日お飲みください。これを飲んでいる間は子供ができなくなります。」と侍女から渡されて、飲んだ。
案内された部屋は王太子妃の部屋で驚いた。
「これからはここがアンネリーナの部屋だよ。ここの扉は私たちの寝室に繋がっている。」
「リオネル王太子殿下、こちらの部屋は、もしや…」
「王太子妃の部屋だ。アンネリーナは私の妃になるのだから、問題無いだろう。」
「問題ありますよ!まだ私は妃ではありません。それに、もしも使うとしても正妃になられるジネット様がご使用になられます。」
「あの女にこの部屋を使わせるわけが無いだろう。想像しただけで虫酸が走る。」
ソファに座るように促され、手を握られる。
「アンネと呼んでもいいだろうか。」
「…はい。」
「私の事はリオと呼んで欲しい。」
「いえ、恐れ多いです。」
「私が呼んで欲しいのだ。お願いだから、リオと呼んで。」
「…リオ様。」
「嬉しい。」
リオ様は嬉しそうに微笑んで、私を抱きしめる。
私はシルヴァン様の笑顔を思い出して、また涙が出てきた。
「アンネがシルヴァンを愛しているのは分かっている。それでも、アンネを愛する事をやめられない私を、許してくれ。」
急にお姫様抱っこをされたと思ったら、寝室のベッドに運ばれた。
びっくりして、身体が強張る。
「昨日はすまなかった。そして、今日もすまない。私はアンネが欲しい。今日は…優しくする。」
優しくキスをされて、涙が出てくる。
「愛してる、アンネ。」
昨日の事が嘘のように、リオ様は私に優しくて、自分の身体なのに自分の身体じゃないような感覚になり、嫌なのに、恥ずかしい気持ちも強かった。
「んっ。あっ。いや、見ないでください。ふぅ、恥ずかしい…です。」
「嫌だ、ずっと見ていたい。私でもっと気持ちよくなってくれ。全てがかわいくて、愛おしい。アンネ。」
「んっ、あぁ、リオ様。。」
私達は何度も愛し合って、目が覚めると朝になっていた。
リオ様が私を抱きしめながら、眠っている。
美しい寝顔に魅入っていると、起きたリオ様と目が合って慌てた。
私もリオ様も裸で、昨日の事を思い出すととても恥ずかしくて真っ赤になった。
「おはよう、アンネ。なんて幸せな朝なんだ。」
リオ様が私にキスをする。
何度もキスをしている間に、手で私の体を触り始める。
「あぁ、ダメだ。アンネといると、いくらでも抱いていたくなる。今まで私は自分のことを淡白な人間だと思っていたのに、全然違っていたんだな。」
熱を帯びた瞳で私の事を見つめるリオ様。
私も同じような顔をしているかもしれない。
シルヴァン様を愛しているはずなのに、リオ様を求める身体が恨めしい。
朝から私達は愛し合い、もっとと求めるリオ様を「学園に行かなければいけません。」と言って止めた。
王宮に移り住んだことにより、妃教育もスタートしたが、先生達は私が優秀なので教えられる事が少ないですと言ってくれて、嬉しく感じた。
リオネル王太子殿下と一緒の馬車に乗り学園へ行くと、みんなの視線が痛かった。
「リオネル様、どういうことですの?なぜ、そこの淫乱女などと一緒に登校しておりますの?私という婚約者がおりますのに。」
「淫乱女では無くてアンネリーナ嬢だ。私はアンネリーナ嬢を側妃にする事を決めた。王もスタンリー公爵も了承している事である。」
「正妃である私が聞いていませんわ!あんた、リオネル様に何したのよ!この売春婦!」
叩かれそうになって避けると、
「なんてお可哀想なジネット様。」
と取り巻き達がジネット様に駆け寄る。
「アンネリーナ嬢を側妃にと望んだのは私自身だ。アンネリーナ嬢の希望では無い。アンネリーナ嬢を売春婦などと呼ぶな。」
「ひどい!リオネル様はあの売春婦に騙されているのですわ!」
リオネル王太子殿下は人目も気にせずに私を愛でるようになり、いじめは更にひどくなった。
「なんてお可哀想なジネット様。」
「アンネリーナ嬢は身体を売って王太子殿下に取り入るだなんて、なんて恥知らずなのかしら。」
「まさか貴族学園に娼婦が紛れ込んでいるだなんて思いもしませんでしたわ。」
私に聞こえるように、ジネット様とジネット様の取り巻きが話をする。
私にはリオ様を止めることも、嫌がらせを止めることもできない。
王宮でも、学園でも辛くて、逃げ出したくても、逃げ出せない鳥籠にいるようだ。
ただ唯一、リオ様とお兄様、シルヴァン様だけが優しくしてくれる。
シルヴァン様が私を庇ってくれても
「まぁ、シルヴァン様も、その売春婦に身体を売られましたの?」
「お可哀想なシルヴァン様。」
「売春婦はかっこいい男となると、見境がないのですね。」
と言われるだけだった。
シルヴァン様が否定すればする程、逆効果なくらいで、私は売春婦と皆から呼ばれるようになった。
逃げたいと強く思う。
毎日リオ様に抱かれて、嫌なのに、好きでもないのにリオ様を求めてしまう自分に、みんなが言う通り自分は売春婦のようだと思った。
トリスタンお兄様は、「アンネを守ってやれなくて、すまない。」と泣いていた。
トリスタンお兄様が泣いてる姿など見たのは初めてで、「いいえ、お兄様のせいではありません。心配してくださり、ありがとうございます。」と私も泣いた。




