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【タイタン市民】


俺たちの住む太陽系帝国の中枢、衛星タイタン。


この星の居住区は、どこを見渡しても分厚い強化ガラスと、寸分の狂いもなく計算されて敷き詰められた無機質なパネルで覆われた、巨大な人工のドーム都市である。


巨大な環境制御システムによって、気温や湿度、さらには空気中の微粒子に至るまでが、一年中常に完璧な数値に管理されている。


かつてのタイタンは、その機械的な完璧さゆえにひどく冷たく、無音で、どこか息苦しい世界だった。


市民たちは皆、効率と衛生だけを極端に追い求め、一日の労働が終われば自宅にそそくさと引きこもっていた。


そして、他者との関わりを避け、完全没入型空間に作られたバーチャル酒場に接続し、データ上の合成酒をすするだけの、孤独で味気ない毎日を送っていたのだ。


だが、今のタイタンの街並みは、かつての無機質さが嘘のように、信じられないほどの命の熱量で溢れかえっている。


ドーム都市の巨大な天蓋から降り注ぐ人工の夕陽が、冷たいパネルの建物を温かなオレンジ色に染め上げていく。


その柔らかい光の下で、仕事終わりの労働者たちが、道端ですれ違いざまに肩をバシッと力強く叩き合い、「お疲れさん!」と大きな声で笑い合う。


広場に立ち並ぶ無数の屋台からは、食欲を激しくそそる香ばしいスパイスと、鉄板で焼かれた肉の脂の匂いが立ち上り、もうもうと上がる白い湯気が行き交う人々の顔を温かく包み込んでいた。


狭い路地では子供たちが歓声を上げながら駆け回り、大人たちはその頭を笑いながら乱暴に撫でてやり、今日あった他愛のない出来事を身振り手振りで語り合っているのだ。


人と人が直接顔を合わせ、言葉を交わし、その体温を感じ合う。


デジタルな文字のやり取りや、ノイズのない完璧な合成音声では絶対に伝わらない、相手の荒い息遣いや、コロコロと変わる表情、そして不器用だが確かな思いやり。


五年前、絶対神帝レオ陛下が、俺たち市民にリアルな触れ合いの尊さを身をもって教えてくれて以来、タイタンの市民たちは、物理的な距離の近さこそが、心の距離を近づける唯一の方法であることを魂の底から理解していた。


