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8.

【エルナ視点】


私はエルナ。タイタンの頂点に君臨する第12代星王・レオ陛下の専属メイドにして、この王宮で誰よりも陛下を間近で見てきた者です。


あの日、わずか5歳で即位された戴冠式からのこの1ヶ月間。


私が玉座の傍らで見てきたものは、タイタンの歴史上いかなる偉大な王も成し得なかった、恐るべき政治的奇跡の連続でした。


事の発端は、戴冠式当日の最高幹部ヴァルデン一派の粛清に遡ります。


ヴァルデン様たちがタイタンの富を裏で貪る腐敗の根源であったことは、王宮の中枢にいる者なら誰もが勘付いていました。


しかし、最大の厄介事は、彼らの行う悪事、一部企業への莫大な利益誘導や中抜きが、すべてランク5の権限下において完全に合法として処理されていた点です。


制度の穴を完璧に突いた、強固な腐敗のシステムでした。


もし陛下が正義感に駆られて、お前たちのやっていることは不正だ!と正論で彼らを裁こうとすればどうなっていたか。


彼らは待ってましたとばかりに合法性を盾に取り、強大なネットワークと弁護団を駆使して法の抜け穴を突き、泥沼の権力闘争となり、法廷闘争や議会の引き延ばしに持ち込んでいたでしょう。


そうなれば行政は完全に麻痺し、タイタンは数年単位で停滞の極みに陥ります。


戴冠式の前夜。陛下は自室のベッドで一人頭を抱え、足をバタバタさせて悶え苦しんでおられました。


私はそれを、いかにして血を流さず、国政を止めずにこの合法の悪を崩すべきか、という王としての深い苦悩だと拝察しておりました。


そして当日。陛下が選んだのは、誰も予想し得ない非論理の極致でした。


『お前たち、今日からクビね。僕を真面目に働かせようとする奴はいらないの!』


正義でも法律でもない。ただ楽をしたいからという、5歳の子供の完全なるワガママ。


ですが、これこそがヴァルデン様たちの防御を完全に無効化する唯一にして最凶の刃だったのです。


星王のランク6システム権限は絶対です。


法的な手続きなど一切経ず、システムは王の命令を即座に執行します。


権力闘争に持ち込むには法的な反論の余地が必要ですが、陛下の理由はただの感情です。


ヴァルデン様たちは法的防御を展開する隙も、裁判闘争に持ち込む理由も一切与えられず、ただの理不尽な感情的権限行使によって、一瞬にしてランク1へと叩き落とされました。


合法的な悪を討つには、法や理屈を超越した絶対的な理不尽で盤面ごとひっくり返すしかない。


私はその鮮やかな手腕に、背筋が凍るほどの感銘を受けました。


しかし、陛下の采配の真髄は、その後の一連の決裁処理にこそありました。


幹部は追放しましたが、2000件の未決裁案件は残ったままです。


陛下は、面倒だとボヤきながら、驚異的なスピードでそれらを処理していきます。


まず、ヴァルデン様一派の資金洗浄の温床であった地下プラント増設計画をピンポイントで凍結し、巨額の国家予算の流出を遮断。


そして決定打となったのが、決裁権限のAIへの全面委譲案の承認です。


私は最初、これを王の威厳と権限を自ら手放す行為と危惧しました。


ですが、違ったのです。


陛下はヴァルデン様一派を追放し、彼らが独占していた莫大な国家予算を凍結しました。


しかし、その凍結資金を王宮の人間の裁量で再分配しようとすれば、必ず第二のヴァルデンを生み出します。


そこで陛下は、決裁権限を忖度も私欲も持たない完全自律AIに委譲したのです。


結果、どうなったか。


AIは、凍結された天文学的な額の不正資金をシステム上で検知すると、それを最もタイタンの発展に必要な場所――すなわち、長年放置されていたランク1下層居住区のインフラ更新や、新規産業の立ち上げへと、自動的かつ最適に一斉投資し始めました。


人間の欲を一切介入させず、血税を社会の末端まで一気に循環させる完璧なシステム。


陛下は最初から、この巨大な富の自動再分配を見越して、AIへの権限委譲を承認されたのです!


