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9.

「なんで!?」


王宮の玉座の間。


俺は、空中に浮かび上がる支持率89%という信じられない数字と、ホログラムデスクを埋め尽くすほどの大量の決裁書類を前に、頭を抱えてふかふかの玉座の上をゴロゴロと転げ回っていた。


意味がわからない。本当に意味がわからない。


俺はただ星民から90%以上の大ブーイングを浴びてクーデターを起こされ、星王をクビになって悠々自適なニート生活を満喫したいという一心だったのだ。


そのために、誰も攻めてこない超平和な時代に惑星防衛費という巨大な無駄遣いの名目で一律10%の増税を強行した。


普通なら、税金泥棒!暴君を引きずり下ろせ!と大暴動が起きるはずである。


それなのに、なぜか星民たちは、陛下は俺たちの生活を豊かにした上で、見えない脅威から身を挺して国を守ろうとしてくださっている!と勝手に勘違いして熱狂し、タイタン全土が空前の愛国心と防衛特需バブルに沸き返ってしまった。


その結果が、これである。


「レオ陛下。本日のマザーシステムからのランク6専用・最終決裁事案が届いております。総数、620件です。先日の10倍以上に増加しております。至急のご決裁を」


エルナがピクリとも表情を変えずに、俺の前に絶望の塔(未処理データ)をズンッと積み上げた。


「ぎゃあああああ!! 仕事がめちゃくちゃ増えてるううううっ!!」


俺は白目を剥いて叫んだ。


そう、防衛特需で経済規模が爆発的に拡大し、大規模な軍事施設の建設やら新規産業の立ち上げやらが次々と始まったせいで、マザーシステムが俺の最終承認を必要とする案件の数が、皮肉にも激増してしまったのだ。


620件の決裁なんてあまりにも重労働だ。


その日の気分で適当に承認するだけでも何時間もかかる。


これでは前世のブラック企業の社畜と何も変わらない!


俺の夢見るダラダラニート生活が、どんどん遠のいていく。


このままではまずい。一刻も早く、今度こそ確実に支持率を急落させ、クーデターを起こしてもらわなければならない。


だが、今の俺の周りには、俺が初日に任命したイエスマンの幹部たちしかいない。


俺が、国をめちゃくちゃにする悪知恵を出せと求めても、では陛下の純金製フィギュアを100億個作って星民が陛下を毎日崇めることが出来るようにしましょう!などと、アホな提案をしてくるポンコツしかいないのだ。


俺のポンコツ脳みそでは、これ以上何をすれば星民に決定的に嫌われるのか、もうさっぱり思いつかない。


「エルナ!」


俺は玉座から身を乗り出して叫んだ。


「僕の言うことを絶対に聞かない奴を一人、雇う! ここに連れてきて!」


「……陛下の御命令を聞かない者を、ですか?」


エルナはわずかに眼鏡の奥の目を瞬かせた。


「そうだよ! 僕は自分の支持率を叩き落としたいのに、ここにいる連中は僕を褒めることしかできないバカばっかりだ! だから、僕のことを心底見下してて、今の僕の政治に本気でムカついてて、支持率調査でもきっちり不支持に入れてる奴がいい!」


「……王である陛下を軽蔑し、明確に反意を持つ者ですね」


「そう! そして一番大事なのは、そいつが超優秀で、一番底辺のランク1にいることだ!」


俺はビシッと指を突きつけた。


ランク1という過酷な環境で国に恨みを抱き、王を軽蔑している頭の切れる反逆者なら、必ず、どうすればこの王と国をめちゃくちゃにできるかアイデアを思いつくはずだ!


「……御意に。至急、適任者を探索いたします」


エルナは深く一礼し、玉座の間を後にした。





数時間後。 エルナが連れてきたのは、一人の若い女性だった。


ランク1の支給品であるみすぼらしい灰色の作業着を着て、両手には機械油の染みがこびりついているが、その立ち姿には隠しきれない鋭い知性と、野獣のような警戒心が漂っていた。


無造作に束ねた黒髪の間から覗く氷のように冷たい三白眼が、玉座に座る俺を真っ直ぐに、微塵の敬意もなく射抜いている。


「陛下。ご指示通り、条件に完全合致する者を連れて参りました」


エルナが淡々と報告した。


「彼女の名はリディア。ランク1の最下層、巨大データセンターの冷却区画で清掃員をしています。過酷な環境で働きながら独学で高度なシステム設計とデータサイエンスを修め、特権階級レベルの知能テストで満点を記録していますが、ランクの壁に阻まれ底辺に縛り付けられています。当然、陛下の支持率調査でも過去一度も支持を入れたことがない、極めて反体制的な人物です」


(おおっ! 最底辺の過酷な労働者でありながら超優秀!さすがエルナ、完璧な人選だ!)


リディアは玉座の俺を見上げ、フンと鼻で笑った。


「で? タイタンの頂点に立つ偉大なる賢王様が、なんでわざわざランク1の清掃員を玉座に引っ張り出したんですか? ネットで王様の悪口を書いたから、ここで反逆罪で公開処刑でもするつもりですか?」


リディアの声には、隠しきれないトゲと軽蔑がこもっていた。 俺は玉座から飛び降り、彼女の目の前まで歩み寄って、とびきり無邪気な笑顔を作って言った。


「あのね、君にお願いがあって呼んだんだ! 単刀直入に聞くけど……君、僕のこと嫌い?」


「ええ。嫌いどころか、心底軽蔑しています。たまたま血筋が良かっただけで玉座に座ってる世間知らずのあなたも、防衛特需の好景気に踊らされてあなたを賢王だのなんだの持て囃している平和ボケした星民たちも、すべてが反吐が出るほどくだらないと思っています」


(おおお! 最高だ! 完全に俺を見下しきっている!)