誰かの温もりを直接感じることの素晴らしさを知った市民たちは、もう二度と、かつてのような孤独で味気ない生活に戻ろうとは思わなかったのだ。


夕闇が深まり、街のネオンが一つ、また一つと点灯し始めると、人々の波は自然と繁華街の中心部へと吸い込まれていく。


彼らが目指すのは、日々の疲れを癒やし、仲間との絆を確かめ合うための場所――酒場や食堂、屋台広場である。


第4居住区の裏路地にひっそりと、だが圧倒的な存在感を放って佇む老舗の大衆酒場オアシス。


その重厚な木製のスイングドアを押し開けた瞬間、むせ返るような凄まじい熱波と喧騒が、物理的な圧力となって全身を激しく打ち据えてくる。


店内は、足の踏み場もないほどの大勢の市民たちで溢れかえっていた。


熱した分厚い鉄板の上で、巨大な肉の塊がジュージューと暴力的な音を立てて焼かれ、その脂が焦げる香ばしい匂いが酒場全体に充満している。


「おい、こっちに一番冷えたビールを三つ追加だ! 早く持ってきてくれ!」


「おう! 今行くからちょっと待ってな! そこの席、詰めろ!」


分厚いガラスのジョッキ同士が、ガチン、ガチンと割れんばかりの勢いでぶつかり合う小気味よい音。


酔っ払って赤ら顔になった男たちが、誰かの失敗談に腹を抱えて笑い転げ、別のテーブルでは、若者たちが未来の夢について熱く激論を交わしている。


どこを見ても、物理的な繋がりと、生々しい感情の爆発がある。これこそが、人と人が寄り添い合う今のタイタンが誇るリアルの熱狂だった。


だが、そんな活気に満ちた酒場においても、今日は全体的にいつもより活気が無い方だった。


どちらかというと若者グループに元気が無い。


ひときわ大きな円卓を囲む若いグループ、いつもなら誰よりも騒がしいはずの彼らが、今夜は全く違う種類の熱気を放っていた。


「あーあ! マジで最悪だぜ! なんであんな最高のゲームが、いきなりサービス終了みたいになってんだよ!」


「本当だよ! 週末はギルドの仲間と徹夜でログインしようと思って、高いエナジードリンクまで箱買いしてたのに! 運営は何やってんだ! ふざけるなよな!」


若者たちが顔を真っ赤にして、テーブルにホログラム端末をバンバンと叩きつけながら口々に不満を爆発させている。


彼らが苛立っているのは、ここ最近リリースされ、瞬く間に太陽系全土で三億人ものユーザーを獲得した大人気フルダイブゲーム【アルカディア】のことだった。


「あのゲーム、マジで史上最高の神ゲーだったのに……! 地球の大自然を、信じられないくらい完璧にシミュレートしていてさ!」


「そうそう! どこまでも広がる底抜けに青い空、地平線の彼方まで波打つように続く緑の草原! 草を踏む時の土の匂いとか、頬を撫でる風の冷たさとか、本当に生きてるみたいで毎日感動してたんだぜ!」


若者たちは、タイタンの無機質なドーム都市では決して見ることのできない、失われた仮想現実の美しい景色を思い出しながら、テーブルにドンッと悔しそうに拳を叩きつけた。


「世界観だけじゃなくて、ゲームのバランスも最高に面白かったんだよ。俺なんて、仲間と毎日死に物狂いでレベリングして、ようやく最難関の『深淵の海底神殿』の最奥まで到達したんだぞ!」


「お前も同じところか、俺もだよ! 三日かけて複雑な海流のギミックを解読して、巨大な水圧で視界が歪んで息苦しくなる中をギリギリの体力でやり過ごして……ようやく最深部にいる大ボス『深海竜ディープ・リヴァイアサン』の巨大な扉の前にたどり着いたんだ!」


「昨日の夜なんて、何十回も死に戻りしながらボスのHPを残り一割まで削って、あと一撃、本当にもう一発究極魔法を撃ち込めば倒せるってところだったんだ! 倒せば伝説のレア装備が手に入る寸前だったのに!」


「それなのによ! 突如として画面が真っ赤にバグって、致命的なエラーにより次元が崩壊しましたとかいうわけのわからないメッセージが出て、問答無用で全員強制ログアウトだぜ!?」


金髪の若者が、悔しそうに自分の頭を力任せに掻きむしり、空になったジョッキをガンッとテーブルに叩きつけた。


「しかも公式フォーラムを見たら、サーバーの根幹データが全部吹き飛んで完全に復旧不可能だってよ! 俺たちが何百時間もかけて育てたキャラクターも、あと一歩だった海底ボスの討伐も、あの綺麗な景色も、全部パァだ!」


「一体どんな無能なエンジニアが管理してたら、あんな世界そのものが折り紙みたいにペラペラに折り畳まれるような大クラッシュを起こすんだよ! サーバーの保守一つまともにできねぇのか!」


「せっかく最高に楽しいゲームを見つけたと思ったのに……。おいマスター、一番強い冷たいビールのおかわり頼む!」


若者たちが運営への怒りと、情熱を注いだ大好きなゲームを奪われた喪失感でヤケ酒をあおろうとした、その時だった。


「……おいおい、お前ら。ネットの薄っぺらい掲示板の情報だけで騒ぐのは勝手だが、何も知らねぇで文句ばっかり言ってると、真実を知った時に後悔して泣き叫ぶことになるぞ?」


隣のカウンター席から、特大のジョッキを片手にフラリと立ち上がった一人の初老の男が、若者たちの輪に割り込んできた。


顔に深い傷跡のあるその男は、かつてもネットのフェイクニュースに踊らされていた若者たちを一喝し、世界の裏事情を的確に説いた、この酒場ではお馴染みの情報通の親父だった。