資金の大胆な投資により、タイタンの景気は爆発的に上向き、陛下の支持率はわずか1ヶ月で歴代最高の82%を記録しました。


……しかし。 先日、玉座の間で私がその支持率をご報告した際、陛下は「なんでそんなに高いんだよ! 星民ってバカなのか!?」と激しく取り乱し、頭を抱えて絶叫されました。


普通であれば、高支持率を喜ぶところです。


ですが私は、陛下のそのお姿を見てハッといたしました。


現在、タイタンの官邸中枢だけが把握している極秘情報があります。


タイタンの深宇宙観測アレイが太陽系外の知的生命体からの謎の信号を実際に受信しているという事実です。


しかもその情報がアンダーグラウンドのネットワークに漏洩し、星民の間に不穏な噂となって広まりつつありました。


ただ、その信号の発信源が本当に攻撃的なのかどうかは、現時点では不明なのです。


我々官邸の人間は連日頭を悩ませていました。


陛下は、未知の脅威が迫っているのに目先の好景気に浮かれる星民の平和ボケと、保身に走って決断から逃げ続ける大人たちに苛立っておられたのです!


そんな中、陛下は、星王が合法的に交代するクーデターの条件を私に尋ねられました。


私が全星民の90%以上の不支持と答えた瞬間、陛下の目に強烈な決意の光が宿ったのです。


「基本税率を一律10%引き上げる。用途は防衛費だ! 存在もしない敵に備えて、巨大要塞を建てまくるんだ!」


私は息を呑みました。


未知の脅威に対し、バッサリと舵を切る圧倒的な決断力。


官僚たちが恐れていた不確かな脅威を、陛下は暴君の無駄遣いという形をとって強行突破しようとされたのです。


宇宙人が来るかもしれないから防衛増税すると、正直に発表すれば、星民はパニックを起こし、市場は混乱します。


しかし、王が自分の安心のために巨大な兵器を欲しがっているということにすれば、星民は宇宙人に怯えることなく、ただ愚かな王に怒りを向けるだけで済みます。


陛下は、あえてクーデターで玉座を引きずり下ろされる危機すら辞さない覚悟で、すべての政治的責任と憎悪をご自身一人で被り、強引に国を守る盾を作ろうとされたのです!


ですが、なぜ10%の増税なのでしょうか?


ヴァルデンたちから没収した巨額の不正資金を、そのまま防衛費に回せば済む話ではないのでしょうか?


……そこまで考え至った瞬間、私は陛下の描いた恐るべきマクロ経済の全貌に気づき、全身に鳥肌が立ちました。


不正資金を直接防衛費に回せば、それは一過性の予算で終わります。


いずれ資金は枯渇し、国防はジリ貧になる。


だから陛下は、没収した資金を、まずAIによるインフラと新産業投資に全額投入されたのです。


これによりタイタンの景気を爆発させ、経済のパイを拡大し、市民の所得を根本から大きく底上げする。


その資金投入で景気が爆発し、市民が十分に潤ったタイミングを見計らって、10%の増税を行う。


こうすれば、市民は稼ぎが劇的に増えた上での10%を払うため、結果的に以前よりも裕福な生活水準を維持でき、ダメージを受けません。


一方で国家側は、爆発的に拡大した経済規模に対する10%の税収を得ることになるため、当初の不正資金をそのまま防衛費に回すよりも、遥かに天文学的な額の持続的で巨大な防衛費を半永久的に確保できるのです!


内政投資による経済の活性化の果実を、痛みを伴わずに国防の盾へと変換する。


これこそが、すべてを計算し尽くした陛下の神算鬼謀の全貌でした。


結果的に、アンダーグラウンドの噂と、絶好調の経済が見事に合致し、星民たちは陛下の真意に深く感銘を受けました。


タイタン全土がかつてない防衛特需の熱狂に包まれることになったのです。


今、玉座の上で陛下は、システムから報告される支持率89%への上昇という信じられない数値を見て、「なんで防衛費に無駄遣いしてるのに支持率が上がるの!?」と頭を抱えて絶叫しておられます。


私は、部屋の片隅で静かに一礼しました。


国家百年の計を隠し持ち、我々凡人には到底及びつかない高みから盤面を支配する、底知れぬ幼き星王陛下。


あなたがどれほどご自身を無能な暴君と貶めようとなさっても、あなたのその神がかった采配がもたらす結果が、あなたを放してはくれません。


このエルナ、生涯をかけて、あなた様の底知れぬ智謀が導くタイタンの未来を見届けさせていただきます。


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