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6.

あの大規模なクビ切り祭りを決行した日から、1ヶ月が経った。


俺は玉座の間で、深いため息をつきながらホログラムパネルを睨みつけていた。


「……おかしい。こんなはずじゃなかったのに」


あの日、俺に仕事を押し付けてこようとしたヴァルデンたち幹部(ランク5と4)を全員ランク1に叩き落とした後、俺は自分の周りを徹底的に都合のいいイエスマンだけで固めた。


新しく幹部に引き上げたのは、俺が無茶を言っても、「さすがレオ陛下! 素晴らしいご決断です!」と全肯定してくれる連中ばかりだ。


これでもう面倒な仕事は全部こいつらに丸投げして、俺は一生ゲームをしてお菓子を食べるだけの、輝かしいニート生活を送れるはずだった。


それなのに……!


「レオ陛下。本日のマザーシステムからのランク6専用・最終決裁事案が届いております。総数、60件です。ご査収ください」


俺の専属メイドにして、この王宮で一番の生真面目女・エルナが、またしても俺の前に大量のホログラム書類を積み上げてきた。


「またぁ!? 昨日も50件処理したばっかりだよ!」


「申し訳ありません。ですが、タイタンの根幹に関わるインフラ制御、他惑星との外交予算、そしてAIの基本プロトコルの改修案などは、マザーシステムの厳格な規定上、どうしても星王の直接承認がないと実行できないのです。幹部たちも、こればかりは陛下の御心を仰ぐしかないと申しております」


「僕が星王になる前の5年間で2000件だったのに、一日のペースがちがうじゃない!」


「そこはヴァルデン様方が上手く処理してらしたとしか言いようがなく…。」


「くそぉぉぉっ!!」


俺は玉座で頭を抱え、足をバタバタさせた。


イエスマンたちにいくら雑務を押し付けても、彼らは最終判断を俺にゆだねてくる。


ランク6権限でしか通せない法案はあるが、ランク5でもやり様はあるのだ。けれどイエスマンだと俺に仕事が回ってきてしまう。


毎日毎日、雪だるま式に湧いてくる。


俺はそのたびに「えーい、もう適当でいいや!」とその日の気分で、自分が少しでも楽できる方向へと乱暴にポチポチを続けている。


だが、これでは前世の社畜と何も変わらない!


来る日も来る日も書類に追われ、ハンコを押す毎日。こんなの俺が夢見たニート生活とは程遠いじゃないか!


俺は考えた。


なんで俺は働かなきゃいけないんだ?


……答えは簡単だ。俺がランク6の権限を持っているからだ!


この厄介極まりないタイタンの最高権力者という看板があるから、システムコアが俺に仕事を押し付けてくるのだ。


「ねえ、エルナ。僕のこのランク6権限、どうやったら他の人に渡せるの? ぽいって捨てるとか!」


「不可能です。ランク6権限の譲渡や放棄は、システム上、星王ご自身であっても行うことはできません。いかに絶対権力であっても、その責任を自ら手放すことは許されないのです」


エルナはピシャリと冷酷な事実を告げた。


「マジかよ……どうすればこの無限お仕事地獄から逃げられるんだ……」


俺が絶望の淵に沈みかけていた、その時だ。


「……もっとも、星王が合法的に交代するシステム上の手段が、一つだけ存在はします。まあ、レオ殿下にはまったく無関係なお話ですが」


エルナが空中のホログラム画面を整理しながら、さりげなく、まるで世間話のようにポツリと付け加えた。


「えっ!? なにそれ教えて!」


俺は玉座から身を乗り出した。


「星民投票です。もし、星王の政治に不満を持つ一般星民が蜂起し、全星民の90%以上の得票で星王の廃冠を求める決議がなされた場合、システムコアは現在の王からランク6権限を強制剥奪し、クーデターを成立させます。……もっとも、タイタンの歴史上一度も発動したことはありませんが」


俺の脳内に、雷のような閃きが走った。


(これだ!!)


俺から勝手に権限を捨てるのが無理なら、星民たちに俺を引きずり下ろさせればいいんだ!


俺の支持率を徹底的に下げて、タイタン全土で大ブーイングとクーデターを起こさせる。


そして90%の反対票を集め、星王クビ!の判決を下されるのだ!


廃冠された俺はランク6権限を失うが、腐っても前王の血を引く元・王族だ。


暗殺されるような野蛮な世界ではない。


きっと王宮の離れの豪華な部屋に軟禁され、政治に関わらなくていいポンコツとして、贅沢で不自由のない遊び放題のニート生活を一生約束されるに違いない!


(完璧な計画だ! 俺は今日から星民に嫌われるための政治を全力でやってやる!)


俺はニヤリと邪悪な笑みを浮かべ、ガバッと立ち上がった。


クーデターには90%の反対票……つまり支持率を10%未満にまで落とさなければならない。


「エルナ! ちなみに僕の今の支持率は何パーセントなの!?」


「はい。現在のレオ陛下の支持率は……【82%】と、歴代最高の数値を記録しております」


「はああ!? 82%!?」


俺は素っ頓狂な声を上げた。


「なんでそんなに高いんだよ!? 僕は初日に、ヴァルデンたち幹部を全員クビにしたんだぞ!?」


俺は目眩がした。


(あいつら、俺に仕事を押し付けてくるウザい連中だったとはいえ、間違いなく国を回す超有能なエリートたちだったんだぞ!? あんなトップ人材を自分のワガママだけで理不尽にバッサリ切り捨てるなんて、普通なら有能な部下を追い出した暴君だ!って叩かれるところだろ! なんでそれで支持率が上がるんだよ! この星の星民ってバカなのか!?)