「なんだよ、おっさん。こっちは大好きなゲームが終わってイライラしてんだ。お前らみたいなゲームをやらない年寄りには俺たちの悔しさはわからねぇだろうが。知ったような顔で絡まないでくれよ」


若者の一人が鬱陶しそうに顔をしかめると、情報通の親父は呆れたように鼻を鳴らし、自分の使い込まれたホログラム端末を若者たちのテーブルの中央にポンと放り投げた。


「俺は情報局の下請けをやっててな。裏のニュースにはちょっとばかり耳が早いんだ。お前ら、自分がどれだけ薄氷の上を歩かされていたのかも知らずに、まだそんな能天気なことを言ってんのか?」


「え? 違うのかよ? 単に運営の技術力不足で、致命的なバグが起きてサーバーが落ちただけだろ?」


「大間違いだ。いいか、よく聞け。……お前らが絶賛してたあの美しい神ゲーの正体はな、ただの娯楽なんかじゃねぇ」


親父は声を一段と低くし、酒場の喧騒を切り裂くような凄みのある声で言い放った。


「あのゲームは、お前たち三億人の脳を物理的に破壊し、暴徒の操り人形にするための、巨大なテロの洗脳装置だったんだよ」


「……はぁっ!?」


情報通の親父の口から飛び出したあまりにも物騒な言葉に、若者たちは数秒間のぽかんとした沈黙の後、腹を抱えてゲラゲラと笑い出し、手を振って激しく否定した。


「あははは! なんだよそれ! おっさん、酒の飲みすぎだろ!」


「そうだぜ! テロの洗脳装置!?俺たち、毎日綺麗な景色を見て、レベル上げして、ギルドの仲間と海を泳いでワイワイ楽しく遊んでただけだぞ!」


「あんな圧倒的なクオリティの大自然を作れるような凄腕の技術力を持ったゲーム会社が、テロリストなわけねーだろ! んなとこで洗脳なんかされる要素がどこにあるってんだよ!」


若者たちが口々に親父を嘲笑う。


「……お前らが微塵も気づいていないなら、それは洗脳が完璧に機能していた証拠だ。笑えるのも今のうちだぜ」


親父は若者たちの嘲笑を意に介さず、手元の端末を操作し、空中に巨大なホログラムを展開した。


「その没入感そのものが罠だったんだ。お前らが美しい自然に感動し、長くゲームをプレイすればするほど、BGMの環境音の裏や、水面の光の明滅の中に巧妙に隠された信号が、お前らの脳の奥底に、神帝レオ陛下への強烈な嫌悪感と憎悪を強制的に植え付けるように仕組まれていたって噂だ」


空中に浮かび上がったのは、太陽系全域のネットワークに一斉にばら撒かれた、おぞましい洗脳プログラムのソースコードと、タイタン中枢襲撃計画書の生データだった。


一瞬だけ太陽系にリークされたが、混乱を避けるために今は閲覧制限されている情報。


「な……なんだよこれ……」


「首謀者は、五年前、レオ陛下によってタイタンの裏世界を暴かれ、ランク1へ叩き落された大罪人、元特権階級のヴァルデンとその一味だ」


親父は腕を組み、周囲を警戒するように視線を走らせながら、事の重大さを叩きつけるように語り続けた。


「奴らは隠し持っていた莫大な裏金を使って、監視の届かない火星の地下深くに極秘のサーバーを立てた。そして、三億人を洗脳してタイタンの中枢で大暴動を起こさせ、最後は暴動のクライマックスに合わせて電磁パルスを放ち、それをトリガーにお前たちの脳を焼き切るつもりだったんだ」


ホログラムに映し出された、緻密で狂気的な軍事計画書と、致死量パルス放電プロトコルという恐ろしい文字列を見て、若者たちの顔から一気に血の気が引いた。


彼らが今まで毎晩やっていたゲーム、その恐ろしさにガタガタと震え始めた。


「う、嘘だろ……? これ、マジの帝国情報局の国家機密データじゃないか……。俺たちがあんなに夢中になっていた時間が……洗脳のための時間だったって言うのか!?」


「そうだ。お前らは気づかないうちに、死の淵のギリギリに立たされていたんだよ」


親父の突きつけた真実に、若者たちは絶望的な顔を見合わせた。自分たちの努力と情熱が、すべて自分自身を操るための洗脳に向かっていたという事実が、彼らの心を激しく打ち据えた。