「いいね、最高だよ! だからこそ、お前に聞きたいんだ! 僕は今すぐ王様を辞めたいの! 毎日毎日承認作業ばっかりで全然遊べないし! だから星民どもから死ぬほど嫌われて、支持率を10%未満まで急落させて、クーデターを起こされてクビになりたいんだよ! お前のその頭の良さで、僕が一番嫌われる最悪のアイデアを出してよ!」


俺が満面の笑みでそう告げると、リディアは完全に虚を突かれたように数秒間固まり……やがて、深く大きなため息をついた。


「……馬鹿なんですか、陛下?」


その声には、怒りというよりもはや、底なしの侮蔑が込められていた。


「自分からクーデターを起こさせるために、自分を憎む底辺の反逆者をわざわざ王宮に呼んで知恵を借りる? ……本物のバカですね。歴代最高の支持率を誇る王が裏で何を企んでいるのかと思えば、ただ仕事をしたくないから国をメチャクチャにしろと? 歴史上、こんなに情けなくて救いようのない王、見たことがないわ」


「いいよ! もっと馬鹿にして! 君のその僕を見る冷たい目、最高だよ! で、どうすればいい? どうやったら僕は星民から憎まれるの!?」


リディアはしばらく俺の顔を冷めた目でじっと見つめ……やがてその瞳の奥に、暗く冷酷な破壊衝動の光を灯した。


リディアは薄く笑い、腕を組んだ。


「……いいでしょう。人間が為政者を最も憎むのは、税金を取られた時ではありません。自分が命の次に大切にしている逃げ場を、理不尽に奪われた時です」


「逃げ場?」


「ええ。現在、タイタンの一般市民の実に95%が、巨大仮想空間メガ・ネオンをはじめとするVRエンタメにどっぷり依存しています。狭くて不自由な現実を忘れ、仮想空間で無限の娯楽を消費することで、日々の労働ストレスを発散している。いわばVRは彼らの精神安定剤です」


リディアの目が、悪魔のように細められた。


「だから、こうしなさい。マザーシステムに命じて、タイタン全土の全VRネットワークへのアクセスを、1日1時間に強制制限するんです。そして、その1時間で使う課金アイテムに500%の特別娯楽税をかける。唯一のストレスの逃げ場を完全に消滅させ、法外な税金をふっかける。現実世界で息抜きができないとわかれば、間違いなく暴徒と化し、王宮へ向けて進軍するでしょう」


(それだああああっ!!)


俺は歓喜のあまり、顔を綻ばせた。


市民から命の次に大事な逃避空間を、王のワガママで実質的に完全没収する! これなら間違いなく国家は転覆する。史上最強の愚策だ!


「最高! リディア、君って本当に天才だよ!」


俺は急いでシステムコアのコンソールを呼び出し、ルンルン気分で法案の作成ボタンを叩き始めた。


だが、実行ボタンを押そうとした俺の指が、ふと空中でピタリと止まった。


(……待てよ?)


俺のポンコツな脳みそに、一つの極めて自分勝手な懸念がよぎった。


星民どもがVRから締め出されて暇になり、怒り狂って暴動を起こすのは大歓迎だ。


だが、ゲームを取り上げられて完全に暇を持て余した10億人の暴徒が、そのままの勢いで王宮に押し寄せてきたらどうなる?


間違いなく王宮をぐるりと取り囲み、四六時中、暴君を引きずり下ろせ!と拡声器でシュプレヒコールを叫ぶに決まっている。


窓ガラスを割られたり、物を投げ込まれたりするかもしれない。


(そんなことされたら、俺の快適な昼寝が邪魔されるじゃないか!)


俺は合法的に王様をクビになって、静かで快適なニート生活を送りたいだけなのだ!


クーデターは起こしてほしいが、俺の部屋の前に怒鳴り込みに来てほしくはない。


暴動の怒りを俺に向けさせつつ、奴らを王宮の前に集めさせないためにはどうすればいい?


(そうだ! VRを取り上げて暇になった時間に、絶対に解けなくて、家で机に向かってなきゃいけないような、クソつまらない単純作業を全員に強制して、家に縛り付けてしまえばいいんだ!)


俺は前世でやっていた間違い探しに無駄に時間を溶かしてしまったことを思い出した。


超エリート特有のプライドの高さがあれば、王から出された子供じみた課題に意地になって没頭し、王宮へのデモすら後回しにするはずだ!


俺はコンソールを猛スピードで叩き、リディアの提案したVR制限に加えて、アホすぎる命令をメイン部分に書き加えた。


俺は満面の笑みで実行ボタンを力強く叩き込んだ。


「承認、ターンッ!!」


法案は、こんな内容だった。


『タイタンのシステムコアの中に、人類が移住してきた200年前からずーっと放置されてるエラーログ、ゴミデータが800兆行くらいあるらしいから、それを全員の端末にダウンロードしろ! そして、そのゴミデータを全部読んで、文字の並び方が、可愛い【星の形(☆)】になってる場所を探して、そこだけ全部消去すること! これが全部終わるまで、お前らの大好きなVRゲームへのアクセスは1日1時間に制限するし、娯楽税も500%にする!』


リディアは呆れ果てて深い溜息をついた。


「……まあ、あなたがVRという命綱を奪い、法外な税をかけた時点で彼らの怒りは頂点に達します。これでタイタンは数日中に暴動で完全に終わるのね」


リディアは冷笑を浮かべたまま玉座の間を後にした。


(ふふん、リディアには僕の天才的な作戦の意図がわかってないな! 単純作業だからこそ意地になって家で一生懸命探すんだよ! 僕はゆっくり昼寝しながらクーデターの署名が集まるのを待つだけだ!)


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