「就任初日の、元幹部ヴァルデン一派の追放劇が、星民たちから圧倒的な支持を集めているためです」


エルナはピクリとも表情を変えずに淡々と答えた。


俺はギリッと奥歯を噛み締めた。


こんな高すぎる支持率、冗談じゃない。


俺は一刻も早く90%の不支持を集めて、クーデターを起こしてもらわなければならないのだ!


「ふざけるな……! 僕は絶対に支持率なんて下げてやる! 見てろよ、僕の力でタイタン中を大混乱に陥れて、星民全員からクーデターを起こされるような、最悪の暴君になってやる!」


「……暴君、ですか。御意に」


エルナは淡々と、いつも通り深く頭を下げた。


意味がわからない。だが文句を言っていても始まらない。


このままでは、来る日も来る日もマザーシステムから送られてくる大量の決裁書類に承認ボタンを押し続けるだけの、前世と何ら変わらない社畜王ライフが一生続いてしまう。


絶対に支持率を10%未満まで急落させ、星民たちを激怒させてクーデターを起こさせ、俺を廃冠クビにしてもらわなければならないのだ!


俺はふかふかの玉座の上であぐらをかき、前世の記憶を必死に掘り起こした。


前世である202X年の日本において、政治家の支持率が急落し、国民の怒りが爆発する一番のケースとはどういう時だったか?


不祥事? 失言? いや、相手は5歳の子供だ。俺がいくら暴言を吐こうが、まあ子供の言うことだからと甘やかされてしまう可能性が高いし、汚職などのスキャンダルは物理的にも年齢的にも不可能だ。


ならば、古今東西、いつの時代も為政者が民衆から最も憎まれ、怒りの炎に油を注ぐ最強の愚策は何か。


前世でも、これで何度も政権がひっくり返るのを見てきた。


「……税金だ」


これしかない! 意味もなく税金をドカンと上げ、星民の財布から直接、たっぷり搾り取ってやるのだ。


自分たちの生活に直結する金を理不尽に奪われることほど、人間がブチ切れる理由はない。


俺は玉座から飛び起き、部屋の隅に無表情で控えていたエルナに向かって高らかに命じた。


「エルナ! 今すぐタイタンの基本税率を、一律で『10%』引き上げる法案を作って!」


「……税率を一律で10%引き上げ、ですか」


さすがのエルナも、これにはわずかに眉をピクリと動かした。


この超AI管理社会において、いきなり10%の増税など、星民の生活を直撃する前代未聞の暴挙である。


「そうだよ! 星民たちから意味もなくたっぷり搾り取ってやるんだ!」


「システム上、法案の作成は即座に可能ですが……それほどの大規模な増税となれば、莫大な増収分を何に充てるのか、明確な用途と名目を設定する必要があります。何にご使用になられるのですか?」


用途と名目か。


「僕の毎日のおやつ代!」と言いたいところだが、国家システムがそんなふざけた名目を受理するとは思えない。


確実にシステムを通しつつ、かつ星民全員が「俺たちの血税をなんて無駄なことに使いやがるんだ!」と激怒するような、最高にアホらしい使い道……。


俺は少し考え……そして、天才的な閃きを得た。


「防衛費だ!!」


俺はビシッと指を突きつけた。


「増税した莫大なお金は全部、タイタンを守るための惑星防衛費に全額つぎ込むんだ! バカみたいにでかい大砲とか、無駄に頑丈なシールドとか、巨大要塞とか、そういうのをドーム都市の周りに作りまくるの!」


俺は内心で狂喜乱舞した。


この西暦2938年、太陽系は完全に安定している。


地球は人が住みきれないほどの過密状態で自国のことで手一杯、月は技術が頭打ちで細々とやっている。


そして最も発展している火星の超絶エリート連中も、わざわざこんな資源の少ない極寒の辺境・タイタンに攻め込んでくる理由など、太陽系のどこを探しても一つもないのだ!


地球も月も火星も、誰もタイタンを攻めようなんて微塵も考えていない。


そんな超絶平和な状況で、存在すらしない敵に怯え、民衆から搾り取った血税を防衛費という名のドブに全額捨てる!


これほど無駄で、市民をバカにした税金の使い方はない!


「平和ボケした星で、誰も攻めてこないのに超大型の防衛増税! ふははは! こんな無駄な使い方をされたら、星民どもは絶対に怒り狂うぞ!」


「……惑星防衛費の大幅増額。御意に。ただちに法案をシステムコアに提出し、可決・施行いたします」


エルナは静かに一礼し、コンソールを操作し始めた。


(完璧だ……! これで明日には、タイタン全土で、暴君レオを引きずり下ろせ!の大合唱が起きる! 俺の輝かしいニート生活はもう目の前だぜ!)


俺はふかふかの玉座の上で、勝利を確信して高笑いしていた。



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