「だ、だけどよ! もしそんなヤバいテロ計画があったなら、どうして治安維持局や軍の精鋭部隊は、すぐにゲームを止めさせて、そのヴァルデンとかいう奴らを逮捕しなかったんだよ!」


若者の一人が、恐怖に引き攣った顔で、震える声で親父に食ってかかった。


「それが簡単じゃなかったんだ。当局……特に陛下の側近の特殊部隊は、ヴァルデン一味が火星で妙な動きをしているという情報自体はずいぶん前から掴んでいた。地下アジトの場所も完全に特定していたらしい」


「だったら、なんでさっさと突入しなかったんだよ!」


「決定的な証拠がなかったからさ。相手は元ランク5の権力者で、裏社会のボスだぞ? 奴らのメインシステムは、何重にも暗号化された軍事レベルの防壁で守られていた。だから外からのハッキングで洗脳の証拠を掴むことは物理的に不可能だったんだ」


親父は悔しそうにテーブルを叩いた。


「もし証拠もないまま、火星の施設に軍を突入てみろ、奴らは数秒でサーバーのデータを完全に隠滅できる」


「そして軍が罪のないゲーム会社を不当に弾圧し、三億人のユーザーから娯楽を奪ったと被害者ぶって、太陽系全土に帝国への不満を煽り、大暴動を誘発させるにきまってる」


「な……っ!」


「お前らだって、もし昨日、何の説明もなしに突然軍隊がゲームを強制終了させていたら、俺たちの楽しみを奪うな!って軍に反発して暴れてただろうが」


図星を突かれた若者たちは、言葉に詰まり、青ざめた顔で俯いた。


「ヴァルデンたちは、お前ら三億人のユーザーの熱狂とゲームへの依存そのものを、帝国を縛り付ける強固な盾として使っていたんだよ。だから軍も警察も、決定的な証拠がない限り手出しができない、絶望的な膠着状態に陥っていたんだ」


流出データの本物のもたらす圧倒的な恐怖と、軍隊すらも身動きが取れなかったという絶望的な状況を前に、若者たちは絶句し、顔を見合わせた。


「そんな……じ、じゃあ、どうやってあのゲームは止まったんだよ? 誰がその絶望的な状況を打破して、その鉄壁のサーバーを落としたんだ!?」


若者の震える問いかけに、情報通の親父の顔に、深い敬意と狂信的なまでの熱狂の笑みが浮かんだ。


「決まってるだろうが。軍が外から手出しできずに時間だけが過ぎるから、自分が直接中に入って、内側から物理的に破壊した。……我らが太陽系の救世主、絶対神帝レオ陛下だよ」


「「「レオ様が!?」」」


「ああ! 陛下は、お前たちの純粋な憧れが利用されていることも、すべて分かっておられた! だからこそ、単騎で、あの洗脳装置の心臓部へとダイブされたのさ!」


情報通の親父が端末を操作すると、スクリーンに一つの荒いログが流れた。


「レオ様はあの世界を内側から崩壊させた。あの崩壊のすさまじいバグのエネルギーは逆流し、ヴァルデンたちの隠していた絶対に破れないはずのファイアウォールを内側から完全に焼き切った!」


「ファイアウォールが吹き飛んだ瞬間、隠されていたテロの全計画と余罪の証拠ログが、全太陽系のネットワークに向けて一斉に自動流出されたんだよ!」


今は閲覧制限かかっちまってるがな、と親父はぼやく。


「証拠がばら撒かれたその瞬間こそが、膠着状態を打ち破り、待機していた帝国軍特殊部隊への全施設同時突入の合図だったんだ! 決定的な証拠を突きつけられたヴァルデン一味は、火星の地下で誰一人逃げる間もなく、一網打尽にされたってわけさ!」


その言葉が終わった瞬間。


親父の語る、あまりにも規格外で、そしてレオ陛下の深い愛情に満ちた真実を前に、若者たちの顔から、さっきまでの軽薄な怒りは完全に消え去っていた。


酒場にいる全員が、自分たちがどれほど恐ろしい死の淵に立たされていたか。


そして、自分たちが能天気に文句を言っている裏で、どれほど壮絶な戦いが繰り広げられていたかを痛感し、打ちのめされていた。


「……俺たちは」


先程まで俺の育てたキャラがパァになったとテーブルを叩いていた若者が、青ざめた顔でガタガタと両足の震えを堪えきれず、掠れた声で呟いた。


それは、安い感動劇に対する演技がかった涙などではない。


自分たちが、文字通り死の淵に立たされていたこと。自分たちが自然の美しさに感動していた純粋な心が、愛するタイタンを滅ぼし、陛下を暗殺するための巨大なテロの養分として利用されていたという、背筋が凍るような絶望から来る声だった。


「俺たちは……自分が無知な消費者としてテロリストの盾にされ、洗脳されかけていたことも知らずに……文句を言って……っ! それどころか、また偽物の世界に魂を売り渡そうとしていたんだ……!」


若者の目から、とめどなく後悔と恐怖の感情が溢れ出す。


「俺たちの命を救うために……陛下は、あんな狂った次元崩壊のど真ん中に飛び込んで、俺たちのために、システムの海の中で泥水すすって戦ってくれていたのに……!!」


若者たちが次々とテーブルに突っ伏し、自分たちの浅はかさと無知を激しく恥じて、子供のように声を殺して深刻に号泣し始めた。


彼らの目には、レオの姿が、タイタン市民の純粋な憧れを弄んだ巨大な悪のシステムに対し、泥臭い石ころ一つで完璧な箱庭を打ち砕き、自分たちを再び現実世界へと引き戻してくれた、完全無欠の救世主として映っていた。


「五年前もそうだった……。俺たちが無知で孤独な家の中に引きこもって、偽物の酒を飲んでいた時、陛下は誰よりも先に行動し、俺たちにこのリアルな繋がりの尊さを教えてくれた……!」


金髪の若者が、ガタガタと震える足で必必死に立ち上がり、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を乱暴に拭い、テーブルの上にあった分厚いガラスのジョッキを、両手でしっかりと握りしめて立ち上がった。


その目には、死の恐怖を乗り越え、真実に辿り着いた揺るぎない覚悟と忠誠の炎が宿っていた。


「バーチャルの作り物の風や景色なんて、もういらねえ! そんなもので洗脳されるくらいなら、俺は一生、この酒場のむせ返るような熱気の中で生きていく!」


若者の声は、恐怖を乗り越えた静かで、だが確固たる決意に満ちていた。


「どんなに仮想空間が綺麗でも、誰かの悪意でいつでも命を奪われるような完璧な箱庭より……陛下が守ってくれたこのリアルの世界の方が、隣で笑い合える仲間の体温の方が、何万倍も美しくて尊いんだ!! 俺は一生、陛下についていく!!」


若者たちが一斉にガタッと立ち上がり、それぞれのジョッキを天井に向けて高々と突き上げた。


「偽物の自然を叩き割り、俺たちを再びリアルの温もりに連れ戻してくれた、太陽系の真の親であるレオ様に!!」


「「「乾杯ぃっっっっっっつ!!!」」」


カンッ!! カンッ!! ガシャァァァンッ!!


無数の分厚いガラスジョッキが、割れるほどの勢いで激しくぶつかり合う音が、酒場の中に雷鳴のように轟いた。


黄金色の麦酒の泡が宙を舞い、人々の死の恐怖から生還した熱い歓声と、心の底からの深い感謝の念が、木造の酒場を激しく揺るがす。


誰もが、レオの底知れぬ叡智と、タイタン市民を包み込む深い愛情に酔いしれ、肩を組んで歌い、笑い合っていた。


外の無機質なドーム都市の冷たさなど微塵も感じさせないほど、その夜のタイタン中の酒場や食堂は、人と人が繋がり合う命の熱気と、絶対的な忠誠の炎で、いつまでも熱く燃え上がっていたのである。

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